2015/04/09

ルーブル美術館展

国立新美術館で開催中の『ルーブル美術館展 日常を描く-風俗画にみるヨーロッパ絵画の真髄』に行ってきました。

主催の日テレはこれまでにも何度かルーブル美術館展を開催していますが、なんだかルーブル美術館と長期的な契約を交わしたとかで、2018年から2034年までの20年間に合計6回のルーヴル美術館展を日本で開催するのだそうです。本展はそのシリーズに先立つ展覧会とのこと。今回は“風俗画”にスポットを当てています。

そのうち「モナリザ」あたりが再来日するんじゃないのかと淡い期待を抱いてしまいますが、今回は目玉としてフェルメールの「天文学者」が来日しています。

伺った日は平日でしたが、ちょうど春休みということもあり、館内は親子連れや学生、カップルなど大勢の人で賑わっていました。さすがルーブル。


さて、会場の構成は以下の通りですじ:
プロローグ
第Ⅰ章 「労働と日々」-商人、働く人々、農民
第Ⅱ章 日常生活の寓意-風俗描写を超えて
第Ⅲ章 雅なる情景-日常生活における恋愛遊戯
第Ⅳ章 日常生活における自然-田園的・牧歌的風景と風俗的情景
第Ⅴ章 室内の女性-日常生活における女性
第Ⅵ章 アトリエの芸術家

まずは古代エジプトやギリシャ、中東の作品の中の日常的情景の表現に風俗画の起源を見ていくということで、遺跡の破片や壺などが並びます。混雑する展覧会はいつもそうですが、入ってすぐの場所は何重もの列で、あまりゆっくり観られず。

つづいて、<絵画のジャンル>として、歴史画や肖像画、風景画、静物画を代表する作品例を紹介。 風俗画がジャンルとして認められるのは18世紀後半から19世紀にかけてのことだといいます。

ル・ナン兄弟 「農民の食事」
1642年

17世紀のフランスのル・ナン兄弟の作品は一見農民画という雰囲気ですが、テーブルの上のパンとワインは宗教的な暗喩でしょうか。陰影に富んだ描写はカラヴァッジョの影響も指摘されています。

バルトロメ・エステバン・ムリーリョ 「物乞いの少年(蚤をとる少年)」
1647-48年頃

西洋美術の本で取り上げられることも多い、スペインのバロック期を代表するムリーリョの傑作「物乞いの少年」も来ています。強い明暗対比と写実的な少年の描写が素晴らしい。貧しさを物語る粗末な服や汚れた足の裏、虱をつぶす手、床に散らばる海老の殻や芋。何ともやるせない気持ちにさせます。

“抜歯屋”を題材にした二つの作品は面白かったですね。抜歯は医者が行うものと祭りで見世物として行われるものがあるそうで、痛がる患者と周囲の人々の表情がおかしい。

ピーテル・ブリューゲル1世 「物乞いたち」
1568年

小品ながらもインパクトがあったのが、ブリューゲル(父)の最晩年の作「物乞いたち」。物乞いする不具者を描いていますが、それぞれ被っている帽子が王や司教、兵士、市民、農民を表していて、階級制度への批判ではないかと考えられているそうです。顔の表情がいかにもブリューゲルらしい。

ヨハネス・フェルメール 「天文学者」
1668年

やはりここはフェルメール。フェルメールらしい構図、ずば抜けた写実性、想像を膨らますさまざまな小道具。見れば見るほど興味深い作品だなと感じます。大航海時代のオランダを思わせる地球儀や東洋風の衣服もイメージを掻き立てます。もしも願いが叶うなら、「地理学者」と並べて観てみたいですね。

レンブラント・ファン・レイン 「『聖家族』または『指物師の家族』」
1640年

レンブラントもありました。一見、家族の風景のようですが、幼子イエスに授乳する聖母マリアとマリアの母、そしてイエスの父ヨセフの聖家族を描いたものだそうです。非常に精緻な描写ですが、光の表現はフェルメールとはまた違うのが面白い。

ジャン=バティスト・グルーズ 「割れた水瓶」
1771年

印象的だったのがグルーズの「割れた水瓶」。グルーズは風俗画の評価がまだまだ低かった時代に、アカデミーの会員にもなった17世紀フランスを代表する風俗画家。乱れた衣服や割れた水瓶は純潔の喪失を表しているといい、教訓的な絵画として高い人気を集めたのだそうです。

ピーテル・デ・ホーホ 「酒を飲む女」
1658年

フェルメールやレンブラントといったオランダ絵画の展覧会があると、同時代のオランダの風俗画を観る機会が割とありますが、そこでよく見かけるのが男女の恋愛にまつわる絵画。ここでも17世紀オランダ絵画を代表するデ・ホーホ、ヤン・ステーンの作品があります。ただ、ルーブルの美術展なのでフランスの風俗画が多いのは致し方ないところ。個人的にはオランダの風俗画ももう少し観たかったかなと。

ジャン・シメオン・シャルダン 「猿の画家」
1739-40年頃

最後は画家のアトリエを題材にした作品。ありきたりな感じの作品が多い中、意表をついたのがシャルダンの「猿の画家」。シャルダンというと、数年前に『シャルダン展』があって、静物画や風俗画をいろいろと観ましたが、こんな作品も描いていたとは。

ティツィアーノ・ヴェチェッリオ 「鏡の前の女」
1515年頃

ほかに印象に残った作品は、ティツィアーノの「鏡の前の女」、ルーベンスの「満月、鳥刺しのいる夜の風景」やレピシエの「素描する少年」、コローの「身づくろいをする若い娘」などなど。

本展は目玉という目玉はフェルメールぐらいしかないんですが、そこはルーブル・クオリティ。風俗画といえども、質の高い作品が来ています。


【ルーブル美術館展 日常を描く-風俗画にみるヨーロッパ絵画の真髄】
2015年6月1日(月)まで
国立新美術館にて


ルーヴル美術館の名画 フェルメールと「風俗画」の巨匠たち: なぜ「天文学者」はキモノを着ているのか?ルーヴル美術館の名画 フェルメールと「風俗画」の巨匠たち: なぜ「天文学者」はキモノを着ているのか?



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