今年は、三菱の創業者・岩崎彌次郎の弟で二代目社長の彌之助と四代目社長の小彌太の父子が静嘉堂文庫を設立して120年、また美術館が開設されて20年ということで、静嘉堂文庫の数あるコレクションの中から至宝の数々を紹介する記念展が開かれています。まずは第一弾として日本絵画の名品が展示されています。
展示構成は以下の通りです。
・絵巻-物語絵巻の世界
・祈りの美-仏画・垂迹図
・静謐なる室町水墨画
・華麗なる江戸絵画
会場に入るとまずいきなり「平治物語絵巻」の「信西巻」が。恐らく今回の展覧会に足を運んだ方の多くはこの絵巻が目的でしょう。
「平治物語絵巻」は、ボストン美術館所蔵の「三条殿夜討巻」、東京国立博物館所蔵の「六波羅行幸巻」、そして静嘉堂文庫美術館所蔵のこの「信西巻」の3巻のみが現存しており、現在それら全てが東京で揃って公開されています。
「平治物語絵巻 信西巻 [部分]」(重要文化財)
鎌倉時代・13世紀 静嘉堂文庫美術館蔵
鎌倉時代・13世紀 静嘉堂文庫美術館蔵
「平治物語絵巻」で描かれている平治の乱は、後白河院の側近で平清盛に近い信西の政治的台頭を快く思わない藤原信頼と源義朝が起こしたクーデターで、この「信西巻」はボストン美術館所蔵の「三条殿夜討巻」の次の話にあたり、源氏軍に襲われた信西が自害を遂げる場面が描かれています。
なお、本展は「信西巻」一巻すべての公開ではなく、展示期間中、3回に分けて巻き替えが行なわれます。
4/14~4/26: 信西追捕の詮議と信西自害の場面
4/27~5/8: 信西自害から首実検までの場面
5/9~5/20: 都大路の武者行列と西獄門の場面
ちょうどこの日は、信西自害から首実検までの場面が展示されていました。「三条殿夜討巻」や「六波羅行幸巻」同様、戦の激しさが伝わってくるようなリアルな描写で、山中に密かに埋葬された信西の死骸を掘り起こして首を掻き切るなど、生々しさが印象に残りました。
「平治物語絵巻 六波羅行幸巻 [部分]」(国宝)
鎌倉時代・13世紀 東京国立博物館蔵
(※ 「六波羅行幸巻」は本展には出展されていません)
鎌倉時代・13世紀 東京国立博物館蔵
(※ 「六波羅行幸巻」は本展には出展されていません)
「三条殿夜討巻」: 東京国立博物館・特別展『ボストン美術館 日本美術の至宝』にて6/10まで展示
「六波羅行幸巻」: 東京国立博物館・総合文化展 本館2室・国宝室で5/27まで展示
※ 「平治物語絵巻」3巻鑑賞の相互割引があります。詳しくはこちらへ。
翌日、東京国立博物館で「六波羅行幸巻」を観て、三巻制覇を果たしましたが、この合戦絵巻の傑作が長い年月の中、バラバラになってしまったというのはちょっと残念な気がします。いつの日か全巻が一堂に会して鑑賞できる日が来ればいいなと思います。
「普賢菩薩像」 (重要文化財)
鎌倉時代・13世紀 静嘉堂文庫美術館蔵
鎌倉時代・13世紀 静嘉堂文庫美術館蔵
会場には、「平治物語絵巻 信西巻」のほかに、「住吉物語絵巻」(重要文化財)、「駒競行幸絵巻」(重要文化財)が展示されています。特に「住吉物語絵巻」の平安王朝の雅な恋物語と十二単の彩色の美しさは必見です。
仏画・垂迹画のコーナーは、展示されていた8作品の内、6作品が重要文化財、1作品が重要美術品という傑作揃い。いずれも鎌倉・南北朝時代の作品で、特に「普賢菩薩像」と修復後初公開という「弁財天像」は厳かさと美しさが目を見張ります。
伝・周文 「四季山水図屏風 [右隻]」(重要文化財)
室町時代・15世紀 静嘉堂文庫美術館蔵(※5/6まで展示)
室町水墨画のコーナーでは、周文と伝承される作品の中でも特に優品として名高いという「四季山水図屏風」がまず素晴らしい。濃い筆致と淡い筆致で奥行き感をだし、深山幽玄の赴きが漂っています。周文筆とされるものには弟子が描いたのではないかといわれるものも多く、この作品も弟子の雪舟や小栗宗湛との類似性や、また宗湛から水墨画を学んだ狩野正信の名前も指摘されていました。
「四条河原遊楽図屏風 [部分]」(重要文化財)
江戸時代・17世紀 静嘉堂文庫美術館蔵
江戸時代・17世紀 静嘉堂文庫美術館蔵
江戸絵画のコーナーでは、「四条河原遊楽図屏風」が一際目を惹きます。四条河原にまだ遊郭があり、女歌舞伎が流行り、賑やかだった時代の風俗を描いたもので、ヤマアラシの見世物小屋や南蛮人(?)の犬の芸、鴨川では魚とりや川遊び、その横では子どもにおしっこさせるお母さんなど活気あふれる市井の様子は観ていて飽きません。屏風がガラスの間近に展示されているので、単眼鏡がなくても舐めるように見ることができます。
円山応挙 「江口君図」(重要美術品)
江戸時代・寛政6年(1794年) 静嘉堂文庫美術館蔵
江戸時代・寛政6年(1794年) 静嘉堂文庫美術館蔵
円山応挙の「江口君図」は、遊女が普賢菩薩になった謡曲「江口」を描いたもので、「普賢菩薩像」の典型的イメージを借用し、象の上に普賢菩薩に見たてた遊女が乗るという面白いもの。応挙らしい気品と繊細で柔らかな表現が際立った美しい作品でした。
ほかにも、渡辺崋山の「遊魚図」と「芸妓図」(いずれも重要文化財)、英一蝶の「朝暾曳馬図」、谷文晁の「赤壁図」など名品揃い。『大琳派展』にも出展されていた酒井抱一の「波図屏風」(展示は5/6まで)と鈴木其一「雨中桜花楓葉図」にも久しぶりに再会できました。
酒井抱一 「絵手鑑 [一部]」
江戸時代・19世紀 静嘉堂文庫美術館蔵
江戸時代・19世紀 静嘉堂文庫美術館蔵
酒井抱一の「絵手鑑」は、一帖の画帖の36枚ずつ裏表で計72枚を張り込んだ作品。抱一が光琳だけでなく、狩野派、土佐派、円山四条派、中国画など幅広い画技を習得していたことが分かる貴重な作品です。琳派風あり、若冲風あり、俳画風ありとバラエティに富み、抱一ファンなら手元に置いておきたいような垂涎の画帖です。展示は一部の作品だけですが、横にあるミニモニターで全作品鑑賞できます。
それほど広くない展示室で、展示数も約30点(一部入れ替えあり)と少ないのですが、どれも逸品揃いで、じっくり見ていたら、軽く1時間が経っていました。二子玉川駅からバスという、ちょっと不便なところにありますが、静嘉堂文庫美術館が誇る選りすぐりの日本美術の名品ばかりですので、一度足を運んでみてはいかがでしょうか。
【受け継がれる東洋の至宝 PartⅠ東洋絵画の精華 ― 名品でたどる美の軌跡 ―】
2012年4月14日(土)~5月20日(日) 珠玉の日本絵画コレクション(前・後期あり)
2012年5月23日(水)~6月24日(日) 至高の中国絵画コレクション
静嘉堂文庫美術館にて
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