2012/09/29

近江路の神と仏 名宝展

三井記念美術館で開催中の『近江路の神と仏 名宝展』に行ってきました。

隣の京都や奈良に比べて、じみ~な印象のある近江ですが、かつて天智天皇により近江宮(大津宮)として都が置かれたように、古くから開け、宗教を基盤とした文化が根付いた土地でした。

近江の古社寺に伝えられた秘仏や名宝がここまで一堂に会した展覧会は、東京では初めてだそうです。延暦寺、園城寺(三井寺)、石山寺など42の社寺から、仏像、神像、仏画、垂迹画、絵巻物、経巻、工芸品など、国宝6点、重要文化財56点、滋賀県指定文化財21点を含む約100点の名宝が出品されています。

会場に入ると、まずは奈良時代の仏像がお出迎え。

近江で最も古い仏像は飛鳥時代のもので、石山寺の本尊如意輪観音像の体内に厨子に納められていた小金銅仏の内の一体の如来立像だそうです。その次の時代にあたる白鳳・天平時代のもので現存するものは数例を数えるに過ぎないとのことですが、本展にはその白鳳・天平の貴重な仏像の内、3体が展示されています。

「誕生釈迦仏立像」(重要文化財)
奈良時代 善水寺蔵

善水寺の「誕生釈迦仏立像」は8世紀後半の作とされ、奇跡的にも鍍金がきれいに残っています。同じコーナーに展示されていた報恩寺の「観世音菩薩立像」はさらに古く、7世紀の作と考えられ、トーハクの法隆寺宝物館に展示されている金銅仏のような神秘的な仏像でした。

<展示室1>には、ほかに平安・鎌倉時代の華鬘や梵音具、密教法具などの仏教金工品が展示されています。

「金銅経箱」(国宝)
平安時代 長元4年(1031年) 延暦寺蔵

<展示室2>には、延暦寺に伝わる国宝「金銅経箱」が展示されていました。藤原道長の娘・藤原彰子(上東門院)が書写した法華経を入れた経箱といわれ、大正時代に発掘されたものだそうです。平安時代の金工品の最高傑作といわれているだけあり、1000年以上前のものとは思えないほど細緻で美しい作品でした。

「如意輪観音半跏像」(重要文化財)
平安時代 石山寺蔵

三井記念美術館で一番広いスペースの<展示室4>は仏像のコーナー。ずらりと並ぶ21体(展示期間によって異なります)の仏像はまさに圧巻。ちょっと窮屈そうなぐらいです。仏さま、わざわざ東京にまで来ていただいたのに、狭い思いをさせてすいません。

展示室はコの字型になっていて、まず石山寺の焼失した旧本尊の御前立尊と伝えられる「如意輪観音半跏像」や、インドのシヴァ神の化身である戦闘神のイメージを反映した“武装大黒天”の最古の作例とされる明寿院の「大黒天半跏像」(展示は10/28まで)などが並びます。

「十一面観音立像」(重要文化財)
平安時代 飯道寺蔵

「千手観音立像」(重要文化財)
平安時代 葛川明王院蔵

近江の仏像といえば、白洲正子や井上靖らの著作でも紹介された近江の観音信仰による十一面観音菩薩像が有名ですが、本展ではそうした仏像の中から4体の十一面観音立像が展示されています。いずれも一本造りの素朴な雰囲気の仏像で、ふっくらとした柔和な顔立ちが印象的です。やはりこうした地元に根付いた仏像は現地で観ることができれば最高でしょうね。

その隣には、葛川明王院の「千手観音立像」が。面差しは穏やかで、体躯は量感豊か。都風の洗練された千手観音像とは少し違って、優美さの中にも親しみやすさを感じる仏像でした。

栄快 「地蔵菩薩立像」(重要文化財)
鎌倉時代 延長6年(1254年) 長命寺蔵

本展での一番の(個人的な)オススメがこの栄快の「地蔵菩薩立像」。表情は厳しいながらも凛としていて、また衣文も柔らかく写実的で、全体的にスマートで美しい地蔵菩薩です。放射光背や左手にのせた水晶の宝珠も造像当時のものとのこと。栄快の詳細は不明ですが、快慶の弟子筋にあたる慶派仏師の一人と考えられていて、東大寺でも地蔵菩薩立像を造像していることが記録から分かっていますが、現存するものは本像のみということでした。

「薬師如来坐像」(重要文化財)
鎌倉時代 西教寺 (展示は10/28まで)

大津・西教寺の秘仏とされる「薬師如来坐像」も本展の見ものの一つ。もともとは白河天皇が建立した京都の法勝寺に祀られていたものと伝えられているそうで、鎌倉時代初期の慶派仏師の手になる作品と考えられていて、運慶あるいはその周辺で造られた可能性が指摘されています。安定感のあるしっかりとした体躯の坐像に、厳かな面差しと流麗な衣文線。静かで落ち着いた中にも深みを感じさせる仏像です。

快慶 「大日如来坐像」(重要文化財)
鎌倉時代 石山寺蔵

石山寺の多宝塔の本尊として安置されている「大日如来坐像」は快慶初期の作例とのこと。均整のとれた美しいプロポーション、細部まで行き届いた造形美、高く結い上げた印象的な宝髻と肩にかかった髪。さすが快慶と思わずにはいられない見事な仏像です。

「女神坐像」(重要文化財)
平安時代 建部大社蔵

<展示室5>には、男神像と女神像が展示されています。神像は神道における“神”をかたどったもの。「女神坐像」は古代の神というより、まるで貴族の女性の姿のようで、着物の袖で口を隠す様子に女性らしい上品さが感じられます。

土佐光茂 「桑実寺縁起」(重要文化財)
室町時代 桑実寺像

同じスペースには、天智天皇の第四皇女・阿閇姫(のちの元明天皇)の病気平癒を祈願して建立したと伝えられる桑実寺の起源や霊験を表した絵巻「桑実寺縁起」と、県指定文化財の「紺神金字妙法蓮華経」も展示されています。

「如意輪観音像」(重要文化財)
鎌倉時代 法蔵寺蔵 (展示は9/30まで)

<展示室7>は、仏教画や垂迹画など全39幅が三期に分けて展示されます。ということは1回観に行っただけでは13幅しか観られないんですね…。自分が伺った前期展示(9/30まで)の中では、聖衆来迎寺の「六道絵」(畜生道図)や法蔵寺の「如意輪観音像」、園城寺の「多聞天像」、浄厳院の「阿弥陀聖衆来迎図」が特に印象に残りました。

とりわけ国宝「六道絵」の内の「畜生道図」には、こき使われる牛馬や鵜飼、闘鶏など畜生たちの苦しみが描かれていて、猟師が猪を追い、猪は蛇を捕え、蛇は蛙を押さえ、猟師の背後に鬼が忍び寄るといった描写には、人間も償いや感謝の気持ちを忘れると畜生に落ちるぞと戒めているようです。「六道絵」は全15幅からなり、本展ではその内の「畜生道図」「譬喩経説話図」「等活地獄図」の3幅が三期に分けて展示されます。これだけでもかなりの見ものです。

地味とはいえ、近江仏や仏教絵画の優品が揃っており、展示替えのことを考えると、一回だけでは観たりない感があり、また足を運びたいと思います。


【琵琶湖をめぐる近江路の神と仏 名宝展】
2012年11月25日(日)まで
三井記念美術館にて


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