2015/09/02

舟越保武彫刻展

練馬区立美術館で開催中の『舟越保武彫刻展 まなざしの向こうに』を観てまいりました。

戦後日本を代表する彫刻家・舟越保武の回顧展。舟越保武の歩みを6つの時期に分け、約60点の彫刻作品と約50点のドローイングを展示しています。

ちょうど観に行った日の前日に美智子皇后がご覧になられたことがニュースになったり、アート関連のテレビ番組で取り上げられたこともあるのか、練馬区立美術館では珍しく(失礼!)受付に行列ができていました。

本展は岩手県立美術館、郡山市立美術館と回ってきた巡回展で、舟越が戦前、練馬・豊玉にあった“練馬アトリエ村”で活動をしていたという縁もあって練馬での開催ということなんだそうです。


会場の構成は以下の通りです。
第1章 彫刻への憧れ-東京美術学校受験の頃から 1933~1943年頃まで
第2章 模索と拡充-戦後 1945~195年頃まで
第3章 《長崎26殉教者記念像》 1958~1962年まで
第4章 信仰と彫刻-《原の城》・《ダミアン神父》の頃 1962~1975年頃まで
第5章 静謐の美-聖女たち 1975~1986年まで
第6章 左手による彫刻-最後の出品作品まで 1987~1998年まで

舟越は美校在学中から石彫には興味を抱いていたようで、椎名町の大理石工場で薄赤色の大理石に出会ったとき、「身体に熱いものが走る」思いがしたといいます。美校に通っていたとはいえ、石彫には素人だったようで、アトリエ近くの石屋の親方から道具の使い方を教わり、石彫に取り組んだのだとか。紅霰と呼ばれるその大理石を使った当時の作品も展示されていて、一心不乱にこの石と対峙したんだろうなという熱い思いのようなものが伝わって来ます。

舟越保武 「白鳥」
昭和23年(1948) 東京国立近代美術館蔵

ギリシャ神話を思わせる「白鳥」はその優美なフォルムと、純白の大理石の素材感を活かした石肌が印象的。憧れていたロダンに近づこうという舟越の意識を感じさせます。

この頃すでに完成されたものがありますが、心に響いてくる感じがしてくるのは信仰に根ざした主題を扱うようになった頃のものから。まだ幼い長男を肺炎で亡くしたことがきっかけとなり、舟越はカトリックの洗礼を受けます。黄色の水仙に埋もれるように眠る長男の死顔を描いたパステル画が涙を誘います。

舟越保武 「ダミアン神父」
昭和50年(1975) 岩手県立美術館蔵

2階に上がると、豊臣秀吉によるキリシタン禁止令により、磔の刑に処されたフランシスコ会宣教師6人と日本人信徒20人(日本二十六聖人)を顕彰する記念碑として制作された「長崎26殉教者記念像」(展示は岩手県立美術館所蔵のもの4体)にまず釘付けになります。磔にされた足は宙に浮き、神への祈りを口にしてるのか、口は少し開き、目は天を見つめ、ただひたすらに祈るその敬虔な姿に強く胸打たれます。デッサンも多く展示されていて、下絵から完成されていく様子もよく分かります。

「ダミアン神父」はハワイでハンセン病患者の救済に生涯を捧げたベルギー人宣教師。その顔や手は結節でボコボコとしていて、見た目は醜い相貌ですが、何か語りかけてくるような慈愛に満ちています。ダミアン神父は自らもハンセン病に感染し亡くなるのですが、病に罹ったとき、「我々ハンセン病患者は…」と語ることができるようになり、やっと苦しみを分かち合えるようになったと喜んだといわれています。その姿は重い皮膚病患者を癒したというイエス・キリストと重なります。

舟越保武 「原の城」
昭和46年(1971) 岩手県立美術館蔵

「ダミアン神父」と向かい合うように展示されているのが「原の城」。島原の乱で討ち死にした兵士が「雨あがりの月の夜に、青白い光を浴びて亡霊のように立ち上がる姿」を描いたといいます。力も尽き、うつろなその姿に、殉教したキリシタンの悲しみが表されているようです。背中には「いえずす さんたまりあ 寛永十五年 如月二十八日 原の城 本丸にて没」と彫られていました。

近くに田沢湖の「たつこ像」のブロンズの試作彫刻がありました。田沢湖で見ているのに、恥ずかしながらこれが舟越保武の作品とは知りませんでした。湖畔に佇むあの美しい彫像は、実は雪解けの荒れた峠の道を補修する作業者の中に見かけた若い女性をイメージしたものだそうです。

舟越保武 「聖クララ」
昭和56年(1981) 岩手県立美術館蔵

聖女の胸像も多く、そのなんともいえない美しさ、清らかさは感動的ですらあります。「聖クララ」は諫早石という砂岩で制作されていて、やや灰色で青みがかった石の冷たい印象を補うため、紅茶の飲み残しを塗って色の温かみを出したといいます。どの作品からも深い愛情と信仰が感じられ、厳かで静謐な時間が流れているようです。

舟越は1987年に脳梗塞で右半身不随になりますが、その後も左手だけで制作活動を続けます。病後の作品からは流麗なラインは失われますが、その荒々しさの中に人間の悲哀がよりくっきりと浮かび上がり、そこに込められた魂はより一層胸を打つものがあります。

舟越保武 「ゴルゴダ」
平成元年(1989) 岩手県立美術館蔵

今回展覧会を拝見し、舟越を特徴づけるものの一つに石彫があり、ブロンズでは表せない素材からくる質感と、リアルな表現力に大きな魅力を感じました。そしてやはりキリスト教を主題とした彫刻の美しさ、静謐さ、崇高さに強く惹かれます。胸がジーンとするような、そんな素晴らしい展覧会でした。


【開館30周年記念 舟越保武彫刻展 まなざしの向こうに】
2015年9月6日(日)まで
練馬区立美術館にて


舟越保武―まなざしの向こうに舟越保武―まなざしの向こうに

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