2016/03/08

宮川香山展

サントリー美術館で開催中の『没後100年 宮川香山』展を観てまいりました。

今年は真葛焼の初代宮川香山の没後100年ということで、宮川香山の展覧会がいくつかあるようですが、本展は真葛香山研究の第一人者である田邊哲人氏のコレクションを中心にした回顧展。陶磁器だけで約140点も出品されています。

もともと工芸品の輸出政策として作られたという経緯もあり、宮川香山の作品は国内にあまり残ってなく、田邊氏は約50年かけて海外へ流出した香山作品を買い戻してきたのだそうです。

わたし自身は、香山の作品は明治時代の工芸品の展覧会や美術館の常設展などで拝見した程度で、陶磁器をちゃんと観ようと思うようになったのも最近のことなので、宮川香山のこともあまり詳しくはありません。これだけの数の作品を一堂に、しかも初期から晩年まで満遍なく観られるというのは、ファンにも私のような初心者にも嬉しいですね。


第一章 京都、虫明そして横浜へ

宮川香山はもともとは京都の人で、真葛焼という名は桜で有名な円山公園のあたりを指す真葛ヶ原という地名から取ったものなのだそうです。最初のコーナーには江戸末期から明治初期にかけての、京都時代の作品も並んでいます。主に京焼の茶器や香炉が多いのですが、その中にも後年の高浮彫を思わす手の込んだ作品や中国陶磁を意識した作品などもあって、若い頃から割とチャレンジングな傾向があったのだなと感じます。

宮川香山 「高浮彫牡丹ニ眠猫覚醒蓋付水指」
明治時代前期(19世紀後期) 田邊哲人コレクション蔵(神奈川県立歴史博物館寄託)

会場の入口には香山を特徴づける高浮彫の作品の中から、かわいい猫とインパクトのある蟹がいて、導入部からつかみはOKという感じです。

宮川香山 「高取釉高浮彫蟹花瓶」
大正5年(1916) 田邊哲人コレクション蔵(神奈川県立歴史博物館寄託)


第二章 高浮彫の世界

高浮彫は技術的に難しい難しいとはよく聞きますが、たとえその工程や技について知らなくても、この超絶技巧の作品を観れば、そのレベルの高さがマックス級だと分かりますし、クレイジーじゃないかと思うほどの発想と常識破りのチャレンジ精神には舌を巻きます。

形にしても色にしても、みな計算し尽くされていて、ここに至るまでには相当の失敗や実験を繰り返したんでしょうが、どれも技の極みという感じがします。高浮彫の装飾は歪みが生じやすく焼成が難しいので、たとえば花瓶や壺の表面の立体的な鳥は内側に空気穴をあけて、胴のふくらみが変形しないようにしているのだそうです。

宮川香山 「高浮彫桜ニ群鳩大花瓶」
明治時代前期(19世紀後期) 田邊哲人コレクション蔵

鳥の羽根は一枚一枚が彫刻のように美しく、猫は口の中の舌まで丁寧に作られていたり、柿をついばむ鳩や枯れた蓮の葉の上の蛙など、どれも超絶リアル。花瓶の一部が大きく刳り貫かれて洞窟のようになっていて、その中に熊の親子がいたり、どんな技術をもってこんな作品ができるのか、もう頭の中は?マークでいっぱいになります。

[写真右から] 宮川香山 「高浮彫桜ニ群鳩三連壺」
明治時代前期(19世紀後期) 田邊哲人コレクション蔵(神奈川県立歴史博物館寄託)

精緻で独創的な高浮彫ばかりに目が奪われてしまうのですが、陶磁器に絵付けされた花鳥や風景の写実的表現や色彩がまた素晴らしく、それにより装飾の立体感や迫力が増幅されている気がします。会場の途中に香山の日本画がありましたが、さすがにその実力は高く、非常に味わい深いものがありました。

[写真右から] 宮川香山 「高浮彫四窓遊蛙獅子鈕蓋付壺」
明治時代前期(19世紀後期) 田邊哲人コレクション蔵
宮川香山 「高浮彫蛙武者合戦花瓶」
明治時代前期(19世紀後期) 田邊哲人コレクション蔵(神奈川県立歴史博物館寄託)


太鼓を叩く蛙に巻物を広げる蛙。芸が細かいですね。まわりの美しい装飾絵も必見ですよ。


4階から3階に下りた吹き抜けのスペースは今回特別に写真撮影ができるようになってます。撮影可の対象は4作品6点。いずれも香山の技の粋を集めた傑作です。SNSで拡散しよう!

(※第二章で使用した写真はこのコーナーで撮影したものです)


第三章 華麗な釉下彩・釉彩の展開

晩年は真葛窯の経営を二代目宮川香山に継ぎ、香山は中国の古陶磁や釉薬の研究・開発に没頭します。高浮彫はもう極め尽くしたのでしょう。それでも陶磁器に対するあくなき挑戦は続きます。こってりしたものの後にはさっぱりしたものをと言いたいところですが、ここからがまたすごい。

宮川香山 「釉下彩盛絵杜若図花瓶」
明治時代中期~後期(19世紀後期~20世紀初期)
田邊哲人コレクション蔵(神奈川県立歴史博物館寄託)

青華や釉裏紅、青磁、窯変、結晶釉・・・。高浮彫のような派手さはありませんが、シンプルな造形の中に釉下彩や彩色やデザインをどんどん突き詰めていくんですね。血のような赤が鮮烈な牛血紅、独特の黒さが印象的な琅玕釉、青華で山水を描き濃淡だけで表現したもの、撫子の花を白抜きしたもの、蓮の花や紫陽花を白盛りしたもの、等々。どれも一様に垢抜けているとうか、とてもモダンなんです。アールヌーヴォーに影響を与えたといわれる訳も分かります。

宮川香山 「色嵌釉紫陽花図花瓶」
明治時代後期~大正時代初期(19世紀末期~20世紀前期)
田邊哲人コレクション蔵(神奈川県立歴史博物館寄託)

1時間ぐらいのつもりで行ったのですが、気づいたら閉館時間になってしまって、全然時間が足りませんでした。ひとつひとつじっくり観ていると時間が経つのも忘れます。会期末は混雑必至でしょうから、混まない内に行かれることをお勧めします。


【没後100年 宮川香山】
2016年4月17日(日)まで
サントリー美術館にて


田辺哲人コレクション大日本明治の美横浜焼、東京焼田辺哲人コレクション大日本明治の美横浜焼、東京焼

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