なかなか伺えず、気付いたら既に会期後半。ゴールデンウィークということもあって、多くのお客様で賑わっていました。
本展は、ボストン美術館と東京藝術大学の所蔵コレクションによる初の企画展。開国そして文明開化による西洋化の波により大きな影響を受けた“ウェスタン・インパクト”の作品と、外国の人々の目を感動させ海外へ渡って行った“ジャパニーズ・インパクト”の作品を一堂に会したユニークな展覧会です。激動の時代の流れとともに日本の近代美術が確立していく過程を具体的に見ていけて、あらためて再認識できるという点でいろいろと興味深かかったです。
会場のところどころで、展覧会のマスコットキャラクター(?)の日本代表の源さんと西洋代表のベティさんのやりとりがパネルにしてあって、各章の見どころを紹介してくれています。
プロローグ 黒船が来た!
会場には、その時代時代の歴史的事件やさまざまな出来事がパネルで解説されていて、その当時に制作された作品や、文化や風俗を描いた作品などが紹介されています。日本の近代史に疎くても全然OK!
三代広重の「横浜波止場ヨリ海岸通異人館之真図」は当時の情景を正確に伝えてるのかと思いきや実際とは少し違っていたり、歌川芳虎の「万国名勝尽競之内仏蘭西把里須府」なんて勝手な想像でパリの風景を描いたり(パリが港町として描かれてる)、割と自由。
三代歌川広重 「横浜波止場ヨリ海岸通異人館之真図」
1875(明治8)年 ボストン美術館蔵
1875(明治8)年 ボストン美術館蔵
面白かったのが、黒船来航を蒙古襲来に見立てた河鍋暁斎と歌川芳虎の作品。暁斎は敵船を爆発させたり、やりたい放題の派手な仕上がり、一方の芳虎は国芳ばりの武者絵で、二人の作風の違いが出ていて楽しい。
チャールズ・ワーグマンの絵の模写という高橋由一の「浴場図」も興味深い。構図や女性の裸体の描写が巧いのはワーグマンの絵に拠るからでしょうか?それにしても明治の時代によくデッサンさせてもらえたものですね。
高橋由一 「浴場図」
1878(明治11)年 東京藝術大学大学美術館蔵
1878(明治11)年 東京藝術大学大学美術館蔵
第1章 不思議の国JAPAN
海外の万博に出品したり、輸出したりと、政府の振興策もあって、この時代は優れた工芸品が海外に多く出ていますが、本展ではボストン美術館から多くの工芸品が里帰りをしています。巨大な水晶とその見事な置物とか、現存するものの中で最大という2m近くもある龍の自在置物とか、非常に精緻で繊細で美しい十種香箱とか、当時の日本の高い技術に惚れ惚れ。
柴田是真 「野菜涅槃図蒔絵盆」
1888(明治21)年 ボストン美術館蔵
1888(明治21)年 ボストン美術館蔵
河鍋暁斎の作品は海外でも人気が高かったそうで、いかにも暁斎らしい図柄の「地獄太夫」や、構図は琳派作品を継承しながら恐ろしげな形相の「風神・雷神」など、どれもいい。是真は蒔絵の「野菜涅槃図」がユニークというか流石の技巧。是真による明治宮殿の天井画の下絵も見もの。実物はどんなにか素晴らしかったんでしょう。
河鍋暁斎 「地獄太夫」
19世紀後半・明治時代 ボストン美術館蔵
19世紀後半・明治時代 ボストン美術館蔵
第2章 文明、開花せよ
明治前半の社会や風俗を描いた作品を紹介。文明開化を象徴する駅や鉄道の風景、音楽の授業、果ては隅田川での水雷に実験を描いたものなどさまざま。洋装と和装が半々ぐらいだった絵の10年後に描かれた作品ではみんな洋装だったり、絵を追うことで明治の世の中の変化を知ることができます。「梅園唱歌図」や「浅草公園遊覧之図」など楊州周延の錦絵がきれい。
楊州周延 「梅園唱歌図」
1887(明治20)年 ボストン美術館蔵
1887(明治20)年 ボストン美術館蔵
第3章 西洋美術の手習い
<ワーグマンとその弟子たち>、<フォンタネージとその弟子たち>、<ラクーザとその弟子たち>とに分けて作品を紹介。五姓田義松や浅井忠など興味深い。チャールズ・ワーグマンとアントニオ・フォンタネージの二人から油彩画の技術を学んだ高橋由一の墨で描いた「農夫」が意外にうまい。
第4章 日本美術の創造
ここでは作品の多くが藝大の前身・東京美術学校と所縁のある画家のもの。狩野芳崖の「悲母観音」は何度か拝見してますが、今回は岡倉天心の甥・秋水による模写と並べての展示。さすが芳崖の作品と比べてしまうと、その差は歴然ですが、なかなか興味深い。十数年前にボストン美術館に収蔵されるまで作品の存在は知られていなかったそうです。
橋本雅邦 「雪景山水図」
1886(明治19)年頃 ボストン美術館蔵
1886(明治19)年頃 ボストン美術館蔵
ボストン美術館から来てるものでは、芳崖の「谿間雄飛図」にまずビックリ。大胆や構図と表現。実にテクニカルで素晴らしい。雅邦の「雪景山水図」もいいですね。伝統的な山水画の中にある近代絵画的な立体感。西村五雲のヒグマ(?)と白熊が両隻に描かれた「熊図屏風」もユニーク。観山の「大石内蔵助」のリラックスした表情も好き。大観も朦朧体の好例のような作品が来ています。ここまで美しい朦朧体の大観作品は国内でも珍しいのでは。
菊池容斎の「九相図」も素晴らしくいい。桜の木の下に佇む女性はいかにも容斎らしいんですが、だんだんと朽ちていく屍が妙に写実的で生々しい。装身具だけ彩色を施した墨絵の「白衣観音図」も美しい。
菊池容斎 「九相図」
1848(寛永元)年 ボストン美術館蔵
1848(寛永元)年 ボストン美術館蔵
今回の展覧会では初めて知る画家もいて、特にメインヴィジュアルにも使われている小林永濯の「菅原道真天拝山祈祷の図」には度肝を抜かれました。劇画調の作品は好きではないのですが、こういう絵を描く人が明治時代にいたことに驚きます。
第5章 近代国家として
明治天皇の御影、日清日露戦争を描いた作品、西洋画の成果、工芸の伝統回帰といった括りで作品を紹介。気になったのが橋本邦助の多色リトグラフで、この時代にこんな洒落た、かわいい、パリっぽい雰囲気の作品を描ける人がいたのかと驚かされました。水彩画の吉田博と中川八郎という画家も初めて知る名。ボストン美術館で展覧会をし、多くの作品がアメリカで売れたそうな。
他にも、高橋由一の「日本武尊」や、洋画では山本芳翠や藤島武二の作品が印象に残りました。
藤島武二 「イタリア婦人像」
1908-09(明治41-42)年頃 東京藝術大学大学美術館蔵
1908-09(明治41-42)年頃 東京藝術大学大学美術館蔵
海外の美術館からただ作品を持ってくるだけでなく、こういう企画性のある展覧会は面白いですね。図録も凝っていて、なかなか楽しめます。ちなみに藝大美術館のあとは名古屋ボストン美術館にも巡回します。
【ボストン美術館×東京藝術大学 ダブル・インパクト 明治ニッポンの美】
2015年5月17日
東京藝術大学大学美術館にて
「朦朧」の時代―大観、春草らと近代日本画の成立
0 件のコメント:
コメントを投稿