2017/03/05

加山又造展 生命の煌めき

日本橋高島屋で開催中の『生誕90年 加山又造展~生命の煌めき』を観てまいりました。

今回の展覧会は会期が短くわずか2週間。久しぶりの回顧展とあって、仕事帰りに寄ってきました。

加山又造単独の展覧会としては、おととし八王子市夢美術館で『加山又造 アトリエの記憶』がありましたが、都心部でまとまった形で作品が観られるのは2009年の国立新美術館の『加山又造展』以来ではないでしょうか。

加山又造は、かれこれ20年ぐらい前に東京国立近代美術館で観た「雪」「月」「花」の三部作に衝撃を受けてから戦後の日本画家では最も好きな画家で、国立新美術館の『加山又造展』では圧倒され感動しまくっていたのをよく覚えています。


会場はいくつかのテーマに分けて構成されています:
Ⅰ 動物~西欧との対峙
Ⅱ 伝統の発見
Ⅲ 生命賛歌
Ⅳ 伝統への回帰
Ⅴ 工芸

加山又造 「月と縞馬」
1954年 個人蔵

デパートの展覧会なので作品数は決して多くありませんが、それでも約70点。初期のキュビズムやシュルレアリスム風の作品から後期の琳派的な作品や裸婦画、水墨画まで、絵画だけでなく工芸や着物もあってコンパクトに良くまとまっていました。

会場の最初に展示されていた大きな六曲一双の屏風「夏の濤・冬の濤」にいきなり目が奪われます。「夏の濤」は後年の琳派風の波紋を思わせる波の意匠が印象的。「冬の濤」は荒れる波というより風のようにも見え、遠景に又造独特の冬の枯木の林が広がります。

活動初期にあたる50年代の作品が充実していて、この時代の特徴的な動物画が複数展示されています。 キュビズムや未来派、シュルレアリスムといった20世紀の芸術運動から、ルソーやミロ、ブリューゲルといった画家や果てはラスコーの壁画まで、幅広い西洋美術の影響を受けたその作品は最早日本画とは思えないほど。背景に戦後の日本画滅亡論があって創造芸術を目指していたことを考えると納得しますし、先日『日本におけるキュビズム』で観た戦後の日本の美術界のムーブメントとも重なり興味深く感じました。

加山又造 「蟹とレモン」
1955年頃 個人蔵

加山又造 「猫」
1972年頃 個人蔵

国立新美術館の『加山又造展』のときの図録を見る限り、おおかたの作品は重なりますが、何枚か出ていた愛猫を描いた絵や、「雪の朝」や「白雪の嶺」といった山の絵、野鳥の会の表紙絵原画、動物画の中でも10号サイズぐらいのキャンバスに描かれた作品などは個人的にも初めて観るものでした。特に「蟹とレモン」や「鳥とナイフ」、「ヒョウ」といった50年代のモノトーンの小品がとても良かった。

加山又造 「月光波濤」
1979年 イセ文化基金蔵

加山又造 「龍図」
1988年 光ミュージアム蔵

大型の屏風も多くて見応えがあります。又造の水墨の代表作「月光波濤」は東京会場のみの出品。エアブラシや噴霧器、琳派のたらし込みや染色の手法などを駆使し、夜の海の静けさと波の生き物のような躍動の瞬間を見事に表現しています。

「月光波濤」が長谷川等伯の「波濤図」(禅林寺)を意識したものとすれば、「龍図」は俵屋宗達の「雲龍図屏風」(フリーア美術館)を意識したもの。宗達の「雲龍図屏風」が白地に黒に対し、又造の「龍図」は金地に墨を重ねることで、墨の明暗と奔放で勢いのある表現がこれまでにない幻想的で力強い雲龍図を創り上げています。まるで暗黒の異界から龍が浮かび上がってくるようなカッコよさ。又造が手掛けた身延山久遠寺の本堂天井画のあとに制作したものだといいます。

加山又造 「倣北宋水墨山水雪景」
1989年 多摩美術大学美術館蔵

「倣北宋水墨山水雪景」は『加山又造 アトリエの記憶』でも拝見していますが、北宋山水画を手本にしながら、細密画のような微細な表現、明暗を活かした立体感、さまざまな技術を駆使した独自の世界はいつ観ても唸ります。

左隻に満開の桜、右隻に篝火を描いた「夜桜」も日本画の伝統を感じる華やかで幻想的なイメージの屏風。満開の桜は御舟も描いた和歌山・道成寺の入相桜を、篝火は御舟の「炎舞」に着想を得たものとか。御舟の影響を感じさせるものでは桜と炎を一枚に収めた「花篭」も印象的でした。

加山又造 「紅白梅」
1965年 個人蔵

加山又造といえば、琳派の意匠や画面構成を現代日本画の中に再現した代表格。尾形光琳の「紅白梅図屏風」をアレンジした「紅白梅」や、俵屋宗達の「三十六歌仙和歌巻」をベースに鶴を描いたいくつかの作品などがありました。「月と秋草」も宗達から抱一へ連なる月と秋草の意匠が印象的。大方を描き上げてから家族に意見を聞き、細部を調整して仕上げたというエピソードがいいですね。会場のところどころには、琳派の意匠の大皿や花瓶、振袖なども展示されていて華を添えています。

加山又造 「月と秋草」
1996年 奈良県立万葉文化館蔵

会期が短かったのが残念ですが、東京展のあと、瀬戸内市立美術館、新潟県立近代美術館、横浜高島屋、大阪高島屋、京都高島屋に巡回します。


【生誕90年 加山又造展 ~生命の煌めき】
2017年3月6日(月)まで
日本橋高島屋にて


加山又造 美 いのり (Art & words)加山又造 美 いのり (Art & words)

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