今回京都に行った一番の目的は木島櫻谷の展覧会を観に行くこと。かれこれ4年前になりますが、東京の泉屋博古館分館で観た『木島櫻谷展』に深く感動し、この秋、京都で櫻谷祭り(笑)があるというのですかさず飛んできました。だって、櫻谷クラス(失礼!)のマイナーな画家でこんなに一度にたくさんの作品が観られる機会なんてありませんから。
新幹線もホテルも押さえたあとに展覧会が東京にも巡回することを知ったのですが、結局京都で観た作品の一部しか東京に来ないことが分かって、わざわざ京都まで足を運んで正解だったと思います。
いつ行っても混んでいる京都ですが、今回は時間に余裕をもってスケジュールを立てたのと(いつもここぞとばかり予定を詰め込んでしまうのですが…)、紅葉シーズン前の比較的落ち着いた季節で、しかもお天気にも恵まれ(11月にしてはちょっと暑いぐらいでしたが)、ゆっくりと京都と櫻谷の世界を楽しんできました。
まずは、泉屋博古館の『木島櫻谷近代動物画の冒険』から。
京都東山の麓、鹿ヶ谷にある泉屋博古館。南禅寺や永観堂、哲学の道なんかも近い閑静な住宅街にあります。この日は早めにホテルを出て、ちょうど特別公開をしていた法然院で狩野孝信の障壁画と光信の屏風を観てきました(※特別公開は終了しています)。泉屋博古館は法然院から歩いて15分ぐらい。
法然院は紅葉にはまだ早かったですが、静かでいいところでした。
木島櫻谷 「熊鷹図屏風」(右隻)
明治37年(1904)
明治37年(1904)
「獅子虎図屏風」や「熊鷲図屏風」なんて近代日本画ならではの傑作ではないでしょうか。獅子も虎も日本画では定番ですが、画家がその目で見て描いたリアルなライオンと(猫っぽくない)ちゃんとしたトラが向かい合う屏風というのが新しいというか素晴らしいというか。熊と鷲の組み合わせというのも初めて観ました。こうしたリアルな写実を水墨で描くのですから唸ってしまいます。鹿にしても馬にしても牛にしても猪にしても狸にしても何を描かせても巧い。そして表情がまたいい。
木島櫻谷 「かりくら」
明治43年(1910) 櫻谷文庫蔵
明治43年(1910) 櫻谷文庫蔵
近年、櫻谷文庫から表装もないマクリの状態で発見され、今年修復を終えたばかりという「かりくら」がまた傑作。明治44年にローマ万国美術博覧会に出品された後、長い間行方不明だった幻の作品で、発見された当時の写真が並んでありましたが、よくこんな酷い状態からここまで修復されたなと驚くぐらいボロボロ。かなり大きな対幅の大作で、臨場感溢れるダイナミックな構図と、疾走する馬の迫力ある描写がまた凄い。比較的明るい色を使った豊かな色彩、ススキやその間に花を咲かせる秋草の描写も実にいい。
木島桜谷 「寒月」
大正元年(1912) 京都市美術館蔵
大正元年(1912) 京都市美術館蔵
2014年の『木島櫻谷展』で感銘を受けた作品の一つ「寒月」も出品されていました。月に照らされた雪の上を歩く一匹の狐。遠目に見ると、なんとなく動物の愛らしさを感じるのですが、近くで見ると、野性の動物本来の鋭い目つきと周囲を警戒する緊張した表情にハッとします。雪はただ白いだけでなく、粗い岩絵具を使うことで、雪が反射するようなキラキラしたマチエールを再現。狐の茶の毛にちょんちょんと白い冬毛を描き入れ、スーッと直線に描いた竹も墨の濃淡で微かな陰影や節を丁寧に描き込んでいます。夏目漱石が酷評したことでも有名ですが、ただの写実にとどまらない白と黒の繊細な表現性、奥行き感のある構図、とても素晴らしいと思います。
「葡萄栗鼠」も前回観て一目惚れした作品。葡萄を食べた後?の手を舐めてる栗鼠がかわいいんだけど、生い茂る葡萄の葉やたわわに実る葡萄、力強く伸びる幹やしなやかな蔓のそれぞれの筆致や色合いが巧みで、今回あらためて観て、櫻谷やっぱりいいわと実感するのでした。
木島櫻谷 「葡萄栗鼠」
大正時代
大正時代
2014年の櫻谷展で観た作品も複数ありましたが、今回初めて観る作品も多くあって、中でも前回展示替えの関係で観られなかった最晩年の作「角とぐ鹿」が特に目を惹きました。鹿の首の曲げた向きといい、毛の質感といい、樹木の立体表現といい、奥行きを感じさせる構図といい、素晴らしいの一言です。
木島櫻谷 「角とぐ鹿」
昭和7年(1932) 京都市美術館蔵
昭和7年(1932) 京都市美術館蔵
スケッチ帳や動物の写真のスクラップ帳などもあり櫻谷が動物研究に熱心だったこともよく分かります。芦雪の作品の模写もありました。展示室の外には櫻谷の絵具の入ったトランクが展示されています。こちらだけ写真撮影可。
なお、こちらの『木島櫻谷 近代動物画の冒険 』は東京の泉屋博古館分館にも巡回します(詳細はページ下を参照)。
つづいて京都文化博物館で『木島櫻谷の世界』。
こちらは櫻谷と交流のあった大橋家から京都府に寄贈された作品を中心に構成された展覧会。動物画に限らず、人物画や風景画、花卉画、水墨画、さらには絵葉書帖や扇絵などもあり、幅広く櫻谷の画業を観ることができます。文博の特別展ではなく、常設展コーナーの奥の特集展示という扱いですが、50点近くと出品作も多く(師の今尾景年らの作品も数点あり)、泉屋博古館の展示に勝るとも劣らない充実ぶりでした。
木島桜谷 「初夏・晩秋」
明治36年(1903) 京都府(京都文化博物館管理)蔵 (展示は12/10まで)
明治36年(1903) 京都府(京都文化博物館管理)蔵 (展示は12/10まで)
木島桜谷 「しぐれ」
明治40年(1907) 東京国立近代美術館蔵
(※泉屋博古館で11/8まで展示)
明治40年(1907) 東京国立近代美術館蔵
(※泉屋博古館で11/8まで展示)
中でも今回初公開という「初夏・晩秋」が傑作。右隻が初夏、左隻が晩秋で、鹿の角で季節が分かるのも面白い。櫻谷といえば鹿というぐらい、鹿を描いた作品がたくさんあって、第一回文展で日本画最上位を受賞した「しぐれ」は櫻谷を代表する傑作ですが、鹿の親子、季節の風情など共通するものがあり、「初夏・晩秋」があって「しぐれ」に繋がったことがよく分かります。しかもこれ、20代の作品ですからね。凄い。
櫻谷は狸を描いた作品も多い。竹藪から狸がひょっこり出てきたという感じの「月下遊狸」も憎めない顔で愛嬌があるのですが、靄で霞んだ山桜や竹の表現がまた秀逸。仔犬を描いた「狗児」は可愛すぎ。芦雪も顔負けです。
木島櫻谷 「群禽」
大正時代 京都府(京都文化博物館管理)蔵
大正時代 京都府(京都文化博物館管理)蔵
カワセミやメジロ、インコなどさまざまな種類の小鳥が群れ飛ぶ「群禽」も見事。自然ではありえない光景ですが、鳥の飛ぶ姿も千差万別、描写も的確で、それぞれの形や色彩に変化があってとても面白いと感じました。
風景では「飛瀑」が印象的。滝がハイキー気味に白く、まわりの岩肌や木々とのコントラストが素晴らしい。人物では「僊客採芝図」がいいですね。どことなく大観や観山あたりの影響を感じるところもあります。
木島櫻谷 「僊客採芝図」
大正15年(1926) 京都府(京都文化博物館管理)蔵
大正15年(1926) 京都府(京都文化博物館管理)蔵
文博の方は図録はありませんが、8ページもののカタログを無料でいただけます。ちなみに、来年東京の泉屋博古館分館で開催される木島櫻谷展には文博から2点のみ出品されるとのこと。泉屋博古館の展覧会の図録に「初夏・晩秋」と円山四条派風の「孔雀図」が載ってましたので、恐らくこれが行くのだと思います。
そして最後に、櫻谷文庫に訪問。
櫻谷の旧邸内に櫻谷の作品や草稿、愛用の品々、孫のために作った打掛などが展示されています。説明してくれる方がいてさまざまな話を聞けますし、いろいろ質問にも答えていただけるのが嬉しいですね。櫻谷は下戸だったそうで、虎屋の羊羹が好物で、エジプト煙草を愛飲していたという話も教えていただきました。
木島桜谷 「画三昧」
昭和6年(1931年) 櫻谷文庫蔵
昭和6年(1931年) 櫻谷文庫蔵
櫻谷の作品も写生中心ですが展示されていて、前回の『木島櫻谷展』で強く印象に残った「画三昧」も展示されていました。フツーに室内に、ケースに入るわけでもなく、そのまま掛けられていてビックリ。絵を描く櫻谷の姿を思わせ、とてもいいですね。ほかにも部屋の装飾や茶碗などに描かれた絵も櫻谷だったりして、これも櫻谷ですか?これも?と尋ねながら観て歩いてました。ここだけ洛西なのでちょっと離れてますが、時間があれば是非。
帰りに、櫻谷文庫から歩いて10分ぐらいの北野天満宮にお詣り。宝物館では国宝「北野天神縁起絵巻 承久本」が特別公開されています(※公開は12/3まで)。
展示は「清涼殿霹靂の段」と「海路西下の段」のみですが、「承久本」の公開はなんと15年ぶりとか。ほかにも長谷川等伯の「昌俊弁慶相騎図絵馬」(重要文化財)も展示されています。巨大な絵馬でビックリするし、絵もこれが等伯かというインパクト。
門前のあわ餅澤屋さんの粟餅も美味しかったですよ。京都では美味しいものもたくさん食べてきました♪
【木島櫻谷 近代動物画の冒険 】
2017年12月3日まで
泉屋博古館にて
【木島櫻谷の世界】
2017年12月24日まで
京都文化博物館にて
【木島櫻谷旧邸 特別公開】
2017年12月3日まで(金土日祝のみ)
櫻谷文庫にて
※巡回情報:
【木島櫻谷- PartⅠ 近代動物画の冒険】
東京・泉屋博古館分館にて 2018年2月24日~4月8日
【木島櫻谷- PartⅡ 木島櫻谷の「四季連作屏風」+近代花鳥図屏風尽し】
東京・泉屋博古館分館にて 4月14日~5月6日
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