2014/04/05

栄西と建仁寺

東京国立博物館で開催中の特別展『栄西と建仁寺』展に行ってきました。

本展は、平安時代後期から鎌倉時代初期にかけての禅僧で、日本に臨済宗を伝え、京都最古の禅寺・建仁寺を開創した栄西禅師の800回忌を記念した特別展。栄西にまつわる史料や建仁寺ゆかりの名品などが出品されています。


序章 禅院の茶

会場に入ると、まずは栄西の坐像がお出迎え。栄西は中国から茶種を持ち帰り、日本で廃れていたお茶を飲む習慣を普及させ、現在の茶道の基礎となる喫茶法(点茶法)を築いたということで、“茶祖”と呼ばれているのだそうです。建仁寺では毎年4月20日の栄西の降誕会に、初期の喫茶儀礼を今に伝える四頭茶会が行われていて、展示室の中には建仁寺の方丈が再現され、四頭茶会の様子が映像で流されていました。

再現された方丈の中に飾られていた秋月等観の2幅の「龍虎図」は出展リストに載っていないところを見ると複製でしょうか? ほかに四頭茶会の所用具や重要文化財の油滴茶碗なども展示されています。


第1章 栄西の足跡

建仁寺では“栄西”を“ヨウサイ”と読んでいるそうで、その根拠となる「興禅護国論和解」(栄西著の「興禅護国論和解」の注釈書)が展示されています。そこにはしっかりと“栄西”の文字の横に“イヤウサイ”と読み仮名が。

栄西筆 「誓願寺盂蘭盆一品経縁起」(国宝)
平安時代・治承2年(1178年) 福岡・誓願寺蔵[展示は4/6まで]

国宝の「誓願寺盂蘭盆一品経縁起」は栄西の代表的な遺墨で、平安末期の美しい料紙も見ものです。栄西の自筆の書状は他にも数点ありましたが、出だしは力強くしっかりとした筆跡なのに、だんだんと崩れていく傾向があるみたい。そのほか、栄西が著した「喫茶養生記」の最古写本や同じく栄西が男女の交わりの隠語(要はエッチな言葉)で仏教の教えを説いた「隠語集」(写本)なんていうのもありました。


第2章 建仁寺ゆかりの僧たち

ここでは建仁寺を代表する禅僧や遺品を紹介。京都五山の中でも学芸の拠点となった経緯などを探ります。

康乗作 「蘭渓道隆坐像」(重要文化財)
江戸時代・延宝7年(1676年) 京都・西来院蔵

蘭渓は鎌倉・建長寺の初代住職で、後に建仁寺の住持になった鎌倉時代の高僧。像は江戸時代に彫像されたものですが、本展の事前調査で像内部から鎌倉時代に作られたと考えられる木製の頭部が見つかったということで、会場では像内部の様子がパネルで展示されています。


第3章 近世の建仁寺

応仁の乱や度重なる戦禍で荒廃した建仁寺が再興する16世紀末以降の建仁寺ゆかりの人物や美術品にスポットを当てています。

狩野山楽 「蓮鷺図襖」(一部)
江戸時代・元和4年(1618年) 正伝永源院所蔵

ここの見どころは狩野山楽と海北友松。現存作品がそんなに多くない山楽がなんと5点も出品されています(後期は3点のみ。内2点は通期展示)。織田有楽斎の像と一緒に展示されていた山楽の「蓮鷺図襖」は、蓮の葉の濃さや密度とどこか妖美な花が印象的な金碧障壁画。昨年の『狩野山楽・山雪展』にも出品されていた「狩猟図」は、京博では2幅のみでしたが、本展では4幅全てが展示されています。

海北友松 「雲龍図」(一部)(重要文化財)
安土桃山時代・慶長4年(1599年) 建仁寺蔵[期間中展示替えあり]

1599年再建の本坊方丈の障壁画を担当したのが海北友松。残念ながら昭和9年の室戸台風で方丈が倒壊し、友松の襖絵はその後、掛軸に改装されています。本展ではその全50面(幅)の障壁画の内、41幅を前後期に分け展示。白眉は、涌き上がる黒雲から現れる龍の気迫が漲る「雲龍図」。ほかにも南宋の宮廷画家・梁楷の減筆体に倣ったという袋人物で描いた「竹林七賢図」や、濃墨の孔雀に美より強さを感じる「花鳥図」などどれも素晴らしい。ちなみに「雲龍図」は4/8~5/6のみ全幅公開されます。

海北友松 「竹林七賢図」(一部)(重要文化財)
安土桃山時代・慶長4年(1599年) 建仁寺蔵[前期6幅/後期4幅]


第4章 建仁寺ゆかりの名宝

ここでは建仁寺や塔頭、また建仁寺派の寺院が所蔵する日本画や仏画、仏像、工芸品などを展示しています。

まずはタコの足を模した形がユニークな「鉄蛸足香炉」や、龍や獅子の繊細な表現が見事な蝋型鋳造の三具足が目を引きます。慶派仏師によるものという洗練された気品漂う「十一面観音菩薩坐像」や「伝観音菩薩坐像」など仏像も見もの。仏画では良全の水墨画「十六羅漢図」が見事。墨の濃淡で繊細に表現した狩野山雪の「唐人物図座屏」も傑作です。

長谷川等伯 「竹林七賢図屏風」
江戸時代・慶長12年(1607年) 両足院蔵

等伯も2点。「松に童子図襖」は海北友松や狩野派の作品を観たあとだと岩皺の描写が少し見劣りしますが、「竹林七賢図屏風」は友松の「竹林七賢図」に刺激を受け描いた作品といい、極太の線描の力強さに等伯の負けん気と高い表現力を感じます。

並びには海北友松も4点。どれも素晴らしいのですが、友松が得意としたという「琴棋書画図屏風」や表現の豊かさを感じる「人物花鳥押絵貼屏風」がいい。友松の作品をまとめて観る機会というのも錚々ないので、ちょっと興奮しました。

伊藤若冲 「雪梅雄鶏図」
江戸時代・18世紀 両足院蔵

曽我蕭白、伊藤若冲、長沢芦雪とつづく三連続は圧巻。濃淡の墨を駆使した蕭白の美しい「山水図」、動植綵絵の直前の作品という若冲の「雪梅雄鶏図」、芦雪らしい大胆な構図が目を引く「牧童吹笛図」、どれもそれぞれの特徴が前面に出ていて見飽きません。並びには臨済宗の禅僧・白隠の作品も。芦雪の「牧童吹笛図」は即興で指で描いたらしく、芦雪の名前の下には“指画”と書かれています。牛のキョトンとした目もかわいい。

長沢芦雪 「牧童吹笛図」
江戸時代・18世紀 久昌院蔵

ほかにも、吉祥のモチーフも登場するユニークな「涅槃図」や、夜な夜な地獄に降りては閻魔大王の副官を務めたという伝説の小野篁の実寸大(2m近い)といわれる「小野篁・冥官・獄卒立像」、江戸時代を代表する陶芸家・仁阿弥道八の作品の数々(山羊の手焙が面白い)など、なかなかの見ものが続きます。

俵屋宗達 「風神雷神図屏風」(国宝)
江戸時代・17世紀 建仁寺蔵

最後には、建仁寺といえば忘れてはならない宗達の「風神雷神図屏風」が。「風神雷神図屏風」の公開は実に5年ぶり(東京では6年ぶり)とか。そんなに観ていなかったかなと思いますが、観るたびに新しい発見があります。今回の展示では右隻と左隻を少し離して展示していて、何かしらの意図があったのでしょうが、離れてしまうと一つの屏風というより、それぞれ独立した絵画作品のようにも見えなくもありません。

ちなみに、宗達の 「風神雷神図屏風」の公開に合わせるように、琳派を代表する絵師たちの「風神雷神図」が公開されます。
  • 尾形光琳 「風神雷神図屏風」 4/8~5/18 東京国立博物館本館2F7室
  • 酒井抱一 「風神雷神図屏風」 4/5~5/6 出光美術館
  • 鈴木其一 「風神雷神図屏風」 4/8~6/29 東京富士美術館

いろいろと興味深い作品が多く、じっくり観てたら2時間かかりました。閉館時間になってしまったので帰りましたが、時間が許せば、もう少し観ていたかったです。


【開山・栄西禅師 800年遠忌 特別展「栄西と建仁寺」】 
2014年5月18日(日)まで
東京国立博物館にて


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