2016/06/19

鏡の魔力/若き日の雪舟

根津美術館で開催中の『若き日の雪舟』を観てまいりました。

本展は特別展という扱いでなくミニ企画展という感じで、1階のメインの展示室のつづきにある小さめの展示室(展示室2)でひっそりと開催されています。

今年の3月に新発見とニュースになった雪舟の“拙宗”時代の「芦葉達磨図」を中心に雪舟/拙宗作品が前後期で11点、他に史料や参考作品などが出品されています。

「芦葉達磨図」は後年の雪舟のように際立った特長があるかというとそういうわけではないのですが、達磨の何ともいえない表情や細緻な髪や髭の筆致など優れた墨技を感じることができます。もちろん渡明前の作品として貴重です。

目玉はこの「芦葉達磨図」なんでしょうが、雪舟=拙宗の同一人物説という問題に焦点が当てられていて、そちらの方が個人的にはかなり興味深かったです。現在では拙宗等揚は雪舟等楊(「よう」の字が手辺と木辺で異なる)の前半生時代に語っていた名前という認識がほぼ固まっていますが、それでも決定的な証拠はなく、まだ推測の域を出ないのが実情のようです。

拙宗等揚 「芦葉達磨図」 スミス・カレッジ美術館蔵

拙宗筆とされる現存作品はそれほど多くないといいますが、それでも前期(6/19まで)だけで6点の拙宗作品が出品されています。その中で人物や山の描写、筆触などを挙げて、拙宗と雪舟に共通する特徴を比較してるわけですが、雪舟の代表作の一つ「倣玉澗山水図」との類似を指摘されている根津美術館所蔵の「溌墨山水図」なんて観ると、一見同じ人の絵のようにも見えるし、もともとあった絵を別々の人が模写したとも見えるし、素人目には正直分かりません。

[写真左] 拙宗等揚 「溌墨山水図」 根津美術館蔵
[写真右] 雪舟等楊 「倣玉澗山水図」(重要文化財)
岡山県立美術館蔵 (※本展には出品されていません)

画風の面から雪舟=拙宗の同一人物説の論拠とされるのが拙宗時代の「山水図」と雪舟時代の「山水図」で、ここでは実際の作品を並べて展示されています(雪舟時代の「山水図」の内、前期は「夏景」、後期は「春景」を展示)。山水の特徴的な表現や人物の描き方が酷似している点などが挙げられていました。こうして見ると、確かに近しいものを感じますし、特に「春景」のロバに乗った人物は全く同じで、雪舟=拙宗の同一人物説に説得力が出てきます。

[写真左] 拙宗等揚 「山水図」(部分) (重要文化財) 京都国立博物館蔵
[写真左] 雪舟等楊 「山水図(春景)」(部分) (重要文化財)
東京国立博物館蔵 (6/21~7/10のみ展示)

個人的にはずっと観たかった“山水小巻”が観られたのも嬉しい。ここに描かれている人物も拙宗時代の「山水図」の人物によく似ています。

雪舟等楊 「四季山水図巻」(部分) (重要文化財)
京都国立博物館蔵 (会期中巻き替えあり)

順番が逆になりましたが、メインの展示室では根津美術館に寄贈された中国の古鏡コレクションを展示しています。これがとても面白い。

古鏡(銅鏡)って割と観ているようで実は何も知らなかったというか、時代や文様などに分けて詳細に解説されていて、初めて納得することもあり、銅鏡を見るときのポイントも分かって、とても勉強になりました。銅鏡の見方が変わると思います。

もともと鏡は霊力が見えるものと考えられ、祭祀に使われていたということは知っていましたが、時代時代で流行があるようで、文様の意味するものがあったり、それがどのように変遷していったのか体系的にまとめられています。古代中国の宇宙観を表した方格規矩鏡、外来の異獣・狻猊の立体的な造形が特徴的な海獣葡萄鏡、もとは天界の様子を表したという神獣文、エジプトやメソポタミア由来の文様も見られる植物文。文様だけでなく詩が刻まれていたり、時代が下るに連れ、鳳凰文や吉祥文など婚礼の調度品や身近な生活道具として広まっていったり、実に多彩なものがあることも分かります。

「方格規矩四神鏡」
中国・前漢時代~新時代(前1~後1世紀) 根津美術館蔵

2階の展示室にも青銅器コレクションがありますし、また南宋時代を中心に中国絵画のコレクションでは国宝の「鶉図」(伝李安忠筆)も展示されていますので、こちらもお忘れなく。


【コレクション展 鏡の魔力 村上コレクションの古鏡
 特別企画 若き日の雪舟 初公開の「芦葉達磨図」と拙宗の水墨画】
2016年7月10日(日)まで
根津美術館にて


もっと知りたい雪舟 ―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)もっと知りたい雪舟 ―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)

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