恥ずかしながら、礒江毅(イソエ ツヨシ)という方を自分は知らず、この展覧会もノーマークでした。Twitterなどでその評判の良さを知り、家からも近いし、観覧料も安い(500円!)ので、とりあえず観てみようと軽い気分で伺ったのですが、想像以上の素晴らしさにただただ感動。とりあえず、今年の暫定一位です。
礒江毅は大阪の出身で、大阪市立工芸高等学校を卒業後まもなく単身でスペインに渡り、30年余りの長きにわたる滞西の間に油彩による写実絵画を探求したという方。スペインにはアントニオ・ロペス・ガルシアに代表されるリアリズム絵画の流れがあり、礒江毅もマドリード・リアリズムの俊英画家として高い評価を受けていたそうです。晩年は、スペインと日本を行ったり来たりしながら活動していたようですが、2007年に53歳で惜しくも急逝。本展覧会は、死後初めての本格的な回顧展となります。
さすが写実画のスペシャリストだけあり、どの作品もまるで写真を観ているようなリアルさ。でも、単なるリアルな写実画と違って、写実を超えた質感というか、具象以上の生々しさというか、静物画より静謐というか、リアリズムを超越した独特の存在感、さらには精神的なもの、神秘的なものすら感じます。
「裸婦(シーツの上の裸婦)」(1983年)
なんでしょう、この肌の透明感、シーツの質感。すでに習熟し、完成された写実画ですが、これがまだ30歳前の作品というのだから驚きです。
「新聞紙の上の裸婦」(1993-94年)
「新聞紙の上の裸婦」は鉛筆と水彩で描かれたものですが、さすがに新聞紙は写真かプリントだろうと、単眼鏡で覗いたら、ちゃんと鉛筆で細密に描いていました。細かな文字は模様化して描いてありましたが、少し大きな文字はすべて手書き。文字をそろえるための下書きの線もかすかに残ってました。恐るべしリアリズム!
「深い眠り」(1994-95年)
礒江毅の傑作のひとつ、「深い眠り」も紙に鉛筆、水彩、墨で描いたもの。女性が浮いているような不思議な構図ですが、その皺や肉のたるみ、筋肉の緊張と弛緩の具合の再現力の素晴らしさたるや、女性が生きてきた年月の片鱗までも感じ取れるようで、観ていてゾクゾクしてしまいました。
会場には礒江毅の写生画の数々も展示されていましたが、これだけの写実性を持った方だけあって、ただのドローイングというより、どれも完成度が高く、最早習作ではなく一枚の完成された絵画のようでした。
ドローイングの中に扉が半分開いた室内画があったのですが、なんとなくハンマースホイを思い起こさせました。礒江毅の作品から得る静かな感動は、系統は異なりますが、ハンマースホイを観たときに感じたものに近いものだという気がしました。
「静物(柘榴と葡萄とスプーン)」 (1994年)
「サンチェス・コタンの静物(盆の上のアザミとラディッシュ)」(2000-01年)
一般的にあまり知られていない画家だと思いますが、非常に印象に残る展覧会でした。観覧料も格安。iPhoneアプリの“ミューぽん”を使うとさらに100円割引になります。この夏、お勧めの展覧会です。
なお本展は、残念ですが図録の販売がなく、代わりに既刊の作品集が販売されています。
「鰯」(2007年)
【特別展 磯江毅=グスタボ・イソエ マドリード・リアリズムの異才】
練馬区立美術館にて
2011年10月2日(日)まで
磯江毅 写実考──Gustavo ISOE's Works 1974-2007
美術の窓 2011年 08月号 [雑誌]
お世話になっておまります。
返信削除TBありがとうございました~
>Takさん
返信削除こちらこそお返事ありがとうございます。
またTBさせていただきます!