2015/06/14

着想のマエストロ 乾山見参!

サントリー美術館で開催中の尾形乾山の展覧会『着想のマエストロ 乾山見参!』を観てまいりました。

陶器や茶器といった美術品の展覧会ってあまり積極的に観てきてないんですが、これは是非観たいなと思って楽しみにしていました。

もちろん尾形光琳の弟ということもありますし、琳派ということもありますが、乾山の作品は琳派の展覧会でよく観ることがあるので以前から親しみを持っていたというのがあるのかもしれません。

乾山以外の関連の作品も含め、出品数は前後期合わせ136点。入れ替えがある作品は多くないので、だいたい120点が常時展示されています。結構なボリュームです。乾山の美意識の高さに圧倒されます。


会場の構成は以下のとおりです:
第1章 乾山への道 - 京焼の源流と17世紀の京都
第2章 乾山颯爽登場 - 和・漢ふたつの柱と大平面時代
第3章 「写し」 - 乾山を支えた異国趣味
第4章 蓋物の宇宙 - うつわの中の異世界
第5章 彩りの懐石具 - 「うつわ」からの解放
第6章 受け継がれる「乾山」 - その晩年と知られざる江戸の系譜

尾形乾山 「色絵定家詠十二ヶ月和歌花鳥図角皿」
江戸時代・18世紀 MOA美術館蔵

光琳・乾山は京都の高級呉服商の次男と三男。若い頃の光琳は放蕩三昧で父の遺産を使い果たし、弟・乾山からも借金をしたといいます。40代で画業に身を入れた兄と対照的に乾山は若くして隠遁生活を送るような人で、野々村仁清に作陶を学び、30代で窯を開きます。このときから名を「乾山」としたようです。

最初のコーナーには、初期京焼や楽焼のルーツとされる華南三彩やそれを模した織部が展示されていて、いかに明の三彩釉を日本の陶芸家たちが再現しようとしていたか苦心の過程を見る思いがします。ほかにも初期伊万里や小堀遠州の茶風(綺麗寂)を反映した茶器、仁清の作品など、乾山へ連なる系譜を確認できます。

乾山の初期の作品には、狩野探幽の「定家詠十二ヶ月和歌花鳥図画帖」を器に描いた十二枚の各皿や、やはり狩野派や琳派の意匠を描いた色絵皿などがあります。器に絵を描くというのではなく、まるで紙に絵を描くように絵を器にしてしまうという発想の転換が乾山の斬新さだったようです。

尾形乾山作/光琳画 「銹絵観鷗図角皿」(重要文化財)
江戸時代・18世紀 東京国立博物館蔵

兄・光琳とコラボした作品もいくつかあったのですが、雪舟風の楼閣山水図だったり、宗の詩人だったり、意外と琳派的な作品ではない作品が多いのが印象的。文人趣味的な嗜好があった人ですから、詩と画を描いたまるで詩画軸のような器もありました。琳派的な華やかな世界もあれば、こうした静謐な世界もある。面白いですね。

尾形乾山 「色絵桔梗文盃台」
江戸時代・18世紀 MIHO MUSEUM蔵

乾山の作品というと、洗練された意匠、カラフルな色合い、そしてユニークな造形ですね。椿文や桔梗文、菊文といった盃台(杯を乗せる台で、飲み残しは中央に捨てる)を観てると、当時の最先端のオシャレ・グッズだったんだろうなという感じがします。

尾形乾山 「銹絵獅子香炉」
江戸時代・18世紀 出光美術館蔵

この「銹絵獅子香炉」の超絶技巧ぶりというか、精緻さというか、ビックリします。タタラのよる型打ち成形の香炉だそうで、欄干のついた台上には獅子がいます。ちょっとおどけた表情がおかしい。唐様の錆絵のシックな色合いもいいですね。

ヨーロッパの錫釉陶器に着想を得たという器や明の古赤絵風の唐絵文の水注、安南(ベトナム)の焼物を参考にしたという茶碗など異国趣味の陶磁器はなかなか興味深いものがあります。京焼や織部、唐津にとどまらず、さらには海外の陶磁器まで様々なものを貪欲に取り入れ着想の源にしていたのがよく分かります。安南焼を模した作品は、チョコレートボトムとよばれる特徴的な鉄銹で塗られた素朴で粗いタッチの絵付でユニークです。

尾形乾山 「銹絵染付金銀白彩松波文蓋物」(重要文化財)
江戸時代・18世紀 出光美術館蔵

「銹絵染付金銀白彩松波文蓋物」は、デフォルメされた松樹を金、銀、染付、白彩で抜き、釉薬をかけずに素地を残した外面と染付と金彩で波を表した内面という凝った手法の蓋物。松林の浜辺を思わす風雅な逸品です。外と内の質感の違いも面白い。格子文や連珠文、縞文といった古風な柄の染織を思わす魯山人旧蔵の「織部四方蓋文」や、まるでクレーのようなカラフルな「色絵石垣文皿」(実際は明清時代の氷裂文を写したものとか)など、抽象絵画を思わせるモダンな作品もあります。

尾形乾山 「色絵石垣文皿」
江戸時代・18世紀 京都国立博物館蔵

尾形乾山 「色絵龍田川図向付」
江戸時代・18世紀 MIHO MUSEUM蔵

形は同じでも色の配置が全て違う紅葉型の向付や土の肌に百合の花を銹絵でかたどった器、カラフルな光琳菊の猪口、松や葵、菊、桐、紅葉等々図様がかわいい汁次(蕎麦のつけ汁を入れる容器)、ぼってりとした厚塗りの夕顔が描かれた黒茶碗、鉢の深さが川の深さを暗示している色絵鉢など、手の込んだ造形と色の美しさ、目にも楽しい作品が並びます。こういう器が家にあったら、どんなに生活が華やかで趣のあるものになるでしょう。

尾形乾山 「色絵龍田川文透彫反鉢」
江戸時代・18世紀 出光美術館蔵

尾形乾山 「色絵椿文向付」
江戸時代・18世紀 MIHO MUSEUM蔵

わたしのように陶磁器初心者にも入りやすし、楽しめる展覧会でした。サントリー美術館らしい観客目線の構成や丁寧な解説もとても好ましく感じました。乾山、素晴らしすぎます。


【着想のマエストロ 乾山見参!】
2015年7月20日まで
サントリー美術館にて


乾山焼入門乾山焼入門

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