2015/11/21

村上華岳 -京都画壇の画家たち

山種美術館で開催中の『村上華岳 -京都画壇の画家たち』を観てまいりました。

昨年、重要文化財に指定された村上華岳の「裸婦図」が重文指定後の初お目見え。併せて華岳の代表的な作品をはじめ、同時代の京都画壇の画家の作品を展観していきます。

会場に入って、まず展示されているのが華岳の「墨牡丹之図」。構図としてはよくあるパターンですが、金地の上に墨の濃淡だけでなく、微妙な彩色を施し、牡丹の艶やかさとしっとりとした情緒感を出すことに成功しています。華岳の優れた画技がうかがえる逸品です。

つづいては京都画壇の画家の作品。こちらは、<先人と学友>と<京都画壇の女性表現>と二つに分かれています。いつもなら山種美術館の所蔵作品で構成されるところですが、今回は京都国立近代美術館など京都を中心とした美術館から作品を借り受けているのも見どころの一つでしょう。

村上華岳 「墨牡丹之図」
昭和5年(1930) 京都国立近代美術館蔵 (展示は11/23まで)

京都画壇の先人の作品としては、京都市立美術工芸学校で華岳を指導した竹内栖鳳や菊池芳文、山元春挙をはじめ、橋本関雪や今尾景年といった大御所の作品が並びます。西村五雲の作品が割とあったのですが、五雲といえばやはり「白熊」で、大きめの掛軸にデカデカと描かれる白熊はかなりの迫力。シロクマかわいいと思ってよく見ると、オットセイを押さえつけていて実は生々しかったりもします。五雲は栖鳳の弟子で、動物描写では師の栖鳳をも凌ぐといわれていたとか。栖鳳は人気の「班猫」も出品されています。

印象的だったのが菊池芳文の「桜花群鴉図」。桜とカラスの組み合わせが面白いですね。解説によると円山派では描き継がれた画題であるともいいます。都路華香の「帆舟」は以前にも観ていいなと思った作品ですが、今回一緒に並んでいた「萬相亭」がまたいい。南画風の柔らかなタッチで、人物描写もユニーク。独特の画風が目を惹きます。

西村五雲 「白熊」
明治40年(1907) 山種美術館蔵

<美工・絵専の学友たち>では、華岳の通った京都市立美術工芸学校、京都市立絵画専門学校の同窓の土田麦僊や小野竹喬、入江波光などの作品を展示。入江波光の作品を観る機会はとても少ないのですが、展示されていた「春雨」にしても「志ぐれ」にしても墨の微細な表現に優れ、なかなか趣き深く、とても印象に残りました。個人的には好きな土田麦僊が複数あったのも嬉しい。

土田麦僊 「香魚」
昭和元~11年(1926-36)頃 山種美術館蔵

土田麦僊 「髪」
明治44年(1911) 京都市立芸術大学芸術資料館蔵 (展示は11/23まで)

<京都画壇の女性表現>というテーマもあって、おなじみの上村松園や伊藤小坡に加え、借受品の土田麦僊の「髪」が印象的でした。甲斐庄楠音の「春宵」のデロリ感も好き嫌いは別として、大正期のデロリを代表する作品として興味深いものがあります。

甲斐庄楠音 「春宵」
大正10年(1921) 京都国立近代美術館蔵 (展示は11/23まで)

そして、村上華岳。展示室のスペースの関係で、会場は2つに分かれています。また、出品作が前後期で大きく入れ替わることもあり、『村上華岳』と名前を大きく銘打ってる割には実際に展示されている作品は10数点ほどと少なく、華岳目的で行くとちょっと物足らないかもしれません。華岳の展覧会は東京では恐らく久しぶりだと思うので、いろいろと事情はあるのでしょうが、こうした展示になったのは少々残念な気がします。

村上華岳 「驢馬に夏草」
明治41年(1908) さいたま市立漫画会館蔵

それでも作品としては興味深いものが多く、華岳が西洋画や琳派を意識した作品にも挑戦していたことも知ることができました。美術工芸学校時代の作品「驢馬に夏草」は師・栖鳳譲りの写実的な動物描写を受け継いでいて、その卓越した技術に見惚れます。

「裸婦図」は第2会場に展示されていて、下図も並んでいるので比較して観るといろいろなことに気づきます。裸婦の表情は本画の方が遥かに良いですし、下図には白鳥が描かれていたことにも驚きます。パネルの解説によると、華岳は当初ギリシャ神話の「レダと白鳥」を意識していたのではないかという話もあるようです。また華岳曰く“久遠の女性”である裸婦は、インド・アジャンター石窟壁画の菩薩像やダ・ヴィンチの「モナ・リザ」からの影響も指摘されています。その絵は観音菩薩のように神格化された存在でなく、現実の女性のように生々しくもなく、永遠に変わらない理想的な女性の姿がそこにあるように感じられます。「裸婦図」は華岳にとって一つの到達点だったのか、その後は生身の女性を描くことはなかったそうです。

村上華岳 「裸婦図」(重要文化財)
大正9年(1920) 山種美術館蔵

ちなみに、村上華岳にはもうひとつ重要文化財に指定されている作品があって、その「日高河清姫図」も東京国立近代美術館で現在公開(12/13まで)されています。この機会に一緒にご覧になられるといいと思いますよ。


【村上華岳 -京都画壇の画家たち】
2015年12月23日(水・祝)まで
山種美術館にて


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