2019/01/20

酒呑童子絵巻

根津美術館で開催中の『酒呑童子絵巻 -鬼退治のものがたり-』を観てきました。

「酒呑童子絵巻」というと、一昨年サントリー美術館で開催された『狩野元信展』に出品された元信筆の「酒呑童子絵巻」が記憶に新しいところですが、本展は根津美術館が所蔵する3種類の「酒呑童子絵巻」を紹介する展覧会です。

酒呑童子は、都から次々と姫君たちを誘拐していく酒呑童子を帝の命を受けた源頼光と四天王らが鬼の居城に乗り込み成敗をするという物語。「酒呑童子絵巻」は鬼の棲み処によって、大江山系と伊吹山系に分かれているそうで、今回展示されているのは何れも伊吹山系の絵巻になります。

ちなみに伊吹山系の基準となる作品が元信の「酒呑童子絵巻」。大江山系の代表作は、『大妖怪展』にも出品されていた逸翁美術館所蔵の「大江山絵詞」になります。

会場に入ってすぐのところに展示されていたのは室町時代の作とされる「酒呑童子絵巻」。筆致は凡庸ですが、お伽草子のようなおおらかさがあって、その素朴なタッチが逆に味わい深い絵巻です。逸翁美術館の現存最古の「大江山絵詞」は南北朝時代の作とされるので、本作もかなり古い部類に入る絵巻だと思いますが、赤鬼が寝そべる光景など、その図様は元信系列の絵巻とはまた違うものがあり、興味深く感じました。

住吉弘尚 「酒呑童子絵巻」
江戸時代・19世紀 根津美術館蔵

本展のメインは江戸末期の住吉派の絵師・住吉弘尚の「酒呑童子絵巻」で、全8巻が展示されています(全場面展示ではない)。弘尚の「酒呑童子絵巻」は前半4巻が異本の伊吹童子の物語をもとに構成されていて、後半4巻が元信本の内容を対応しているという特徴があります。

前半は素戔嗚尊の八岐大蛇退治に始まる伊吹明神の縁起と、伊吹明神と山麓の村の娘・玉姫との間に生まれた伊吹童子の出生譚が中心。3歳の頃には既に酒の味を覚え、比叡山に預けられた童子がやがて狂気の片鱗を見せ、伝教大師最澄の怒りを買い、山から追い出されるという様はもはや怪奇小説のようです。

弘尚の「酒呑童子絵巻」は展示室1と2を使うほどのかなり長大な絵巻ですが、物語性が豊かでストーリーにどんどん引き込まれます。さすが住吉派のやまと絵なので、景観描写や風俗表現は緻密かつ色彩も鮮やかでとても美しい。後半はよく見る酒呑童子の物語で、基本的に元信本に準じているようですが、酒呑童子の屋敷で饗応を受けた源頼光が鬼たちを騙すため人肉を食べたり血の酒を飲んだりして鬼たちを白けさせたとか、みんなで手伝いながら鎧兜に着替えるシーンがあったりとか、斬り落とされた酒呑童子の頭が頼光の兜に噛みついたとか、なかなか生々しく、いろいろつっこみどころもあって楽しめます。

伝・狩野山楽 「酒呑童子絵巻」
江戸時代・17世紀 根津美術館蔵

京狩野の山楽の筆と伝わる「酒呑童子絵巻」も元信本をもとにした作品。探幽にしろ孝信にしろ狩野派は元信本を踏襲した絵巻を代々描いていますが、伝山楽の作品は四方四季の庭の場面が延々と続き、桜や藤、椿、紅葉、鹿や鴛鴦、雁など花鳥の表現がとても手が込んでいます。本作は山楽と特定する確たる証拠がなく、「狩野派に属すしかるべき絵師」というだけなのですが(山楽というよりむしろ山雪という気がするがどうでしょう)、四季の描写のこだわりというか、ねちっこさが京狩野的な感じがします。


【酒呑童子絵巻 鬼退治のものがたり】
 2月17日(日)まで
根津美術館にて


御伽草子 下 (岩波文庫 黄 126-2)御伽草子 下 (岩波文庫 黄 126-2)

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