2013/07/28

七月花形大歌舞伎

歌舞伎座新開場の柿葺落公演も三部制の三ヶ月を終え、通常(?)の公演パターンとなりました。これまではベテラン勢中心の公演でしたが、今月はこれからの歌舞伎を担う若手役者による花形歌舞伎。昼の部は『加賀見山再岩藤』、夜の部は『東海道四谷怪談』。いずれも幽霊が登場する夏らしい狂言になります。

まずは昼の部『加賀見山再岩藤』。通称『骨寄せの岩藤』。
ここ最近は澤瀉屋での上演が続いていますが、音羽屋型での上演は久しぶりとのこと。五代目菊五郎の当たり役として人気狂言となり、その後も五代目の養子・六代目梅幸、六代目菊五郎と引き継がれたといいます。平成2年には当代菊五郎も岩藤と又助の二役を演じてます。

本公演ではその岩藤と又助の二役を松緑が引き継ぎました。要の役で大健闘のなのですが、何ぶん主役の存在感に欠けるというか、巧い人なんですが、もう少し何か欲しいところ。大きさなのか華なのか。亡霊の恐さもいま一つ。もっとねっちり演じても良かったのではないでしょうか。それとこれは演出の問題でもあるけれど、全体にゆったりとして緊迫感に欠け、“ふわふわ”も盛り上がらなかったのが残念。

菊之助と染五郎もそれぞれ二役。二人とも安定した演技で、安心して観られるのですが、もう少し二役の演じ分けがくっきりしていてもいいのではないかと思いました。菊之助の二代目尾上がしっとりと演じ、さすがなのですが、お柳の方との違いがもっとはっきりした方が良かったかもしれません。周りには同一人物と思っていた人もいたみたい。

愛之助の望月弾正は悪の魅力が引き立ち、さすがのインパクト。梅枝のおつゆ、松也の求女がともにニンにあった役で好演。玉太郎も琴の演奏も見事に披露し敢闘賞もの。奥女中の廣松もなかなかいい味を出していて、今後の活躍に期待がもてます。壱太郎の梅の方ももうひと工夫欲しいところですが、若くして正室の雰囲気があって印象は良かったと思います。

夜の部は『東海道四谷怪談』。
四代目鶴屋南北による『東海道四谷怪談』の初演(文政8年(1825))が実は三代目菊五郎なのだそうです。三代目はお岩・小平・与茂七の三役を早替りで演じたといいます。今回は菊之助がお岩と与茂七の二役を務めます。

その菊之助のお岩さんの完成度の高さ。菊之助らしいリアリズムの演技で真に迫った等身大の女性を創り上げています。口跡の美しさもあって、格式と品の良さが見え、もとは武家の娘であるということが伝わってきます。だまされた女の悲劇、哀しさというものがひしひしと伝わってくるお岩さんでした。一昨年の勘九郎のお岩さんとは明らかにアプローチが異なり、どちらがいいというのは難しいところですが、勘九郎の方がお岩さんの悲劇性が前に出て、より心情に訴えてきた気がします。勘九郎はどちらかというと芝居として創り上げられたお岩さんで、菊之助は本当のお岩さんはこういう女性だったのだろうというリアルさがあったような気がします。

染五郎の伊右衛門も良く練られていて、一昨年の海老蔵とはまた異なる悪の華を見せてくれます。海老蔵のような目先の欲に囚われた、行き当たりばったり的な悪さではなく、仕組んで女を騙す非情さというものが感じられます。この伊右衛門はお岩さんに愛情など端からはなかったんだろうなと思わせます。本公演では、30年ぶりに「蛍狩りの場」という幻想的な舞踊の一幕があり、これは菊之助と染五郎だからできたものだろうなと感じました。

市蔵の宅悦、小山三のおいろ、錦吾の四谷左門、萬次郎のお弓、歌女之丞の乳母など、ベテラン勢が脇をしっかりと締め、安定感のある芝居に仕上がっていたと思います。小山三丈は元気で何よりですが、意外と出番が多く、あちこち歩き回るもんだから、見てて少しハラハラしました(笑)

ただ、これは演出上の問題か、正攻法の音羽屋型だからか、わたしが観たのがまだ3日目だったのでしょうがないのか分かりませんが、全体的に少し慎重というか、テンポがいまひとつでした。髪梳きとか戸板返し、提灯抜けみたいな仕掛けはやはり中村屋は見せ方が上手かったなと思います。中村屋型はもっとおどろおどろしく、怪談としての怖さ(面白さ)がありましたが、今回の芝居はドラマ性が高く、少しあっさりしすぎていたかもしれません。

昼の部も夜の部も共通しての感想なのですが、みんな真面目に取り組んでいるのはいいのですが、まだ探り探りなところがあり、少し優等生過ぎて、カッチリ演じすぎている嫌いがありました。これが自分の役として変貌を遂げたとき、見ものになるのでしょう。それを楽しみにしたいと思います。

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