2016/10/09

ダリ展

国立新美術館で開催中の『ダリ展』を観てまいりました。

国内では10年ぶり回顧展だそうで、もうそんななりますかという感じです。2006年の上野の森美術館の『ダリ回顧展』のときは狭いところで、混んでて…という印象しか残ってないのですが、前回が約100点に対し、今回は過去最大規模という約250点。初期から晩年まで満遍なく作品が揃い、ボリュームがあるので見応えがあります。やはり国立新美術館の天井の高い広い空間は観やすく、前回はなかった大画面の作品も多い。

前回の『ダリ回顧展』も休日は1時間待ちとかでしたし、今回も先に公開された京都市美術館では連日混雑していたようなので、早めに行った方が吉(なんでもそうですが)とばかりに開幕の週最初の夜間開館に伺ってきました。(ブログの記事アップがすっかり遅れてしまいましたが…)


会場の構成は以下のとおりです:
第1章 初期作品
第2章 モダニズムの探求
第3章 シュルレアリスム時代
第4章 ミューズとしてのガラ
第5章 アメリカへの亡命
第6章 ダリ的世界の拡張
第7章 原子力時代の芸術
第8章 ポルトリガトへの帰還-晩年の作品

初期作品はまだ10代の頃のものからあって、カタルーニャ地方の伝統的な舞踊を幻想的に描いた「魔女たちのサルダーナ」やラファエロの自画像にヒントを得た(らしい)「ラファエロ風の首をした自画像」が印象的でした。新印象派的な点描の作品やセザンヌ風の作品、フォーヴィスムに影響を受けた作品もあって、早熟で、10代にして前衛的傾向があったことも分かります。

サルバドール・ダリ 「ラファエロ風の首をした自画像」
1921年 ガラ=サルバドール・ダリ財団蔵

王立サン・フェルナンド美術学校では、後に映画監督として成功するルイス・ブニュエルやスペインを代表する詩人となるガルシア・ロルカと出会います。特にブニュエルとはシュルレアリスムの記念碑的映画『アンダルシアの犬』を共同制作。『アンダルシアの犬』と、同じくブニュエルと組んだ『黄金時代』は会場の一角でも上映されています。『黄金時代』は1時間ぐらいありますが、『アンダルシアの犬』は15分ぐらいの短編なので、時間に余裕があれば折角なのでご覧になるのがいいかと(ちょっと刺激的な場面がありますが)。

サルバドール・ダリ 「ルイス・ブニュエルの肖像」
1924年 国立ソフィア王妃芸術センター蔵

ブニュエルの肖像画もあって、一目見てブニュエルと分かるぐらい似ていて笑えます。特徴を捉えた写実的な風貌、キュビズムの影響を感じさせるボリューム感、デ・キリコを思わす形而上絵画的な背景。発展途上とはいえ、ダリの進む方向が見えるようです。

ピカソと出会ったり、シュルレアリストらとの交遊が生まれたりするのもこの時代。キュビズムやピュリスム、未来派といった芸術運動を貪欲に吸収し、それを作品化していってるのですが、どの作品もそれなりに完成度が高いのがスゴイ。

サルバドール・ダリ 「子ども、女への壮大な記念碑」
1929年 国立ソフィア王妃芸術センター蔵

ダリは「パラノイア的=批判的方法」という独自の哲学に基づきダブルイメージと呼ばれる表現手法を構築。シュルレアリスムの急先鋒として数々の作品を発表していきます。「謎めいた要素のある風景」でキャンバスに絵を描いている人物はフェルメールをイメージしてるとか。右奥のセーラー服の少年はダリの分身だといいます。

ダリの作品は複雑なイメージが重なっていて、まるで説明のつかない(しかしそれぞれに意味がある)夢のシーンのようです。同じシュルレアリスムでもマグリットがイメージを切り取ってフレームの中に“絵画”として見せるのに対し、ダリはどこか映像的で、イメージを重層的に表現し、フレームの枠を超えた広がりというか、映像のシークエンスから切り取られた一コマを見てるような気になります。

サルバドール・ダリ 「謎めいた要素のある風景」
1934年 ガラ=サルバドール・ダリ財団蔵

サルバドール・ダリ 「見えない人物たちのいるシュルレアリスム的構成」
1936年 ガラ=サルバドール・ダリ財団蔵

第二次世界大戦中はアメリカに亡命。アメリカでも人気のダリのもとにはさまざまな仕事が舞い込み、映画制作に参加したり、宝飾品のデザインを手がけたり、仕事の幅が広がっていきます。注文肖像画も多く受けていたようで、たぶんアメリカの新しいもの好きのセレブリティにはダリは人気だったんでしょうね。ダリ的風景を背景にした肖像画なんて、すごく面白し、羨ましすぎます。

サルバドール・ダリ 「アン・ウッドワード夫人の肖像」
1953年 公益財団法人諸橋近代美術館蔵

ここではディズニーと組んだ『デスティーノ』や、美術協力として参加したヒッチコックの『白い恐怖』の夢のシーンが上映されています。『デスティーノ』は結局未完に終わり、その後2003年に復元。『白い恐怖』の夢のシーンは、撮影したものの結局ヒッチコックが気に入らず大半がカットされてしまったといいます。ダリはどんな夢のシーンを用意していたのか、とても興味をそそられます。

サルバドール・ダリ 「不思議の国のアリス」
1969年 ガラ=サルバドール・ダリ財団蔵

ダリが手がけたバレエなどの舞台美術のデザイン画やその映像なども紹介されていましたが、一番面白かったのがダリが挿絵を手がけた『不思議の国のアリス』。カラフルな色彩と滲みを活かした水彩画のような独特なタッチ、そしてシュールな空想の世界に目が釘付けです。

サルバドール・ダリ 「ウラニウムと原子による憂鬱な牧歌」
1945年 国立ソフィア王妃芸術センター蔵

広島・長崎に落とされた原爆に衝撃を受けたダリは“原子力の絵画”なるものを数多く発表していて、ここでは1コーナーが設けられています。それこそ戦争や原爆をイメージさせるモチーフや分子構造みたいな作品もあって、原爆投下がダリの作品世界にどんな影響を与えたかが分かります。「ポルト・リガトの聖母」はキリスト教的主題を、この時代のダリの作品特有の原子核構造のような浮遊的構図で神秘的に描いた作品。愛妻ガラが聖母マリアに置き換えられています。

サルバドール・ダリ 「ポルト・リガトの聖母」
1950年 福岡市美術館蔵

晩年はルネサンスや古典絵画への回帰が強まり、大画面の作品も多く手掛けたといいます。会場でひと際大きかったのが「テトゥアンの大会戦」。カタロニアの画家フォルトゥニーの歴史画に着想を得た作品だそうですが、よく見ると、人の顔や盾の形などに数字がたくさん隠れているというユニークな作品。ダリの遊び心を感じます。個人的には「海の皮膚を引きあげるヘラクレスがクピドをめざめさせようとするヴィーナスにもう少し待って欲しいと頼む」(長いタイトル!)のシュールさが好きですね。

サルバドール・ダリ 「テトゥアンの大会戦」
1962年 公益財団法人諸橋近代美術館蔵

サルバドール・ダリ 「海の皮膚を引きあげるヘラクレスがクピドを
めざめさせようとするヴィーナスにもう少し待って欲しいと頼む」
1963年 長崎県美術館蔵

誰もが知ってるようなダリの代表作が来日しているわけではないのですが、これだけの作品が集まる展覧会もそうはありませんし、ダリの世界に触れられる良い機会ですし、何より観ていて楽しいというのが一番だと思います。会期後半はかなりの混雑が予想されるのでお早めに。


【ダリ展】
2016年12月12日(月)まで
国立新美術館にて


もっと知りたいサルバドール・ダリ (生涯と作品)もっと知りたいサルバドール・ダリ (生涯と作品)


ダリの塗り絵ダリの塗り絵

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