2013/10/12

幸田文展

世田谷美術館で開催中の『幸田文展』に行ってきました。

幸田文、大好きなんです。ときどき、無性に幸田文が読みたくなるときがあって、たとえば硬い本を読んだ後とか、読みたい本がないなとかいうとき、ふと本棚から幸田文の本を取り出しては読んだりします。

幸田文の作品を初めて知ったのは高校生の頃。図書室にあった日本文学全集の中の一冊が確か幸田文のもので、その文章に触れたときの衝撃は今もはっきりと覚えています。幸田家の種々雑多な日常や、かつての日本の生活風景が美しい日本語で瑞々しく、細やかに、そして時に鋭い観察眼で書き綴られた独特の文学に一目で虜になりました。

本展は、昭和を代表する女流作家・幸田文を単独で取り上げる初めての本格的な展覧会だそうです。初公開を含む原稿、書簡、愛用の着物や父・露伴の遺した書など資料約300点が所狭しと展示されていました。

会場の構成は以下のとおり。
プロローグ 「胸の中の古い種」
第1章 『みそっかす』
第2章 小石川の家――『父・こんなこと』
第3章 父の想い出から離れて――『流れる』『おとうと』
第4章 幸田文の「このよがくもん」
第5章 種が芽を吹く――斑鳩の記、『木』『崩れ』
第6章 幸田文ふたたび


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「心の中にはもの種がぎっしり詰まっている」

幸田文の随筆『胸の中の古い種』の一節から展覧会は始まります。晩年、法輪寺三重塔の復元に奔走し、日本中の山々の“木”や“崩れ”を観て回り、老いてなおアクティブだったその源は何だったのかを探っていきます。

会場は、幸田文の幼少期や戦中戦後のエピソード、幸田文の随筆にたびたび登場する“小林さん”、そしてもちろん父・露伴のことなど、彼女の文章を交えながら、様々な資料とともに幸田文の人生を紐解いていきます。岩波の編集者だった“小林さん”とのやりとりや当時の写真、幸田文や露伴愛用の品々を通して、幸田文が書き連ねた生活の風景が、文字という平面の紙の上から浮き上がり、よりリアルなものとなり目の前に現れます。

会場の後半に幸田文のインタビュー映像が流れていました。年をとるとそのまま静かに暮らしていくか、やりたいことをやるかのどちらかで、私は活発に動きたいというようなことを語っていました。

彼女の随筆を読むとよく分かることですが、幸田文はとても好奇心旺盛というか、まずは行動、石橋は叩きながら歩けばいいというタイプの女性だったように思います。そうした“もの種”が一生尽きないということにまず驚かされるのですが、それが彼女の文学の源であり、行動の源だったのだろうなと、この展覧会を観てつくづくと感じます。


幸田文といえば、やはり着物ですが、彼女の着物や婚礼衣装も展示されています。幸田文の随筆には露伴のお酒にまつわるエピソードも多く綴られていますが、露伴愛用の白磁の徳利もあって、お酒を用意したり、肴の支度をしたり、給仕をしたりと、露伴にとやかく言われながらも器用に手際よくこなしていく様子が目に浮かぶようです。

『流れる』のモデルになったという、幸田文が実際に住み込み女中をした向島の芸者置屋の女主人の写真なんていうものもありました。山田五十鈴とはまた違う、目の覚めるような美しい方でビックリします。

会場の展示ケースには、作家の村松友視が幸田文からもらったという可愛らしい柄の小さなマッチ箱がところどころに置いてありました。お店や銀行のマッチ箱は味気ないので、幸田文が千代紙を貼ったりして使っていたのだそうです。ちなみに、本展の図録のカバーもそのマッチ箱をモチーフにしたものになっています。


1階の受付横には幸田文の本や関連書籍、また千代紙や小物なども販売されています。

そこかしこに飾られている幸田文の文章を読みながら観ていたら、軽く1時間半ぐらい経っていました。ファンならぜひ観ておきたい展覧会だと思います。


「人には運命を踏んで立つ力があるものだ」(『みそっかす』より)





【幸田文展】
2013年12月8日(日)まで
世田谷文学館にて



流れる (新潮文庫)流れる (新潮文庫)


きもの (新潮文庫)きもの (新潮文庫)


崩れ (講談社文庫)崩れ (講談社文庫)


幸田家のきもの幸田家のきもの


幸田文のマッチ箱 (河出文庫)幸田文のマッチ箱 (河出文庫)

2 件のコメント:

  1. ギロでございます2013年10月17日 15:04

    突然ですがConrad☆さん、ギロでございます~お久しぶり。大好きな幸田文のことが掲載されてましたのでご挨拶がてら…。向田と双璧をなすフェイパリット女流です。確か中学だか高校だかの国語の教科書に載っていた文章が出会いでした。世田谷文学館は近所なので散歩がてら行ってみますね~

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  2. >ギロさん
    コメントありがとうございます。ギロさんも幸田文ファンでしたか! 世田谷文学館は初めて行きましたが、世田谷らしい閑静な街の中にあっていいところですね。常設展も面白かったですよ。

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