2018/10/07

小原古邨 -花と鳥のエデン-

茅ヶ崎市美術館で開催中の『原安三郎コレクション 小原古邨展 -花と鳥のエデン-』展を観てきました。

小原古邨は明治後期から昭和初期まで活躍した新版画を代表する版画家。千葉市美術館で2013年に開催された『琳派・若冲と花鳥風月』で観た古邨の花鳥版画が印象に残っていて、今回まとめて古邨の木版画を観る機会があるということで茅ヶ崎まで行ってきました。

茅ヶ崎市美術館は初めて行きましたが、駅からも徒歩10分圏内と近く、閑静な住宅街の公園にあるモダンな佇まいの美術館でした。この日は時間がなく、駅と美術館の往復となりましたが、時間に余裕があれば、海の方まで散歩してもいいでしょうね。

今回の展覧会は、浮世絵コレクターで知られる原安三郎のコレクションを中心にしたもの(古邨の遺族所蔵の作品も一部出品されています)。原安三郎コレクションというと2016年にサントリー美術館で開催された『広重ビビット』が記憶に新しいところ。今回公開される古邨の作品は前後期で230点(前後期で全点入れ替え)。ここまでの規模で古邨の作品が紹介されるのは初めてで、展示作品も全て初公開。摺や保存状態が極めて良いものだけを選んだというだけあり、どれも大変状態が良いのに驚きました。

[写真左から] 小原古邨 「紅梅に鷽」「梅に鶯」
明治後期 中外産業株式会社蔵(原安三郎コレクション) (※展示は10/8まで)

[写真左から] 小原古邨 「雨中の桐に雀」「雨中の柳に小鷺」
明治後期 中外産業株式会社蔵(原安三郎コレクション) (※展示は10/8まで)

会場は、春夏秋冬の季節、また吉祥画などで章立てされ、花鳥や動物などを描いた版画がテーマごとに展示されています。どれもほぼ縦36~38cm×横20cm弱のサイズで、季節を表す草花や鳥、動物、昆虫などが見事な構図の中に収められています。版元が小林清親の版画と同じ大黒屋ということもあって、精緻な版画技術と高度な多色刷りは極めて完成度が高く、これ肉筆じゃないの?と見間違えてしまうほど。繊細な筆触までも再現されています。

[写真左から] 小原古邨 「水連に金魚」「蓮に蛙」
明治後期 中外産業株式会社蔵(原安三郎コレクション) (※展示は10/8まで)

様式的な構図、細緻な表現、落ち着いた美しい色彩、今観ても十分素晴らしいのですが、当時は日本より欧米で高く評価されたようで、作品の多くは海外へ輸出されたといいます。海外から逆輸入の形で日本で再評価されたという点で、やはり日本の抒情的な風景を多く描いた吉田博や川瀬巴水を思い起こさせます。古邨の描く世界は、どこにでもある日本の自然の風景、季節のひとこまであり、今でこそ失われた日本の風情に懐かしさを覚えますが、当時の日本人にとっては綺麗だとは思っても、特別視するようなものではなかったのかもしれません。

[写真左から] 小原古邨 「雪中の梅に緋連雀」「椿に藁雀」
明治後期 中外産業株式会社蔵(原安三郎コレクション) (※展示は10/8まで)

西洋風表現を取り入れいた写実味あふれる鳥や昆虫の描写は渡邊省亭に通じるものがあります。省亭も花鳥画を得意とし、とりわけ鳥の表現に優れていますが、古邨が師事した鈴木華邨も花鳥画に定評があり、また省亭と同じ菊池容斎の門人ということで、技術的に近しいものがあるのかもしれません。



花の美しさはもちろん、小さなと昆虫や蛙、鳥など生き物への慈しみが感じられ、観ていてなんだか優しい気分になります。小さいものまで、極めて細かく描かれているので、正直単眼鏡でも物足らないぐらい。会場に虫眼鏡の貸し出しがあるので、ぜひ借りて拡大して見るといいと思います。




会場には古邨が祥邨、豊邨名義で発表した大判の版画や、歌川広重などの版画も参考展示されています。


古邨は日本画家として東京美術学校で教授をしていたというのですから、肉筆画も相当の腕前だったのでしょう。今回は木版画のみで肉筆はありませんでしたが、いつか古邨の肉筆画も観てみたいなと思います。来年2019年2月~3月には太田記念美術館でも小原古邨展があるそうで、そちらも今から楽しみです。


原安三郎は茅ヶ崎市美術館が位置する高砂緑地にかつて「松籟荘」という南欧風の別荘(老朽化のため1984年に解体)を持っていたそうで、会場には松籟荘の建築模型なども展示されています。


【開館20周年記念 原安三郎コレクショ 小原古邨展 -花と鳥のエデン-】
2018年11月4日まで
茅ヶ崎市美術館にて


小さな命のきらめく瞬間小原古邨の小宇宙(ミクロコスモス)小さな命のきらめく瞬間小原古邨の小宇宙(ミクロコスモス)

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