2016/04/03

俺たちの国芳 わたしの国貞

Bunkamura ザ・ミュージアムで開催中の『俺たちの国芳 わたしの国貞』に行ってきました。

練馬で『国芳イズム』を観た翌日、早速観てきたのですが、いやぁ~バンバン宣伝しているだけあって、日曜の夕方にもかかわらず大混雑。(このお客さんのほんの少しでも練馬に送り込んであげたい…)

それに、さすが大手メディアが主催なのでお金がかかってて、某国立博物館の有名研究員の方がしっかり監修しているだけあって、良く練られているし、イマドキの人に向けた見せ方がうまい。展覧会のタイトルも、メインヴィジュアルも、売り込み方もそうですが、ターゲットがよく分かってるなと感じました。昨日観てきたのと同じ国芳なのに十分ワクワクさせられます。

会場は「髑髏彫物伊達男(スカル&タトゥー・クールガイ)」「異世界魑魅魍魎(ゴースト&ファントム)」「今様江戸女子姿(エドガールズ・コレクション)」といった歌舞伎の演目のような凝った章で構成されています。これがまた今風。おじさん・おばさんはついていけないかも(笑)

歌川国芳 「国芳もやう 正札附現金男 野晒悟助」
弘化2年(1845)頃

『国芳イズム』にも出品されてた作品も多くあります。「国芳もやう 正札附現金男 野晒悟助」もそのひとつ。浮世絵は摺りによって色味やクオリティーが違ったり、初版と2版ではちょっと手直しされていたりなんてこともあるので、どちらが良いとは一概にいえませんが、少なくともこちらはボストン美術館の所蔵品だけのことはあり、どれも状態が良く色も鮮明。ボストン美術館の浮世絵コレクションのベースとなるビゲローからの寄贈品は国芳が3,200枚以上、国貞が9,000枚以上だったといいますから、恐らくは同じ作品でも状態のいいものを持ってきてるんでしょうし、もしかしたら照明の効果もあるのかもしれませんが、150年以上前のものとは思えないぐらい美しい。

歌川国芳 「讃岐院眷属をして為朝をすくふ図」
嘉永4、5年(1851, 52)頃

歌川国芳 「水瓶砕名誉顕図」
安政3年(1856)

それとあくまでも個人的な印象ですが、これは作戦なのか分かりませんが、3枚続や5枚続といったワイド大判の作品が多く、絵柄的にもインパクトのあるもの、見栄えのするものを敢えて選んできてるような気がします。例えるならまるで花火大会を見てるような気分。スターマインや派手な花火で観る人を飽きさせないという仕掛けです。

歌川国貞 「見立三十六歌撰之内 在原業平朝臣 清玄」
嘉永5年(1852)

歌川国貞 「八百屋お七 下女お杉 土佐衛門伝吉」
安政3年(1856)

「国芳って面白いし人気あるし、お客入るよね」みたいなところから出発した企画かどうか分かりませんが、ファンが多いとはいえ、さすがに毎年どこかで展覧会やってますし、中には一度観たからもういいよという人もいるかもしれません。そこで幕末の二大人気浮世絵師の競演という新しい切り口で抱き合わせ的に登場するのが国貞。浮世絵ファンに人気は高くても、国芳みたいに若い層にウケるかどうかは未知数だったと思うのですが、やり方次第でこんなにアピールできるんだというのは驚きですし、こうして観るとまた新鮮に感じます。

歌川国芳 「山海愛度図会 七 ヲゝいたい 越中滑川大蛸」
嘉永5年(1856)

歌川国貞 「当世三十弐相 よくうれ相」
文政4、5年(1821, 22)頃

国貞と国芳はともに歌川豊国の兄弟弟子で、国芳はなかなか芽が出なかった一方、国貞は早くから美人画や役者絵で頭角を現していて、それで国芳は武者絵に活路を見出したともいわれています。もちろん国芳の美人画や役者絵もありますし、逆に国貞の武者絵もあるわけですが、武者絵というと国芳、美人画や役者絵というと国貞というイメージは当時からあったのかもしれません。劇画チックでダイナミックだったりユニークだったりする作品が好きか、ファッショナブルで都会的で大人っぽい作品が好きか。「俺たちの…」「わたしの…」とはっきり比較することで、鑑賞者に共感を抱きやすくさせるというのが本展の狙いなのでしょう。

歌川国貞 「七代目市川團十郎の海野小太郎行氏、二代目岩井粂三郎、三代目坂東三津五郎の鷲尾三郎」
文政10年(1827)頃

歌川国貞 「二代目岩井粂三郎の揚巻、七代目市川團十郎の助六、三代目尾上菊五郎の新兵衛」
文政12年(1829)頃

たぶん国芳は何度も観てるので面白いとは思っても、そんなに新しい発見はないということもあるのでしょうが、今回強く関心を持ったのがやはり国貞で、どれも高度な画技とセンスが光っています。特に役者絵の摺物(私家版もしくは限定部数の錦絵)がいくつかあって、その緻密な線描、繊細な色遣い、丁寧で質の高い仕上がり具合には驚きました。

歌川国貞 「御誂三段ぼかし 浮世伊之助 葉歌乃新 野晒語助 夢乃市郎兵衛 紅の甚三 提婆乃仁三」
万延元年(1860)

国芳の細かさも尋常でありませんが、国貞の細かさもまた別の意味で凄い。着物や帯の柄から簪など装身具や手にするちょっとした小道具に至るまで、とても手が込んでいるし、細かなところまで丁寧に描き込まれています。国貞には背景に着物や絣の文様のようなものを配したシャレたデザインの浮世絵も多くて、当時としては斬新だったでしょうし、江戸の女性のオシャレ心をくすぐったんだろうなと感じます。

歌川国貞 「雪遊び」
文政10~天保13年(1827-42)

歌川国芳 「初雪の戯遊」
弘化4~嘉永5年(1847-52)

国芳では、『国芳イズム』では観られなかった「本朝水滸伝」シリーズや国芳にしては珍しくファッション性の高い役者絵摺物「三代目尾上菊五郎の名古屋山三、六代目岩井半四郎、五代目市川海老蔵の不破伴左衛門」が個人的には印象に残りました。国芳の出世作「通俗水滸伝」シリーズのスピンオフ版という10枚組の「狂画水滸伝」が全て観られたのも嬉しいところ。国貞では、モード系美人画や役者が揃い踏みした役者絵などどれも素晴らしいのですが、浮世絵版画の中でも最大級という「里見八犬士之一個」が国貞の意外性を感じて良かったですし、芝居小屋の舞台裏を描いた一連の作品が面白かったです。

ちなみに最後の章のみ4/18まで期間限定で写真撮影が可能です。

歌川国貞 「中万字や内 八ツ橋 わかば やよひ」「姿海老屋内 七人 つるじ かめじ」
「松葉屋内 粧ひ わかな とめき」「扇屋内 花扇 よしの たつた」「弥生内 顔町 まつの こなつ」
文政後期(1825-30)頃

国芳と国貞と両方を紹介しているので“いいとこどり”という感じはありますが、浮世絵ビギナーからファンの方まだ幅広く楽しめると思います。どちらかだけを観たいという向きには、国芳なら練馬区立美術館でも展覧会(4/10まで)をやってますし、国貞なら原宿の太田記念美術館でも展覧会(4/24まで)がありますので、そちらもオススメです。


【ボストン美術館所蔵 俺たちの国芳 わたしの国貞】
2016年6月5日まで
Bunkamura ザ・ミュージアムにて


国芳の武者絵国芳の武者絵


ねこと国芳ねこと国芳

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