2015/05/18

ボッティチェリとルネサンス

Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の『ボッティチェリとルネサンス - フィレンツェの富と美』に行ってまいりました(ってもう1ヶ月も前ですが・・・)。

ルネサンス期に活躍した15世紀フィレンツェ派を代表するボッティチェリの作品を中心として展覧会です。美術書などに載ってるようなボッティチェリの代表作というものはないのですが、それでもルネサンスの巨匠の第一級の傑作の数々を観られるというまたとないチャンス。

出品作約80点の内、絵画が約50点。17点のボッティチェリの作品(工房含む)を中心に同時代のフィレンツェで活躍したルネサンス期の作品が揃っています。

展示は、メディチ家とボッティチェリの関係と時代背景を絡めつつ絵画を見せる構成でちょっとした歴史の勉強。メディチ家の繁栄とボッティチェリの活躍は切っても切れない関係にあって、これはボッティチェリに限らず当時のフィレンツェの芸術家には多少なりとも共通するところがありますが、そのあたりが丁寧に説明されています。


会場の構成は以下のとおりです。
序章 富の源泉 フィオリーノ金貨
第1章 ボッティチェリの時代のフィレンツ - 繁栄する金融業と商業
第2章 旅と交易 拡大する世界
第3章 富めるフィレンツェ
第4章 フィレンツェにおける愛と結婚
第5章 銀行家と芸術家
第6章 メディチ家の凋落とボッティチェリの変容

マリヌス・ファン・レイメルスヴァーレに基づく模写 「高利貸し」
1540年頃 スティッベルト博物館蔵

当時の高利貸しや両替商を描いた作品があって、これがまた不正でも働いているんじゃないだろうかという典型的な金に貪欲そうな顔。今も昔もこの手の人たちのイメージというのは変わらないんだなというのが可笑しいですね。実際には中世のキリスト教の世界ではお金を貸す際に利子を取ることは禁じられていて、メディチ家は抜け道を使って巨万の富を得たともいいます。

フラ・アンジェリコ 「聖母マリアの結婚」
1432-1435年 サン・マルコ博物館蔵

当時の歴史を振り返る史料に交じって、初期ルネサンスの絵画も展示されています。中でもフラ・アンジェリコの「聖母マリアの結婚」と「聖母マリアの埋葬」の二幅のテンペラ画。状態も良く、淡くカラフルな色合いや微妙な陰影など大変美しく、見惚れてしまいました。

他にも洗練された細工が施された美しい鏡や櫛、 色鮮やかで細密な絵が素晴らしいカッソーネ(婚礼用の長持ち)など、当時の貴重な工芸品も展示されています。

サンドロ・ボッティチェリ 「ケルビムを伴う聖母子」
1470年頃 ウフィツィ美術館蔵

ボッティチェリで最初に登場するのが初期の頃の作品という「ケルビムを伴う聖母子」。師のフィリッポ・リッピの影響が残っているといいます。額縁の金色の丸は金貨の模様なのだとか。

サンドロ・ボッティチェリ 「受胎告知」
1481年 ウフィツィ美術館蔵

会場のちょうど真ん中にある広いスペースはすべてボッティチェリ。正面に大きな「受胎告知」があり、それを取り囲むようにボッティチェリの作品が展示されています。ウフィツィの「受胎告知」は横5.5mもある大作で、施療院への奉納画と考えられているそうです。医学が発達していない中世の、病院という場での神への祈りがあったのかもしれません。

サンドロ・ボッティチェリ 「聖母子と洗礼者聖ヨハネ」
1477-1480年頃 ピアチェンツァ市立博物館蔵 (展示は5/6まで)

ボッティチェリは聖母子像が多く、やはりその美しさと完成度の高さに驚きます。宗教画の場合、描かれるイメージも構図もある程度決まりごとがあったりしますが、この卓越した表現力と天性のセンス。とりわけ「聖母子と洗礼者聖ヨハネ」の美しさといったらなんでしょう。マリアの優美な表情や、バラを効果的に使った画面構成と鮮やかな色彩の配置の巧みさ。そして得も言われぬ気品。素晴らしい。

サンドロ・ボッティチェリ 「キリストの降誕」
1473-1475年頃 コロンビア美術館蔵

「キリストの降誕」も興味の尽きない一枚。幼子イエスを、ヨセフ、マリア、幼いヨハネが礼拝している図で、横には羊飼いがいたり、遠くには天使や東方三博士も描かれています。ほかにも、ボッティチェリの傑作「ヴィーナスの誕生」のヴィーナスだけを描いた作品など。その美しさにただただため息。

サンドロ・ボッティチェリ(工房) 「ヴィーナス」
1482年頃 サバウダ美術館蔵

ボッティチェリ以外の作品では、構図が「モナリザ」を彷彿とさせるロレンツォ・ディ・クレディの「ジャスミンの貴婦人」や、ボッティチェリの「聖母子と洗礼者聖ヨハネ」と同じ柄の丸い額物を使っていたフランチェスコ・ボッティチーニの「幼子イエスを礼拝する聖母」、華やかな色彩と豊かな表情の工房作の「聖母子と6人の天使」が印象に残りました。

ボッティチェリと工房 「聖母子と6人の天使」
1500年頃 コルシシーニ美術館蔵

来年は東京都美術館で『ボッティチェリ展』があると聞きます。今度はどんな作品が観られるのでしょうか。来年も楽しみです。


【ボッティチェリとルネサンス フィレンツェの富と美】
平成27年6月28日(日)まで
Bunkamura ザ・ミュージアムにて


ボッティチェリとリッピ (イラストで読む「芸術家列伝」)ボッティチェリとリッピ (イラストで読む「芸術家列伝」)

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