2016/10/14

大仙厓展

出光美術館で開催中の『大仙厓展 - 禅の心、ここに集う』を観てまいりました。

出光美術館開館50周年を記念する特別展の第5弾。仙厓は出光美術館でもたびたび観ていますが、今回は“大”と付くだけのことはあり、出光美術館と並ぶ仙厓コレクションを誇る福岡市美術館と九州大学文学部の所蔵作品もあわせて展示されていて、とても充実した、素晴らしい展覧会になっています。

いつもの出光美術館の陶磁器コレクションもなく、全て仙厓。2時間観ていたのですが、時間が足りないぐらいでした。仙厓は出光にとって特別の存在だけに、解説も行き届いてて、思い入れの強さが伝わってきます。

訪れたのは開幕2日目でしたが、なかなかの人の入り。特に若い人が多いのに驚きました。やはり仙厓画のゆるさ、かわいさに人気が集まってるというのもあるのでしょう。もちろんユーモラスな絵ばかりでなく、禅画ならではの深さがありますが、そこは仙厓なので気楽に観られますし、何より観ていて楽しいのがいいですね。


会場の構成は以下のとおりです:
第一章 仙厓略伝-作品でつづる生涯
第二章 仙厓の画賛-道釈人物画で画風の変遷をたどる
第三章 仙厓禅画の代表作、「指月布袋」「円相」「〇△☐」-禅の心、ここに集う
第四章 「厓画無法」の世界-この世の森羅万象を描く
第五章 筑前名所めぐり-友と訪ねた至福の旅をたどる
第六章 愛しき人々に向けたメッセージ-仙厓の残した人生訓を味わう

仙厓 「布袋画賛」
出光美術館蔵

仙厓の作品の多くは、還暦を機に寺の住職を弟子に譲って隠居してから87歳で亡くなるまでに描かれたもの。会場には40代の頃という早い時期の作品も展示されていて、狩野派系の粉本を写したとされるその作品は意外にもしっかりとした筆致で、後年の仙厓の絵と全く異なるのに驚きます。

禅機図や祖師図などを例に取り、50代の頃から80代にかけての画風の変遷を分かりやすく説明しているコーナーがあって、それなどを観ていると、もとからくだけた絵を描いていたのでなく、墨絵のテクニックが実はちゃんとあり、だんだんと崩していって“厓画無法”という自由で型破りな画風になっていったことがよく分かります。

仙厓 「坐禅蛙画賛」
出光美術館蔵

ユーモラスな絵とその人柄から仙厓人気は凄まじかったようで、一時は絶筆を宣言し、“絶筆碑”なるものまで制作しています。揮毫を希望する人の紙がうず高く積まれていたなんというエピソードも紹介されていました。

もちろん禅画なので、絵に添えて禅の教えに基づく画賛が書かれてるのですが、その賛がまたウィットに富んでいます。こちらを向いてニヤリと笑ってるような蛙の絵には「全ての存在に仏性があるように座禅してるような姿の蛙も悟りを開くことができるだろう」と書き添えてあって、筆を取りながらニヤリと笑う仙厓の顔が思い浮かぶようです。

仙厓 「指月布袋画賛」
出光美術館蔵

恐らく人気があったということもあるのでしょうが、仙厓には同じ画題の作品がいくつもあって、空を指差す親子を描いた「指月布袋画」もそのひとつ。絵の外にあるのだろう月を眺めながら、「を月様幾ツ、十三七ツ」と親子の楽しげな会話が伝わってきます。

仙厓 「一円相画賛」
出光美術館蔵

仙厓 「〇△☐」
出光美術館蔵

禅画といえば、円相図。禅における真理であり、悟りであり、無限であり、宇宙であり、深すぎて理解には遠く及びませんが、「一円相画賛」に添えられた「これくふて茶のめ」がまた仙厓らしくて笑えます。円相図も描き終えればただの図形に過ぎず、書き終えたときから既に修業は始まっていて、わたしにはもう紙くず同然だから、茶菓子と思って楽しんでください、というわけです。難しいことは考えず、観て楽しんでもらえれば私は満足ですという仙厓はとてもイカしてます。

しまいには〇と△と☐とか、ふざけてるのか何なのか、凡人にはもうよく分かりません。出光興産の創業者で無類の仙厓コレクターだった出光佐三氏はこの作品を「宇宙を表した作品」と語り、これを受けて鈴木大拙が「The Universe」と英語名を付けたという有名な作品です。

仙厓 「凧あげ図」
福岡市美術館(石村コレクション)蔵

どこが禅なのかと思うような(笑)作品もたくさんあります。ほとんど子どもの落書きのような「凧あげ図」や、虎図を頼まれ猫を描き「猫ニ似タモノ」と頓智を利かせた「虎画賛」、山寺の和尚さんよろしく子どもが悪戯して猫に紙袋を被せた「猫に紙袋図」など、かわいい仙厓画に笑いが止まりません。

仙厓 「章魚図」
福岡市美術館(三宅コレクション)蔵

もちろん“大”仙厓展なので、仙厓の唯一の着色画という「章魚図」や、珍しいトドの写生画「トド画賛」、仙厓が愛した筑前や博多の風俗を描いた作品、そのほかにも仙厓遺愛の茶碗や歌集など、こういう機会でないとなかなか観られないような幅広い作品が展示されています。

仙厓 「花見画賛」
出光美術館蔵

仙厓の最晩年の「牡丹画賛」も良かったなあ。「うへてみよ 花のそだたぬ 里もなし」。何事もやってみなければはじまらない。仙厓の画賛はどれも意味が深く、そして心に染みます。素朴でユルい仙厓の作品を観ていると、自然と気持ちも和んできますね。オススメの展覧会です。


【開館50周年記念 大仙厓展 - 禅の心、ここに集う】
2016年11月13日(日)まで
出光美術館にて


仙厓(せんがい):ユーモアあふれる禅のこころ (別冊太陽 日本のこころ)仙厓(せんがい):ユーモアあふれる禅のこころ (別冊太陽 日本のこころ)

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