2016/11/17

禅 - 心をかたちに

東京国立博物館で開催中の『禅 心をかたちに』の後期展示の内覧会がありましたので伺って参りました。

今年の春に先に開催された京都国立博物館でも大変評判の良かった展覧会。残念ながら京都には観に行けなかったので、東京での開催を楽しみにしていました。

本展は、中国・唐の禅僧で臨済宗の開祖・臨済義玄の1150年遠諱、そして日本の臨済宗の中興の祖・白隠慧鶴の250年遠諱を記念しての展覧会。ひとことで“禅宗”といってもいくつかの宗派がありますが、本展では臨済宗と、その流れを汲む黄檗宗の禅宗美術を取り上げています。

東京会場の出品数は、国宝22件、重要文化財102件を含む239件(全期間計)。その内約80件は東京のみの展示だとか。よくここまでの作品を貸し出してくれたなと感心しますが、東博では過去にも、『栄西と建仁寺』や『妙心寺展』『京都五山 禅の文化』など、禅宗寺院や禅文化にスポットを当てた展覧会を多く開催してるので、寺院側も協力的なのかもしれませんね。

当日は、後期(11/8~)から平成館1階ロビーで公開されるチームラボの新作「円相 無限相」の発表会も兼ねていて、1階でちょっとしたレセプションもありました。世田谷の龍雲寺(臨済宗妙心寺派)のご住職・細川晋輔さんが「禅について」ということでお話をされたのですが、「何かを得るために禅があるのではなく、何かを捨てるために禅があるのです。禅を見て心を軽くしてください」という言葉が深く、とても胸に響きました。



第1章 禅宗の成立

会場の入口からドドーンと物凄いインパクト。白隠の代表作の「達磨像」の先には雪舟の「慧可断臂図」があるじゃありませんか。達磨(達磨大師)はインドから中国に禅を伝えた禅宗の始祖。達磨を描いた禅画は数多くありますが、縦2m近い大画面いっぱいに描かれた白隠の「達磨像」の迫力を超えるものにはお目にかかったことはありません。ギョロリとした目で天を見つめる達磨。近寄りがたくもあり、人間らしくもあり。

[写真左] 白隠慧鶴 「達磨像」
江戸時代・18世紀 萬壽寺蔵

「慧可断臂図」は、慧可が入門を求めて達磨を訪ねるも達磨は座禅中で相手にされず、左腕を切って差し出してやっと入門を許されたという故事を描いた作品。日本美術ファンなら一度は観ておきたい雪舟の傑作です。その絶妙な構図、不思議な岩の造形、力強く自在な筆致。画面からは異様な緊張感が漂い、絵の前に立つだけでゾクゾクします。

雪舟等楊 「慧可断臂図」(国宝)
室町時代・明応5年(1496) 齊年寺蔵

ここでは達磨や慧可、臨済など禅思想を確立した祖師にまつわる作品が紹介されています。狩野元信の「禅師祖師図」は大仙院方丈の障壁画を掛幅に改装したもの。大胆に配された霞雲により漢画らしい奥行き感と、同時にゆったりとした空間が生まれ、また淡彩を加えるなど、旧来の墨画障壁画とは異なる新たな表現を創出していて素晴らしい。

[写真左] 狩野元信 「旧大仙院方丈障壁画のうち禅師祖師図」(重要文化財)
室町時代・永正10年(1513) 東京国立博物館蔵

作品の多くは鎌倉から室町にかけてのもので、中には明兆の「釈迦三尊三十祖像」や曽我蛇足の「達磨・臨済・徳山像」の三幅対など、著名な画僧や絵師の作品もあって、内容的には少々地味目なコーナーですが、禅宗美術の成り立ちを知る上ではとても興味深い。

伝・曾我蛇足 「達磨・臨済・徳山像」(重要文化財)
室町時代・15世紀 養徳院蔵


第2章 臨済禅の導入と展開

臨黄各宗派の開祖ゆかりの作品などを寺院ごとに展観します。京都五山の建仁寺や南禅寺、天龍寺、相国寺、また妙心寺や大徳寺、関東では建長寺や円覚寺など禅宗を代表する寺院がパネルの解説と共に紹介されています。


建仁寺であれば栄西であり、天龍寺であれば夢窓疎石であり、建長寺であれば蘭渓道隆であり、京都や鎌倉が好きで訪れている人には詳しくは知らずともその名に聞き覚えがあるはず。展示は開山の僧の頂相(禅僧の肖像画や木像)や墨蹟が多いのですが、中には袈裟や法具などもあって、禅宗の歴史が端的にまとめられています。一角には、一休さん(一休宗純)だけ一コーナー設けられています。



第3章 戦国武将と近世の高僧

鎌倉時代に日本に本格的に導入されて以降、武家の帰依を受け、戦国武将とも強い繋がりを持つに至った禅宗。永徳筆と伝わる「織田信長像」や光信による「豊臣秀吉像」など作品とともに、彼らが禅宗とどう関わりがあったかについても触れています。

[写真右] 伝・狩野永徳 「織田信長像」
安土桃山時代・16世紀 東京国立博物館蔵

[写真右] 狩野光信 「豊臣秀吉像」(重要文化財)
安土桃山時代・慶長4年(1599) 宇和島伊達文化保存会蔵

会場には<禅に帰依した戦国武将>や<戦国武将と禅僧・人物相関図>といった詳しいパネルもあって、戦国武将と禅宗との深い繋がりを知る手掛かりとなります。これ残念ながら図録に掲載されていません。


近世の高僧では白隠と仙厓にスポットが当てられています。白隠といえば、Bunkamura ザ・ミュージアムの『白隠展』以降、作品に触れる機会が増えました。禅画の得意な禅僧ぐらいにしか思ってない人もいるかもしれませんが、江戸中期の禅界を席巻した禅匠で、現在の日本の臨済禅を辿ると全て白隠に繋がるともいわれているスゴい人なのです。著作物も多く、禅画・墨蹟に至っては1万点を超えるといいます。後期では、禅画を象徴する「円相図」や白隠得意の「達磨像」「乞食大燈像」などが展示されています。面白いのは「慧可断臂図」で、雪舟とは違い、まだ左腕が切られてなくて、達磨を睨みながら「ほら、切るぞ」と見せつけてるようです。


ちょうど同じタイミングで出光美術館や永青文庫で展覧会が開催されている仙厓はちょっと少なめ。仙厓らしい楽しげな「花見図」には「楽しみは 花の下より 鼻の下」、花見は桜より飲み食いが楽しみという賛が書かれていて笑えます。最後に展示されていた仙厓の墨蹟は“遺偈”といい、禅僧が末期に残す境地のようなものだとか。ちょっと何書いてあるのか読めませんが。


第4章 禅の仏たち

章の頭のところに<禅宗伽藍と禅寺に祀られる仏像>というパネルがあって、典型的な禅宗伽藍に祀られている仏像について解説されていました。仏殿には釈迦如来が祀られていることが一般的なようですが、禅宗は他の宗派と違って、仏像を恭しく祀って仏に委ねるのではなく、座禅を重んじ、自己を見つめるというイメージがあります。本展でも仏弟子のように禅宗の理想とする修行僧を表した仏像が多く展示されてます。道教の神像があったのも興味深く感じました。時代的には鎌倉時代以降のものなので、力強く写実的な仏像表現が見られます。


その中で一際目を惹いたのが、文殊菩薩と普賢菩薩を従えた方広寺の「宝冠釈迦如来」。院派仏師の作といい、非常に精緻で丁寧な造りで、装飾や文様も細やかで美しく、金泥など彩色もよく残っており、なかなかの美仏。一方、ちょっと変わっているのが萬福寺の「羅怙羅尊者」。「十八羅漢坐像」の内の一躯で、胸を開くと中にはお釈迦様が。顔は醜いが、心には仏を宿しているということらしいです。

院吉・院広・院遵作 「宝冠釈迦如来および両脇侍坐像」(重要文化財)
南北朝時代・観応3年(1352) 方広寺蔵

仏画も多くは十六羅漢や五百羅漢で、なるほど禅寺に羅漢様が祀られていることが多いのはこういう理由なのかと納得しました。周文と伝わる「十牛図」があって、「十牛図」や「牧牛図」という画題は時折見かけますが、これも実は禅の悟りに至る修行の過程を牧牛に喩えて表したものなんだそうです。

[写真左] 吉山明兆 「達磨・蝦蟇・鉄拐図」(重要文化財)
室町時代・15世紀 東福寺蔵


第5章 禅文化の広がり

昨年東博で開催された『栄西と建仁寺』でも紹介されていましたが、喫茶の習慣は禅僧によってもたらされたといいます。“茶禅一味”という言葉があるように、茶の湯と禅の本質は同じとされ、禅宗の広がりと共に茶道も広まったといわれます。ここでは国宝の「油滴天目」や「玳玻天目」、また織田信長の弟で茶人の織田有楽斎にゆかりの品々、唐物の青磁や茶入などが並びます。


水墨画や詩画軸も禅僧によって日本にもたらされ、禅宗寺院を中心に広がったもの。牧谿は2点あって、「龍虎図」と「芙蓉図」。「龍虎図」を観ると、その後のさまざまな「龍虎図」の手本となったんだろうなと感じます。「芙蓉図」は没骨描写も美しい。

そして如拙の「瓢鮎図」に雪村の「呂洞賓図」。なんて贅沢な並べ方でしょう。室町時代の画僧・如拙の「瓢鮎図」は日本の初期水墨画を代表する超傑作。ツルツルした瓢箪でヌルヌルした鯰を捕まえられるかという禅問答を描いているといいます。現在は掛軸になっていますが、もとは衝立で、退蔵院に行くと復元された衝立が飾られていますね。雪村の「呂洞賓図」の、龍の頭に乗った仙人が天空の龍と対峙するというこの奇抜な構図は一度観たら忘れられません。こちらは来年開催される『雪村展』(東京藝術大学大学美術館)のメインヴィジュアルになっています。

[写真右] 伝・牧谿 「龍虎図」(重要文化財)
[写真左] 伝・牧谿 「芙蓉図(附千利休添文)」(重要文化財)
中国 南宋~元時代・13世紀 大徳寺蔵

[写真右] 大巧如拙 「瓢鮎図」(国宝)
室町時代・15世紀 退蔵院蔵
[写真左] 雪村周継 「呂洞賓図」(重要文化財)
室町時代・16世紀 大和文華館蔵

そして近世の水墨障壁画や屏風の数々。あまりに素晴らしすぎて卒倒するかと思いました(笑)

狩野元信 「大仙院方丈障壁画のうち四季花鳥図」(重要文化財)
室町時代・永正10年(1513) 大仙院蔵

元信の「四季花鳥図」は本展の最初の章に展示されていた「禅宗祖師図」と同じ大仙院方丈の障壁画。いわゆる真体を基調としながらも、華やかに彩色された花や鳥を巧みに取り入れ、その豪奢な雰囲気は狩野派による近世障壁画の幕開けを感じさせます。大仙院方丈障壁画には他にも元信と伝わるものがありますが、この「四季花鳥図」と「禅宗祖師図」は元信の真筆とされています。

狩野山楽 「龍虎図屏風」(重要文化財)
安土桃山〜江戸時代・17世紀 妙心寺蔵

そして後ろを振り返ると、個人的にも大好きな山楽。「龍虎図屏風」は天地2m近くある大きな屏風で、永徳のダイナミックな大画様式を継承しつつ、京狩野の華麗で豪奢な装飾美も感じます。龍虎は武家好みの画題として特にこの時代多く描かれていますが、山楽の龍虎は迫力満点。雲を従え襲いかかる龍と風を従えた猛獣たる虎。その豪放さ、威厳さで傑出しています。龍は先ほどの牧谿の「龍虎図」の龍に似てますね。

横に目をやると、等伯の「竹林猿猴図屛風」。ほのぼのとした猿の親子に顔がほころびます。猿と竹の描写は牧谿の「観音猿鶴図」に拠っていて、等伯はほかにも牧谿風の猿を描いた作品を残しています。靄に包まれた竹の表現は「松林図屏風」に発展していったんでしょうね。ここではほかにも狩野探幽や池大雅の優品が並びます。

長谷川等伯 「竹林猿猴図屛風」(重要文化財)
安土桃山時代・16世紀 相国寺蔵

後期展示には、なんとプライス・コレクションから若冲の掛軸二幅が特別出品されています。若冲は禅宗との関係が深く、『若冲展』でも話題になった「釈迦三尊像」と「動植綵絵」を相国寺(臨済宗)に寄進したり、晩年は黄檗宗の石峰寺に草庵を結んだりしたことは有名ですね。

[写真右] 伊藤若冲 「旭日雄鶏図」  江戸時代・18世紀
[写真左] 伊藤若冲 「鷲図」 江戸時代・寛政10年(1798)
エツコ&ジョー・プライス・コレクション蔵

平成館の1階ロビーにはチームラボの最新作「円相 無限相」。二度と同じ円は現れないそうです。メチャクチャかっこいい。


“禅”って難しいなと思われるかもしれませんが、難しいという理由で観に行かなかったとしたら、きっと後悔する展覧会です。確かに奥が深くすぎて簡単に理解できるものではありませんが、禅が広めた文化を知るだけでも十分だし、そこから気づくこともあると思います。禅の文化を存分に堪能できる素晴らしい展覧会でした。


※展示会場内の写真は特別に主催者の許可を得て撮影したものです。


【臨済禅師1150年・白隠禅師250年遠諱記念 特別展『禅 心をかたちに』】
2016年11月27日(日)まで
東京国立博物館 平成館・特別展示室にて


もっと知りたい禅の美術 (アート・ビギナーズ・コレクション)もっと知りたい禅の美術 (アート・ビギナーズ・コレクション)

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