2019/05/14

大徳寺龍光院 国宝曜変天目と破草鞋

世界に3椀しか現存せず、その3椀とも日本にあり、しかもいずれも国宝という曜変天目茶碗。唯一未見だった大徳寺龍光院所蔵の「曜変天目」を観にMIHO MUSEUMの『大徳寺龍光院 国宝曜変天目と破草鞋』に行ってきました。

名刹・大徳寺の塔頭のひとつ、龍光院は通常非公開のお寺で、「曜変天目」(通称「龍光院天目)も滅多に表に出てこない秘宝中の秘宝。これまで静嘉堂文庫美術館の徳川将軍家旧蔵の「曜変天目」(通称「稲葉天目」)と藤田美術館の水戸徳川家旧蔵の「曜変天目」(通称「水戸天目」)は拝見しているのですが、大徳寺龍光院の「曜変天目」だけは観る機会に恵まれず、2年前の京博の『国宝展』で約15年ぶりに公開され話題になったときもタイミングが合わず、これはもう縁がなかったものと諦めていました。

それが今回、夢のような3椀同時公開。3椀は全部観て回れなくても、鑑賞の機会が一番稀な「龍光院天目」の公開というこのチャンスを逃す手はありません。

実はMIHO MUSEUMも初めて。これまでも何度か計画を立てたものの、場所の不便さからなかなか訪ねられずにいました。最寄りの石山駅までは京都駅からJRで15分ぐらいなので割とすぐなのですが、そこからが遠い。1時間に1本の路線バスで約50分。山道を延々と進み、やっとのことでMIHO MUSEUMに辿り着きました。

 午後になっても雲一つなく天気は最高の高!

こんな山奥になんでここまで人がいるのかというぐらい混んでいて、午前中は「曜変天目」を観るのに1時間待ちの行列ができるのだそうです。会場の北館に着いたとき(15時過ぎ)は北館の会場出口まで列ができていたので、先に常設展示を観て回ることに。展示はエジプト、ギリシャ、ローマからアジア、中国までの古代の陶磁器や彫像などが中心でしたが、入口には4点目の曜変天目ともいわれる前田家伝来の「耀変天目」(重要文化財)が展示されていました。こちらはなぜか列もなく、完全に独占で鑑賞。

帰りのバスまで2時間しかないので常設はさーっと観て回り、15時20分ごろ再び北館の会場へ。「曜変天目」の列は少し短くなっていて、結局並んだのは10分ぐらいでしょうか。10人ぐらいずつに分けられ、1分間だけ「曜変天目」を鑑賞することができます。

「曜変天目」
南宋時代・12~13世紀 大徳寺龍光院蔵

展示ケースは360度ぐるりと観られるようになっていて、時計回りに左から見込みを覗いたり、腰を落とし高台を観たり、黒い釉薬に浮かぶ大小の斑紋の光彩を単眼鏡で見入ったり、皆さん思い思いに「曜変天目」を見つめています。

大徳寺龍光院の「曜変天目」は他の2椀ほどの煌びやかさはありませんでしたが、枯淡な味わいは他にはない個性。静嘉堂文庫美術館や藤田美術館の「曜変天目」が万華鏡のような宇宙の世界だとすれば、大徳寺龍光院の「曜変天目」は静謐の宇宙、幽玄の宇宙といった表現が相応しい気がします。

「曜変天目」以外の出品作ももちろん素晴らしい。「曜変天目」の少し先には銀色に輝く油滴の斑紋が美しい「油滴天目」(重要文化財)も展示されていました。「油滴天目」は小堀遠州が選んだ中興名物とのことで、他にも小堀遠州にまつわる品や松花堂昭乗の書や画、狩野探幽の画や野々村仁静の茶入れなど寛永文化を伝えるものが多くあります。

伝・牧谿 「柿・栗図」
南宋時代・13世紀 大徳寺龍光院蔵(展示は4/9~5/6のみ)

ここまで寛永を中心にした名品が充実しているのは、時の大徳寺住持・江月宗玩が堺の豪商で茶人として知られる津田宗及の子であることが大きい様子。津田家伝来の伝・牧谿の「柿・栗図」や宗玩が箱書きした因陀羅の「五祖再来図」、馬遠と伝わる「山水図」、顔輝と伝わる「十六羅漢図」や「四睡図」があったり、雲谷等顔や長谷川等伯があったり、宋元中国画から江戸初期の日本美術まで優品がずらり。

宗玩の書状と千利休が所持した名物・大井戸茶碗を床の間を意識した風情で見せたり、遠州好みと伝えられる茶室・密庵での茶の湯の様子が映像で流れていたり、展示室によって照明の具合を工夫していたり、展示にいろいろ工夫を凝らしているのも良かったです。

会場をひと通り観て回ったあと、「曜変天目」の列がさらに短くなっていたので(結局5分も待たなかったはず)、もう1回観て、帰る間際にも観て、都合3回ほど「曜変天目」を鑑賞しました。館内は人は多かったですが、観るのに困ることはなく、あまり並ばずに「曜変天目」を鑑賞できたのは幸いでした。

展覧会のタイトルの<破草鞋>とは破れた草鞋、つまり役に立たない無用のもののたとえなのだといいます。入口の紹介文には「値段などつけられない、誰も買うことのできないほど、素晴らしいもの」と書かれていました。まさしく値段を考えるなど野暮なことで、歴史ある龍光院にあってこその素晴らしい名品ばかり。ほんと眼福でした。


【大徳寺龍光院 国宝曜変天目と破草鞋】
2019年5月19日(日)まで
MIHO MUSEUMにて


BRUTUS(ブルータス) 2019年5/1号No.891[曜変天目 宇宙でござる! ?]BRUTUS(ブルータス) 2019年5/1号No.891[曜変天目 宇宙でござる! ?]

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