2016/10/02

平安の秘仏-滋賀・櫟野寺の大観音とみほとけたち

東京国立博物館で開催中の『平安の秘仏-滋賀・櫟野寺の大観音とみほとけたち』を観てまいりました。

櫟野寺(らくやじ)は滋賀南部、甲賀地方にある天台宗の古刹。天台宗の開祖・最澄が比叡山延暦寺を建てるために必要な良材を求めて甲賀を訪れ、“いちい(櫟)の木”で観音様を彫ったことに始まると伝えられています。

近年、滋賀の仏像に注目が集まり、ついこの前も長浜を中心とする湖北の仏像にスポットを当てた『観音の里の祈りとくらし展Ⅱ』が開かれ盛況の内に幕を閉じたばかり。櫟野寺には平安時代の作と伝わる仏像が20体もあり、いずもれ重要文化財というのだから驚きます。本展はその20体全てが初めて寺外で公開されるという貴重な展覧会です。


会場は本館に入ってすぐの特別5室。真ん中には櫟野寺の本尊で、光背も入れると5mは超えるという大きな十一面観音菩薩坐像が鎮座しています。重要文化財に指定された坐像の十一面観音像としては国内で最も大きいといいます。どうやってこの会場に入れたのかというぐらいの大きさですが、実際に搬入も大変だったようですね(詳しくは東博のブログをどうぞ)。お顔はちょっと下膨れして、胸板も厚く、その威厳ある堂々としたお姿に圧倒されます。衣には彩色された模様が微かに残り、昔はさぞ華麗な観音様だったんだろうと思います。

「薬師如来坐像」 (重要文化財)
平安時代・10~11世紀 櫟野寺蔵

「観音菩薩立像」 (重要文化財)
平安時代・12世紀 櫟野寺蔵

櫟野寺の仏像は平安時代中期(10~11世紀前半)制作のものと平安時代後期(11世紀後半~12世紀)制作のものと2つのグループに分かれるといいます。 平安中期の仏像は都の影響を感じさせる優美な佇まいがありますが、後期のものは“鄙びた”という表現で解説されていたように、鉈彫りの仏像や素朴な風情の仏像もあって、地方仏らしい親しみを感じます。

会場の奥には平安後期の作という、こちらも立派な「薬師如来坐像」があります。像高2mあまりで、“周十六”とよばれる理想的な大きさなのだとか。定朝様のふっくらとした穏やかな表情が印象的です。脇には“甲賀様式”の典型的な仏像という「観音菩薩立像」や「十一面観音菩薩立像」が。こちらは平安中期の作。“甲賀様式”とは、すらりとした長身細身、少し丸みを帯びた顔に吊り上り気味の目が特長の、櫟野寺をはじめとする甲賀地方の独特の仏像の様式のこと。険しさとともに凛とした気品を漂わせています。

「地蔵菩薩坐像」 (重要文化財)
平安時代・文治3年(1187) 櫟野寺蔵

ほかにも、厚い体躯が印象的な「毘沙門天立像」や、僧形神像との指摘もあるという「地蔵菩薩立像」、制作当時の貴重な木製光背が残る「地蔵菩薩坐像」など、少ない点数ながらも見応えがあります。

様式も限定され、手先や腕が欠損した状態のものも多いのですが、興味深い仏像もあって個人的には面白く拝見しました。仏像ファンなら必見だと思います。

なお、櫟野寺は本堂と文化財収蔵庫(宝物殿)の改修を行うため仏像の拝観をしばらく休止するのだそうです。次回観られるのは2018年10月に行われる33年に一度の大開帳とのこと。


【平安の秘仏-滋賀・櫟野寺の大観音とみほとけたち】
2016年12月11日(日)まで
東京国立博物館・本館特別5室にて


かくれ里 (講談社文芸文庫―現代日本のエッセイ)かくれ里 (講談社文芸文庫―現代日本のエッセイ)


1冊でわかる滋賀の仏像: 文化財鑑賞ハンドブック1冊でわかる滋賀の仏像: 文化財鑑賞ハンドブック

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