2015/11/08

金銀の系譜 -宗達・光琳・抱一をめぐる美の世界-

静嘉堂文庫美術館で開催中の『金銀の系譜 -宗達・光琳・抱一をめぐる美の世界-』を観てまいりました。

2014年の4月から美術館・収蔵庫の設備更新工事のため休館していた静嘉堂文庫美術館が約1年半ぶりにリニューアルオープン。その記念展第一弾には、俵屋宗達や尾形光琳、酒井抱一ら琳派の名品を中心に、同時代の書画や工芸作品約40点が集められています。

我が家の隣りの区なのに1時間以上かかる不便な美術館。成城学園前からバスで行くものですから、吉沢のバス停で降りるのですが、だいたい道に迷うとか、遠回りするとか、いつもまともに辿り着けず。今回もバス停から逆方向に歩いていました。地図アプリ必携ですね…。ちなみに二子玉川からのバスは美術館の前まで行きます。


まず何はさておき、「曜変天目茶碗(稲葉天目)」。暗い室内ではなく、陽光差し込むラウンジに展示されていたのにビックリ。先日、サントリー美術館の『国宝 曜変天目茶碗と日本の美』で藤田美術館所蔵の曜変天目茶碗を観たばかりですが、小宇宙のようにきらめく神秘的な曜変天目も素晴らしかったのですが、陽の光を浴びて輝く曜変天目も格別です。そばには同じく重文の「油滴天目」も展示されています。

『曜変天目(「稲葉天目」)』(国宝)
南宋・12~13世紀  静嘉堂文庫美術館蔵

会場の入口には見事な光琳(伝)の「鶴鹿図屏風」。鶴と鹿に光琳的な特徴を余り感じなかったのですが、光琳の下絵に類例があるのだそうです。鮮やかな紅葉と桜が金地に映えます。

「草木摺絵新古今和歌集」はたっぷりと行間を取った光悦の流麗な書が美しい絵巻。下絵については宗達とも誰とも触れられていませんでしたが、琳派的な意匠の草花を配した金泥摺絵で、恐らく宗達に近い人の手に寄るものなのだろうなと思わせます。

松花堂昭乗 「勅撰集和歌屏風」
江戸時代・17世紀 静嘉堂文庫美術館蔵

ここでは光悦に加え、近衛信尹、松花堂昭乗の“寛永の三筆”が揃っているのも見もの。特に、やまと絵風のたおやかな山容を背景に金箔・銀箔を細かく散らし、昭乗の書を配した「勅撰集和歌屏風」が出色。きらびやかなのに非常に風雅な趣きがあり素晴らしい。

俵屋宗達 「源氏物語関屋・澪標図屏風」(国宝)
江戸時代・17世紀 静嘉堂文庫美術館蔵

本展の目玉の一つが、10年ぶりの公開になるという宗達の「源氏物語関屋・澪標図屏風」。ちょうど先日NHK-BSプレミアムで『風神雷神図を描いた男 天才絵師・俵屋宗達の正体』を見たばかりだったので、ことのほか興味深く拝見できました。源氏絵の古絵巻から多くの部分を引用しつつも、すやり霞を取り除くことで場面に臨場感が出て、また源氏や明石の君といった登場人物を敢えて牛車や舟の中に描いた構成が物語性を引き立たせています。

修理後初公開とのことで、損傷を受けていた部分の修復の様子がパネルで紹介されています。制作当初は違う絵が描かれていることが分かったり、BS特番でも解説されてましたが、ほぼ完成したあとに人物の大きさを意図的に変えたり、最後の最後まで手を抜かない宗達のこだわりが感じられます。

ちなみに京博の『琳派 京を彩る』に宗達のほかの国宝2点が出品されているので、静嘉堂文庫の「源氏物語関屋・澪標図屏風」も観れば、宗達の国宝指定作品をコンプリートできます。

尾形光琳 「鵜船図」(重要美術品)
江戸時代・18世紀 静嘉堂文庫美術館蔵

「鵜船図」は光琳の豊かな筆づかいの味わいと淡い彩色の美しさが相俟った瀟洒な一幅。展示作品中唯一個人蔵の「立葵図」は先日京博の『琳派 京を彩る』で観た光琳の「孔雀立葵図屏風」の立葵を彷彿とさせます。花弁に胡粉を使ったり、葉脈に金泥を付したりと細かな技が施されてます。

酒井抱一 「波図屏風」
江戸時代・文化12年(1815)頃 静嘉堂文庫美術館蔵

抱一は、こちらは以前にも何度か拝見している「波図屏風」。光琳の「波濤図屏風」(メトロポリタン美術館所蔵)に着想を得たといわれますが、光琳の屏風をさらに発展させた大胆な構図と豪快にうねる波の意匠がいつ見てもすごいなと思います。よく見ると波頭に白みを帯びた淡い緑色の胡粉を重ね、微妙なニュアンスを出していることが分かります。

抱一では「麦穂菜花図」もいいですね。麦の穂のモダンな意匠と、雀の絶妙な描写が素晴らしい。ほかには、静嘉堂文庫ではおなじみの「絵手鑑」や「光琳百図」、また抱一が「絵手鑑」の際に参照したであろうとされる谷文晁の掛軸なども並びます。

今回の展示で個人的に印象深かった作品の一つが其一の「雪月花三美人図」。其一には珍しい風俗画で、立ち姿はまるで初期浮世絵のよう。其一の同時代の美人画というより江戸初期の風俗画を思わせます。着物の色とりどりの色彩に其一の高い美的センスを感じます。

鈴木其一 「雪月花三美人図」
江戸時代・19世紀 静嘉堂文庫美術館蔵 (展示は11/23まで)

江戸時代の日本画や工芸品の充実したコレクションで知られる静嘉堂文庫の数年ぶりの展覧会だけあり、同館の誇る至宝の数々が展示されています。この秋から新館長に琳派関連の著作も多い日本美術史家の河野元昭氏を迎えたというのも話題で、今後の展覧会もますます楽しみになります。


【リニューアルオープン第一弾 金銀の系譜 -宗達・光琳・抱一をめぐる美の世界-】
2015年12月23日(水・祝)まで
静嘉堂文庫美術館にて


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