今年は『新印象派展』があったり、『ワシントン・ナショナル・ギャラリー展』があったりして、新印象派以降の作品を割りかし観てきましたが、本展では新印象派に限らず、印象派のスタイルを受け継ぎながら、印象主義の光の捉え方や甘美なイメージをさらに展開していった20世紀初頭の若き芸術家たちを取り上げています。
印象派があって、新印象派やポスト印象派が出てきて、20世紀に入るとフォーヴィスムやキュビスムといった前衛に繋がっていくという流れは、『新印象派展』でも解説されていましたが、その一方でそうした前衛的な芸術運動に加わらず、前世紀のスタイルを守りながら、独自の芸術観を貫いた画家たちがいたことはあまり知られていないかもしれません。しかも、彼らの作品が商業的にも批評的にも成功していたことなんて、なおさら知りませんでした。
そうしたモダニズムの影に隠れて、あまり顧みられることのなかった印象派のもう一つの側面を探るという意味で、とても興味深い展覧会になっています。
会場は6つの章で構成されています。
第1章 エコール・デ・ボザールの仲間たち
第2章 北部の仲間たち
第3章 「バンド・ノワール(黒い一団)」の仲間たち
第4章 ベルギーの仲間たち
第5章 遅れてやってきた仲間たち
第6章 最後に加わった仲間たち
アンリ・マルタン 「野原を行く少女」
1889年 個人蔵
1889年 個人蔵
本展は、おもにサロン出身の若い芸術家たちが作品を発表する目的で結成され、1900年から1922年までパリの画廊で展覧会を開催した『画家彫刻家新協会(ソシエテ・ヌーヴェル)』のメンバー20名の画家の作品が展示されています。
まずは≪エコール・デ・ボザールの仲間たち≫として、エドモン・アマン=ジャンとエルネスト・ローランとエルネスト・ローランを紹介。エコール・デ・ボザールは17世紀に設立された由緒ある国立の美術学校で、ドラクロワやアングルもいれば、ドガやルノワール、カイユボットも通ったところです。
エドモン・アマン=ジャン 「囚われの女」
1913年 個人蔵
1913年 個人蔵
エルネスト・ローラン 「背中」
1917年 個人蔵
1917年 個人蔵
アマン=ジャンは甘美な女性の肖像画が多く、特に「アンティミテ」が印象的でした。20世紀以降のものは印象派から脱しようとしているのか、象徴主義やオリエンタリズム、またアカデミズム的な影響も見られます。女性の顔の輪郭だけぼんやりと曖昧なリトグラフ作品も幻想的でユニーク。
エルネスト・ローランはスーラと点描の研究を行ったという人で、スーラとはまた違う穏やかで独特の空気感があります。繊細でソフトなタッチの「背中」と「入浴」が秀逸。アンリ・マルタン(アンリ=ジャン=ギヨーム・マルタン)はこの人も点描が特徴的。光を全面に受けた「野原を行く少女」が美しいですね。
アンリ・ル・シダネル 「日曜日」
1898年 シャルトルーズ美術館蔵
1898年 シャルトルーズ美術館蔵
日本で展覧会が開かれたこともあるル・シダネル。アンティミスムな室内画も多いのですが、「日曜日」は白いドレスに身を包んだ女性たちが佇む構図と静謐で穏やかな光の表現がとても神秘的。詩情豊かな物語性は象徴主義や装飾美術の影響も感じさせます。
シャルル・コッテ 「星の夜」
1894年 ティエーリー・メルシエ画廊蔵
1894年 ティエーリー・メルシエ画廊蔵
ウジェーヌ・カリエール 「カリエール夫人」
1883年 個人蔵
1883年 個人蔵
国立西洋美術館で開かれた『世紀末の幻想』で特に印象に残ったシャルル・コッテやウジェーヌ・カリエール、アルベール・ベナールの作品もありました。いずれもこの時代の印象主義を代表する画家で、アンティミスムの傾向があったり、象徴主義や装飾美術の影響を受けていたりするのも共通しているようです。
コッテは国立美術協会展(サロン・ナショナル)の一派“バンド・ノワール”を代表する画家だといいます。ちょっとダークトーンの画面と哀愁を感じる雰囲気が印象的。油彩画以外にも銅版画でも活躍したそうですが、彼の油彩は『世紀末の幻想』で観た画風とはまた違った魅力があります。
カリエールも『世紀末の幻想』で観た肖像版画とはまた違ったボカシというか、茶系の薄い靄がかかったような描法が独特。女性の内面が滲み出るような繊細な表現力が素晴らしい。
ジョン・シンガー・サージェント 「ハロルド・ウィルソン夫人の肖像」
1897年 東京富士美術館蔵
1897年 東京富士美術館蔵
ほかにも、会場の最後に展示されていたジャン=フランソワ・ラファエリの「ヴィクトル・ユゴー80歳を祝う祭り」、参考出品として展示されていたジョン・シンガー・サージェントの「ハロルド・ウィルソン夫人の肖像」が目を惹きました。
ジャン=フランソワ・ラファエリ 「ヴィクトル・ユゴー80歳を祝う祭り」
1902年 ヴィクトル・ユゴー館蔵
1902年 ヴィクトル・ユゴー館蔵
あまりメジャーな画家もなく、時代の最先端をいく美術シーンにありがちな熱さもなく、正直地味なところは拭えませんが、印象派の系図にはこうした流れもあり、そしてそれが商業的にも批評的にも成功していたということを知る上では、とても興味深いものがありました。
【もうひとつの輝き 最後の印象派 1900-20's Paris】
2016年11月8日(日)まで
東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館にて
イラストで読む 印象派の画家たち
0 件のコメント:
コメントを投稿