2014/01/11

大浮世絵展

江戸東京博物館で開催中の『大浮世絵展』に行ってきました。

開催2日目に観てきたのですが、まだ三が日ということもあり、館内は朝から大変な人出で、とても賑わっていました。

本展は国際浮世絵学会の創立50周年を記念する展覧会で、実は東日本大震災のため開催が延期になっていた展覧会なのだそうです。

その大仰なタイトルのとおり、浮世絵の創世記から昭和に至るまで、浮世絵を代表する名作・傑作約430点(会期中入れ替えあり)が展示されるという過去最大規模の浮世絵展。国内の美術館や個人蔵の作品だけでなく、大英博物館やホノルル美術館など浮世絵コレクションで知られる海外の美術館からも作品が集められ、まさしく浮世絵の「教科書」のような展覧会でした。


1章 浮世絵前夜

まずは浮世絵の源流といわれる江戸時代初期の風俗画から観ていきます。初期風俗画の代表作である国宝「彦根屛風」や岩佐又兵衛派のものとされる作品が展示されていました。

「風俗図屏風(彦根屏風)」 (国宝)
彦根城博物館蔵 (展示は1/14まで)

今回初めて「彦根屏風」を拝見しました。よく取り上げられる屏風右手の人物のポーズや着物の柄など風俗画としての面白さはもちろんですが、左手に描かれている水墨画の屏風の精緻さや三味線を弾く男性の巧みな描写など観るべき箇所も多く、聞きしに勝る傑作でした。


2章 浮世絵のあけぼの

ここでは初期の浮世絵を展示。版画は庶民でも手に入れることのできる身近な絵画として人気を集め、急速に広まったといいます。最初は単色の墨摺絵で単純な構図だったものが、紅絵、丹絵、紅摺絵とだんだんと色数も増え、手の込んだ絵柄が編み出されて行く過程が展示品からよく分かります。

奥村政信 「羽子板をもつ八百屋お七」

最初の浮世絵師といわれる菱川師宣、鳥居派の祖・鳥居清信、立美人図で知られる宮川長春や懐月堂安度などの作品が取り上げられています。くの字型の独特の肢体が艶麗な長春の「立美人図」や奥村政信の掛物絵の「羽子板をもつ八百屋お七」、石川豊信の見応えのある大判錦絵「市川海老蔵と鳴神上人と尾上菊五郎の雲の絶間姫」など、初期浮世絵の面白さを堪能できます。


3章 錦絵の誕生

18世紀中頃になると木版多色摺技法が発達。錦絵の誕生です。多いものでは10色以上の色を重ねることも可能になったといいます。ここでは錦絵創始期の第一人者・鈴木春信、勝川春章、礒田湖龍斎などの作品が紹介されています。

鈴木春信 「雪中相合傘」

このコーナーで一番良かったのが春信の「雪中相合傘」。相合い傘の男女の愛おしさ、風情が秀逸です。春章は役者絵に交じっての肉筆美人画「遊女と燕」がひときわ印象的。着物の柄も色味も美しく、素晴らしい出来です。 賛は大田南畝とのこと。

勝川春章 「遊女と燕」
東京国立博物館蔵 (展示は2/2まで)


4章 浮世絵の黄金期

やがて浮世絵は黄金期を迎えます。鳥居清長、喜多川歌麿、歌川豊国、そして東洲斎写楽。ここでは優れた絵師が続々と輩出され、後世に残る傑作が次々と生み出された18世紀後期の作品を展示しています。

鳥居清長 「大川端夕涼」

このコーナーで最初に登場するのが清長。「大川端夕涼」の女性たちは今でいう渋谷辺りをたむろする若い女性といったところでしょうか。左三人は少しヤンキー風、右三人はオシャレ気取り。当時の風俗が垣間見れて面白いです。

鳥居清長 「駿河町越後屋正月風景図」
三井記念美術館蔵 (展示は1/20まで)

「駿河町越後屋正月風景図」は現在の三井、三越のルーツである越後屋の繁盛ぶりを描いた清長の珍しい肉筆画で、遠近法を強調した俗にいう浮絵になっています。

喜多川歌麿 「四季遊花之色香 上下」

喜多川歌麿 「錦織歌麿形新模様 白打掛」
(展示は2/2まで)

歌麿もたくさん。紗の着物の奥に女性の顔を描いたユニークな「四季遊花之色香」や黄つぶし地が美しい「錦織歌麿形新模様 白打掛」、江戸で評判の三美人を描いた「当時三美人」、うりざね顔が美しい「芸妓図」が印象的。珍しい両面摺りの「難波屋おきた」や、面白いところでは「画本虫撰」という虫や植物をスケッチした絵本もありました。

鳥文斎栄之 「略六歌仙喜撰法師」

千葉市美術館やトーハクなどで拝見するたび、いいなぁといつも感心している鳥文斎栄之の美人画も。歌麿の大首絵と拮抗する人気を博した展示の解説にありました。いやぁ、美しい。

東洲斎写楽 「市川鰕蔵の竹村定之進」
(展示は1/14まで)

そして当然、写楽も。写楽は数年前のトーハクの『写楽展』があったからか、出展は少なめ。それでも常時3~4点ほど展示されているようです。


5章 浮世絵のさらなる展開

19世紀に入ると、さらに浮世絵文化は爛熟し、風景版画や花鳥版画が登場。葛飾北斎や歌川広重、昨今人気の歌川国芳の作品を紹介しています。

渓斎英泉 「仮宅の遊女」
(展示は1/20まで)

ここ最近気になっていた渓斎英泉が観られたのも収穫でした。歌麿や栄之の美人画ともまた違う、どこか官能的でアクのある美人画で非常に面白く感じます。藍摺絵の「仮宅の遊女」は本展での一、二を争うお気に入り。

葛飾北斎 「富嶽三十六景 神奈川沖浪裏」
(展示は2/2まで)

葛飾北斎 「紫陽花に燕」
(展示は2/2まで)

北斎は作品が一番出ていたのではないでしょうか。自分が観たときだけでも18点ありました。「神奈川沖浪裏」や「凱風快晴」といった名の知れた傑作から、「北斎漫画」や「百物語」までいろいろ。個人的には「紫陽花に燕」と晩年の「端午の節句」が深く印象に残りました。

葛飾応為 「夜桜図」
(展示は1/20まで)

昨今注目が集まっている北斎の娘で、天才と誉れ高い応為の「夜桜図」も。灯りの照らす顔や桜、着物の明暗の美しさ、闇を表現する黒のバリエーション、非常に素晴らしい作品です。応為の作品は1/20までの展示です。

歌川広重 「阿波鳴門之風景」
(展示は1/26まで)

広重は「東海道五十三次」や「名所江戸百景」といった人気の風景画の中で、「阿波鳴門之風景」にはちょっと見入ってしまいました。大らかな海と渦の激しさのバランス、表現が秀逸です。

上方絵のことがパネルにあったので、どんなものかと楽しみにしていましたが、実際には3点ほどしかなく、ちょっと物足らない感があり残念でした。


6章 新たなステージへ

最後は幕末、そして明治以降の浮世絵版画を紹介。 血みどろ絵の芳年や河鍋暁斎、楊洲周延といった最後の浮世絵師といわれた絵師たちの作品をはじめ、新版画の伊東深水や橋口五葉、川瀬巴水などの作品が並んでいます。

月岡芳年 「奥州安達がはらひとつ家の図」
(展示は2/2まで)

川瀬巴水 「日本梅(夜明け)」
(展示は2/2まで)

ユニークなところでは、小林清親の「画布に猫」が版画というより、見た目まるで油絵のようで、こんな版画作品もあるのだと、ちょっと衝撃的でした。

小林清親 「画布に猫」
(展示は1/14まで)

浮世絵って江戸時代を代表する絵画文化ではありますが、浮世絵と言われてすぐ思い浮かべる錦絵に限ると、隆盛したのはほんの江戸後期の100年ほどなんですよね。明治に入ると浮世絵は新しい局面を迎えますし。この江戸時代の浮世絵という文化の盛り上がりとバラエティ豊かな作品群、その奥深さ、そしてそれが与えた影響(西洋へのジャポニスムも含め)、そうしたことを考えると、こんな興味をそそるものはないですし、その浮世絵を観て、学び、愉しむには絶好の展覧会ではないかと思います。


【大浮世絵展】
2014年3月2日(日)まで
江戸東京博物館にて


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