2015/05/12

加山又造 アトリエの記憶

八王子市夢美術館で開催中の『加山又造 アトリエの記憶』を観てきました。

本展は、家族から寄贈された素描や制作資料などを含む、多摩美術大学の所蔵作品を中心に、2005年から2008年にかけて3回にわたり同大学美術館で開催された展覧会のダイジェスト的な企画展。多摩美といえば加山又造が長年教鞭をとった大学。版画作品を中心とした同大の研究成果を踏まえて作品が紹介されています。


加山又造 アトリエの記憶

20~30代の頃の作品を紹介。加山又造の初期の作品には動物が描かれたものをよく見掛けますが、銅版画の作品も動物など生き物をモティーフにすることが多かったようです。エッチングの「鹿」や「狼」は線のみで構成されていて、一本一本丁寧に確かめるように線を彫り進めている感じがあります。

銅版画ではありませんが個人的には、雪原にカラスの群れを描いた「鉄塔ノ風景」や網目のように描いた満月が印象的な「闇夜」に惹かれます。

加山又造 「鹿」 1955/1970年


版画家としての加山又造

加山又造の銅版画は80点ほどあって、その内エッチングが40点、メゾチントが40点あるのだそうです。エッチングは防蝕膜を塗った銅版を鉄筆でひっかいて線を描きますが、メゾチントはあらかじめ銅版にロッカーという道具を用いて無数の“まくれ”を作り、それを削ることで描画するという技法。ビロードのような黒の表現に特色があり、“マニエール・ノワール(黒の技法)”と呼ばれるといいます。

メゾチントによる作品は、その黒を背景に玉虫や熱帯魚など鮮やかな色彩の生物や植物を描いているものが多く、この独特の黒のトーンや発色が生み出す世界に熱中していたんだろうなということが伝わってきます。

加山又造 「ほね貝と千鳥」 1972年

作品のイメージによって、メゾチント(あるいはビュランやドライポイント)やエッチング(あるいはアクアチント)、またはその組み合わせなどさまざまな技法を用いて版画を制作していたようです。時にそれはとても実験的なもので、その手法や制作過程がパネルで事細かに解説されています。 たとえばエッチングやメゾチントなどを駆使した「蜘蛛と蝶」は蜘蛛の巣の描線に洋裁用のチャコを使っているとか。加山又造の奥さんが洋裁の仕事をしていたので、そこから思いついたようです。

初めて制作したというリトグラフの作品も展示されていました。モノクロ1版のリトグラフで、昆虫を描いたもの。リトクレヨンと溶き墨で描き、アラビアゴムで白抜きして効果を出したといいます。

加山又造 「花」 1983年

雪月花をテーマにした3点の銅版画の連作。いかにも加山又造らしい装飾性豊かなデザインで素敵です。

加山の制作活動を代表する裸婦画(リトグラフ)も多くあります。多摩美の学生をモデルにしたとかで、こんな美しい裸婦画に仕立て上げられたら、モデルさんもさぞ本望でしょう。なんとも官能的。

銀地に刷られた作品は光線の角度で表情が変わるそうで、絵を下の方から見ると人物が浮き上がってくる感じがします。MO紙やアルシュ紙、光沢紙、さまざまな紙に刷られたものがありますが、それぞれに感じが違っていて、なるほどなと思います。

加山又造  「レースの裸婦」 1978年


加山又造の装丁画

ここでは『棋苑』や『新潮』の表紙の原画11点を展示。いずれも加山が繰り返し描いてきたモティーフや琳派的な画題など、手仕事感が良く分かります。

加山又造 「『新潮』表紙原画 昭和46年3月号表紙原画」


加山又造の素描

女性や裸婦を描いたものが中心。素描であっても手を抜かない一つの表現として完成されているのは素晴らしい。着彩の水彩画があって、水浅葱地の着物姿の女性が美しい。解説によるとモデルは又造の義娘とかで、義娘の語るエピソードが秀逸。


倣北宋水墨山水雪景

加山は後半生で水墨画の作品を手掛けますが、その代表作の一つ「倣北宋水墨山水雪景」が本展の目玉の一つ。北宋初期の画家・季成の「茂林遠岫図」に倣った作品で、漆黒の闇に浮かび上がる屹立した峰々の渾然と重なりあう姿はただただ圧巻です。近くでよく見ると、枯木の白には胡粉を塗り、またマスキングやコンプレッサーで墨を吹付けたりと、さまざまな手法を用いているのが分かります。水墨画の下絵もあって興味深い。

加山又造 「倣北宋水墨山水雪景」1989年


作品数は決して多くありませんが、加山又造の技巧や実験精神の一端に触れられます。これがたったの500円だなんて。会場となる美術館のすぐそばには、加山の多摩美時代の教え子でもあるユーミンの実家もあります。


【日本画家 加山又造 アトリエの記憶 -水墨画 素描 版画 装丁画-】
2015年6月3日(水)まで
八王子市夢美術館にて


版画芸術 (128) 加山又造の版画魂版画芸術 (128) 加山又造の版画魂

0 件のコメント:

コメントを投稿