2014/04/19

中村芳中展

千葉市美術館で開催中の『光琳を慕う-中村芳中展』の前期展示を観て参りました。

尾形光琳に私淑した琳派の絵師といえば酒井抱一ですが、実は抱一とほぼ同時期に光琳に強い影響を受け、光琳風の作品を残した絵師に中村芳中がいます。

芳中というと、琳派の展覧会でときどき目にする機会はありますが、それでも光琳や抱一以外の“そのほか”の琳派の絵師として紹介される程度。いい絵だなと思いつつも、ちらりちらりと見かけるだけで、なかなかその全貌が分からなかったというのが実際のところではないでしょうか。

本展は、その琳派の隠れた人気絵師・中村芳中の待望の展覧会。芳中を単独で取り上げる展覧会は関東では初めてのようです。洗練された江戸琳派を築いた抱一の正統派琳派とはひと味違う、ほんわかほっこりした浪花の琳派を堪能できます。

中村芳中 「白梅図」
江戸時代中期~後期(18~19世紀) 千葉市美術館蔵


第一章 芳中が慕った光琳-尾形光琳とその後の絵師たち

まずは江戸中期に琳派を大成させた光琳を復習。見ものの一つは、光琳が宗達を“発見”する以前の初期の作品「十二ヶ月歌意図屏風」で、後年の装飾的傾向はまだありませんが、構図や筆致に光琳らしいセンスを感じることができます。

ほかに、墨の抑えたトーンが美しい「四季草花図」、速筆で描いた軽妙な味わいの「大黒図」、シンプルだけど雰囲気のある水墨画「墨梅図」と「墨竹図」などが並びます。興味深いのは、<失われた光琳を求めて>と紹介されていた小西家旧蔵の光琳の残した資料で、現存しない光琳作品を知る手がかりとして貴重です。

尾形光琳 「大黒図」
宝永2年(1705年) MIHO MUSEUM蔵 (展示は4/20まで)

そのほか、光琳の弟・乾山のまるで工芸品のデザインのような「吉野山図」や、光琳に師事したとされる深江芦舟、乾山の弟子・立林何帠の作品を展示。何帠の「扇面貼交屏風」を観ると、単純化した描写やたらし込みの扱い方などに光琳から芳中へ至る過程のようなものを感じます。


第二章 芳中の世界-親しみを招くほのぼの画

芳中には『光琳画譜』のようにかわいい絵があったり、光琳風の意匠化された作品が多いのは知っていましたが、ここまでユニークだとは思いませんでした。ほのぼの系琳派というか脱力系琳派というか、ほんわかとした味があり、何かおおらか。ちょっと衝撃的です。

中村芳中 「花卉図画帖(七月 芥子)」
江戸時代中期~後期(18~19世紀) 細見美術館蔵
(会期中、頁替えあり)

最初に登場するのが「扇面貼交屏風」や「花卉図画帖」、「扇面画帖」といった扇面を散らした屏風や画帖で、その単純化されたモティーフや大胆な構図に驚かされます。そして、ここまでたらし込みしますか!?というぐらいのたらし込みの多用にもビックリ。光琳にも墨のたらし込みに緑青を混ぜる技法を観ますが、芳中はそれを応用しているというか、さらに発展させたというか、植物の葉や茎、幹の表現に緑青や金の絵具を効果的にたらし込み、また水分を含んだ筆で滲みを作り出すことで、絶妙な味わいを生み出しています。ぼってりとした線は光琳というより宗達に近いかもしれません。

中村芳中 「白梅小禽図屏風」
江戸時代中期~後期(18~19世紀) 細見美術館蔵

とにかく芳中は楽しい。「白梅小禽図屏風」のおしゃべりしそうな鳥とか、「鹿図」の口ポカンな鹿とか、「老松図扇面」のキノコみたいな松とか、「桔梗図扇面」の笑ってる桔梗とか、「托鉢図」のほとんど遠足の托鉢僧とか、どれも愛らしく楽しげ。虎屋所蔵の「菊図扇面貼交屏風」の菊図の胡粉の盛り方なんてまるで落雁。あんな笑えるガマガエルのいる「蝦蟇鉄拐図」も初めて見ました。芳中の絵をもらった人はさぞかしニコニコしたことでしょう。

中村芳中 「鹿図」
江戸時代中期~後期(18~19世紀) 摘水軒記念文化振興財団蔵
(展示は4/20まで)

最後の方にちょろんと文人画風の作品があって、芳中はこういう絵も描くのかと思ったのですが、実は芳中はもともと南画家として出発したのだそうです。しかも池大雅に師事していたという話もあるとか。芳中、侮れません。


第三章 芳中のいた大坂画壇

芳中の出自は不明ですが、恐らくは京都から大坂に移り、その後江戸に出て、晩年の約18年は大阪で過ごしたといいます。ここでは芳中と同時代に大坂で活躍した木村蒹葭堂や、淵上旭江、森周峯、青木木米といった蒹葭堂周辺の絵師や大雅門下の絵師の作品を紹介。蒹葭堂は交友関係が広く文化サロンのような役割を果たし、京阪の多くの絵師たちが出入りしたことで有名ですが、蒹葭堂が池大雅に学んだということもあるからか、展示作品の多くは文人画(南画)です。ここに江戸とは何か違う文化圏を感じなくもありません。


第四章 芳中と版本-版で伝わる光琳風

最後に芳中の名を有名にした“光琳風”の作品を収めた『光琳画譜』や、芳中が俳図を手がけた俳書、他の絵師による同様の光琳文様の冊子、また芳中に似た画風として鍬形蕙斎の略画本を紹介しています。鍬形蕙斎(北尾政美)は浮世絵で知られますが、こうした略画の絵手本も多く残しているようで、図録によると蕙斎は芳中の画法を慕いともあり、芳中も蕙斎に倣ったともあり、互いに影響し合っていたようです。

中村芳中 『光琳画譜』より
享和2年(1802年)刊 千葉市美術館(ラヴィッツ・コレクション)蔵
(会期中、頁替えあり)


同じ光琳を慕った抱一とどうしてこうも路線が違うのか、それが不思議でもあり、面白くもあり。ただ一つ言えるのは、芳中の絵からは彼の人となりまで伝わって来るようで、さぞかし洒落が利いて、気持ちがおおらかで、人を愉しませるのが好きで、また人に愛された絵師だったのだろうなと思います。会期が短い上に、前後期で作品がほとんど入れ替わります。この機会をお見逃しなく。


【光琳を慕う-中村芳中展】
2014年5月11日(日)まで
千葉市美術館にて


光琳を慕う中村芳中光琳を慕う中村芳中


光琳画譜光琳画譜

3 件のコメント:

  1. 初めまして
    「中村芳中」で検索しててこちらがヒットいたしました。

    私、関西在住なもので京都の細見美術館で見てきました。
    それほど混んでなくて、ゆっくりと見ることが出来ました。

    デフォルメされた菊や梅、ちょっとお饅頭みたいですね。
    そして一番感激したのが「菊図扇面貼交屏風」でした。
    胡粉を塗り固めるなんてそんなことができるんやわあって。
    ちょっと菊の花が「はくせんこ」(お盆とかにお供えするお砂糖のお菓子)みたいで、食べたい!

    わんこちゃんも「ほのぼの系」で可愛く、マグネットも二種類あったので迷いましたが結局二つとも買いました。

    「地デジカ」に似た鹿も可愛かったです。

    その帰りには、「高橋秀」展も~

    しみじみ今日の二つの展覧会を見て私が好きなのは「琳派」や「蒔絵」「漆芸」だと思いました。

    長々とごめんなさい。
    又拝読させていただきます。

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  2. >hirorinさん
    はじめまして!
    コメントありがとうございます。
    いま細見美術館で開催されてるのですね。
    中村芳中の絵はまるまるしてかわいいですよね。ほんと、お饅頭やお菓子を想像します(笑)
    京都で高橋秀展なんてやってるんですね。いいな、行きたかったなぁ。

    またどうぞお寄りください。

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