2019/05/01

尾形光琳の燕子花図

根津美術館で開催中の『特別展 尾形光琳の燕子花図』を観てきました。

今年もカキツバタの季節がやってきました。毎年観てるとはいえ、やはり観に行かずにはいられないのが、この時季恒例の光琳の「燕子花図屏風」の展示と庭園のカキツバタ。

ここ数日天候がいまひとつで、ゴールデンウィークとは思えない寒さだったりしたこともあってか、庭園のカキツバタの開花は少し遅れ気味。去年のちょうど同じ日はカキツバタが満開でしたが、今年はあともうちょっとというところでした。

さて、今年は展覧会のタイトルがダイレクト。天皇陛下の譲位と新天皇の即位というお祝いムードの中での「燕子花図屏風」の公開ということもあってか、<寿ぎの江戸絵画>というテーマで、平和な時代が長く続いた江戸時代の文化や風俗に触れつつ、光琳の「燕子花図屏風」を紹介しています。


本展の構成は以下のとおりです。
第1章 王朝文化への憧れ
第2章 草花を愛でる
第3章 名所と人の営みを寿ぐ

最初に登場するのが、京狩野の家系に生まれるも復古大和絵を志した冷泉為恭。「小松引図」は平安時代の長寿を願う宮廷の遊びで、門松の由来ともいわれる「小松引き」を描いた作品。お正月にでも飾ったのでしょうか、品良くまとめられています。

同じく復古大和絵として、江戸時代初期の王朝文化復興の流れの中で隆盛した住吉派による作品がいくつかあって、印象的だったのは住吉派2代目具慶の「源氏物語図屏風」。右隻に源氏の四十賀の場面、左隻に紫の上と住吉神社を詣でる場面で、住吉派らしい衣装などの緻密な描写が素晴らしいのは言うまでもないのですが、王朝風俗が物語性も豊かに描かれていて、さすが具慶と思わせます。屏風に貼られた『源氏物語』が書かれた色紙がまた雅やかな雰囲気を演出しています。

公家や僧侶が蹴鞠をして遊ぶ「桜下蹴鞠図屏風」も興味深い作品。俵屋宗達、もしくはその工房で制作されたと考えられているというもので、人物の描き方や、樹木の造形、水際の曲線など確かに宗達に近いものを感じさせます。人物のちょっとユーモラスな表情もユニーク。

尾形光琳 「燕子花図屏風」(国宝)
江戸時代・18世紀 根津美術館蔵

そして「燕子花図屏風」。70種の春夏秋冬の草花がびっしり描かれた伊年印の「四季草花図屏風」、宗達の後継者といわれる喜多川相説もしくは工房の作とされている「草花図屏風」、写実過ぎるので弟子の渡辺始興の関与説もあるという光琳の「夏草図屏風」といった色鮮やかな花々が描かれた草花図屏風に挟まれた形で今年は展示されていて華やか。

印象的だったのは円山応挙の高弟・山口素絢の「草花図襖」で、秋海棠や葉鶏頭、桔梗など秋の草花が描かれていて、筆致は確かに円山派なのですが、その装飾性の高さは琳派の影響を感じさせます。

新古今和歌集の和歌を揮毫した光琳の父・尾形宗謙の書があったのですが、光悦流の書に長じた人というだけあり大変流麗で見事。光琳の感性や美意識はこうした恵まれた環境で育まれたものなのだなと感じます。


「伊勢参宮図屏風」 江戸時代・17世紀
右隻(上):名古屋市博物館、左隻(下):根津美術館蔵

展示室3には洛中洛外図と伊勢参宮図が展示されています。まず八曲一双という大きな「洛中洛外図屏風」が素晴らしい。祇園祭で賑わう都の町民から公家や僧侶、南蛮人まで人々の様子が生き生きとしていて、牛や馬も墨の濃淡で丁寧に描かれています。胡粉で雲型に盛り上げ金箔を施した金雲がまた装飾的でとても豪華。

伊勢神宮への参詣風景を描いた伊勢参宮図が2点。一つはこれまで根津美術館と名古屋市博物館に分かれて所蔵されていた「伊勢参宮図屏風」。最近になって対を成す屏風だということが分かったそうで、制作は江戸前期、伊勢参宮図では国内最古のものだそうです。右隻には宮川の渡しから外宮へ至る賑やかな門前町が、左隻には伊勢神宮の内宮や宇治橋、古市の様子などが描かれています。″お杉お玉″と呼ばれる女性二人の三味線弾きや五十鈴川で賽銭を投げる参拝者など伊勢の風俗も興味深い。山並や木々の描き方を見ると、恐らくやまと絵の絵師によるものなのだろうなと思います。

もう一つは根津美術館所蔵の「伊勢参宮道中図屏風」。こちらは京都の蹴上から大津、近江八幡、草津、津などを巡って、伊勢に至るという壮大な道中図で、三井寺や石山寺、古市や二見浦など、周辺の観光スポット、また大津絵を売る店やところてんを売る店、店先で焼いた魚や蛸を売る店など、沿道の賑わいもいろいろ描かれていて、旅の楽しさが伝わってきます。


【特別展 尾形光琳の燕子花図 寿ぎの江戸絵画】
2019年5月12日(日)まで
根津美術館にて

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