2017/03/11

日本画の教科書 東京編

山種美術館で開催中の『日本画の教科書 東京編 -大観、春草から土牛、魁夷へ』を観てまいりました。

前回展の『日本画の教科書 京都編』につづく“東京編”。“京都編”に行けなかったのが返す返すも残念なのですが、“東京編”も“山種コレクション名品選”と銘打つだけあり、錚々たる画家の優品が並びます。

東京画壇の中心は東京美術学校であり、日本美術院であり、文展であり、院展であり、いわば日本画の近代化の中で重要な役割を果たしたところ。東京画壇は近代日本画のメインストリームと言ってしまっていいかもしれません。

作品は明治から戦後まで幅広くあって、何度か観ている作品も多いのですが、個人的に初見の作品も結構ありました。年に何度も足を運んでいても、まだまだ初めて観る作品があるし、来るたびに新しい発見があります。


会場の入ってすぐのところには松岡映丘の「春光春衣」。比較的大きな掛軸の画面をいっぱいに使った、雅やかで華やかな春の光景が目を惹きます。王朝絵巻をトリミングしたような大胆な構図も印象的。映丘らしい美的世界にうっとりします。近くに展示されていた映丘の「山科の宿」もまた見事。『今昔物語』の「斉藤内大臣語」に取材したもので、自然や建物は淡い色彩なのに対し、人物はやや濃いめに描かれていて、人物描写がより引き立っている感じがします。

松岡映丘 「春光春衣」
大正6年(1917) 山種美術館蔵

小堀鞆音 「那須宗隆射扇図」
明治23年(1890) 山種美術館蔵

明治中期に急速な欧化主義の反動として見直された歴史画。橋本雅邦と小堀鞆音が紹介されています。鞆音の「那須宗隆射扇図」は弓の達人・那須与一が源平合戦で平家方の舟の上の扇の的を射落すという有名な逸話を描いた作品。近景と遠景を大胆に描き分けた構図が斬新で、雄々しさと躍動感が画面から伝わってきてカッコいい。

菱田春草 「月四題より『春』『秋』」
明治42-43年(1909-10) 山種美術館蔵

大観、春草らの日本美術院の画家を取り上げた展覧会はここ山種美術館でもたびたび開催されていますが、今回展示されている中で典型的な朦朧体は春草の「月四題」と「釣帰」ぐらい。大観も2点ありますが、いずれも昭和に入ってからのもの。今村紫紅の「大原の女」は建礼門院を描いた作品。背景のすすき野の描写は琳派を参考にしているのでしょうか。青々とした色合いは南国の草のようにも見えます。下村観山は代表作の「老松白藤」。堂々とした松は男性、寄り添うように松に這う藤は女性を表しているのだとか。

西郷弧月 「台湾風景」
明治45年(1912) 山種美術館蔵

大観・観山・春草と並び四天王と呼ばれた西郷孤月の「台湾風景」は初めて観ました。どちらかというと水墨画で、繊細な空気感の表現に長けた画家というイメージがあったのですが、こういう絵も描いていたのですね。解説によると亡くなる直前に描いた最期の作品の一枚だそうです。

渡辺省亭 「月に千鳥」
20世紀(明治~大正時代) 山種美術館蔵

最近名前を聞くことの多い渡辺省亭の作品も。「葡萄」は籠の外に落ちたのか落とされたのか、ネズミがブドウを食べようとする様が面白い。「月に千鳥」は三幅対の1枚(他の二幅の展示は今回なし)。月夜の静謐さと千鳥の悠然とした姿が何ともいえません。


小林古径 「清姫より『日高川』『鐘巻』」
昭和5年(1930) 山種美術館蔵

古径の「清姫」がまた素晴らしい。能楽や歌舞伎などの“道成寺物”としてもよく知られる安珍・清姫伝説を描いた8点から成る作品で、本展ではその内4点が出品されています。「日高川」は蛇体と化した清姫が日高川へ飛び込む場面。「鐘巻」は「道成寺」のクライマックス。筆致も古径らしく、幻想的な世界に引き込まれます。

落合朗風 「エバ」
大正8年(1919) 山種美術館蔵

今回とても印象に残ったのが『旧約聖書』の「創世記」を題材にしたという落合朗風の「エバ」。大正時代にしてはかなり革新的な日本画という感じがします。実際、発表当時もセンセーショナルな作品として物議を醸したのだそうです。本展の出品作で同時代の作品に映丘の「春光春衣」がありますが、復古やまと絵とアンリ・ルソー風の新時代的な日本画がほぼ同じ時代に描かれていたというのも興味深かったです。実は本展と同日に拝見した野間記念館の『色紙「十二ヶ月図」の美世界展』にも落合朗風の作品があって、そちらと趣きが異なるのも驚きでした。

川合玉堂 「早乙女」
昭和20年(1945) 山種美術館蔵

戦後の作品では、横山操の「越後十景」(内2点のみ展示)が印象的でした。瀟湘八景を翻案したもので、墨の濃淡だけでなく、胡粉や金銀泥を効果的に使用し、独特の絵造りに成功しています。

そのほか明治から戦前にかけての作品では、川合玉堂の「早乙女」や速水御舟の「昆虫二題」、荒木十畝の「四季花鳥」、戦後では前田青邨の「大物浦」、奥村土牛の「鳴門」、片岡球子の「鳥文斎栄之」、小倉遊亀の「涼」など、さらには先日まで久しぶりの回顧展があったばかりの加山又造など、好きな作品を挙げたら切りがないのですが、山種美術館が誇る名品選に相応しい内容になっていました。

奥村土牛 「鳴門」
昭和34年(1959) 山種美術館蔵

本展は4月16日まで続くので、桜が描かれた作品など春を感じる作品もいくつかありました。美しい日本画を愛で、ひと足早い春を愉しむ。これからの季節にちょうどいい展覧会だと思います。


  
山種美術館といえば日本画にちなんだ和菓子をいただける≪Cafe 椿≫。今回は、源平屋島合戦を描いた小堀鞆音の「那須宗隆射扇図」をイメージした「かぶや矢」をいただきました。中が胡麻あんで美味しかったです。


【開館50周年記念特別展 山種コレクション名品選Ⅳ 日本画の教科書 東京編 -大観、春草から土牛、魁夷へ】
2017年4月16日(日) まで
山種美術館にて


渡辺省亭: 花鳥画の孤高なる輝き渡辺省亭: 花鳥画の孤高なる輝き

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