2016/03/05

ジョルジョ・モランディ展

東京ステーションギャラリーで開催中の『ジョルジョ・モランディ 終わりなき変奏』を観てまいりました。

およそ半世紀に及ぶ創作活動の中で、ずーっと同じような静物画ばかりを描き、次から次へと新しい芸術運動が生まれても画風が揺らぐことなく、頑に自分のスタイルを守りつづけたモランディ。

若い頃はモランディの良さがよく分かりませんでした。 どれも一緒で、なんか退屈で。でもこの年になり、安らぎとか静けさといったものを好むようになってきたからなのか、モランディの作品も心にすーっと落ちてくるようになってきました。

時代が変わっても変わらないテーマ、安定した構図、落ち着いた色彩や陰影。静謐な空間から伝わる柔らかな調べにも音が加わったり重なったり、その変奏がとても心地いい。

本展は、モランディの特徴的な手法である「ヴァリエーション=変奏」に焦点を当てていて、イタリアのモランディ美術館を中心に、国内外の美術館や個人蔵の作品など、油彩画53点を含む約100点の作品が集められています。モランディの本格的な展覧会としては日本では約17年ぶりなのだそうです。

会場は作品のモティーフや“変奏”のパターンをテーマに11のパートに分かれています。

ジョルジョ・モランディ 「静物」
1946年 国立近代美術館(ローマ)蔵

作品は1920年代前後のものからあるのですが、それ以前の活動初期にはデ・キリコの形而上絵画や未来派などの影響を受け、作風もそれに近いものがあったようです。今回の出品作の中でも早い時期の作品は形而上絵画期を抜け出した頃のものと解説されていましたが、やはりまだ形而上絵画の残影はありますし、当時傾倒していたセザンヌに影響されてるのかなと感じるところもあります。

ジョルジョ・モランディ 「静物」
1948年 トリノ市立近現代美術館、グイド・エド・エットーレ・デ・フォルナリス財団蔵

ジョルジョ・モランディ 「静物」
1949年 モランディ美術館蔵

モランディの静物画には同じ瓶や壷、器、水差し、扁壺、ココアの缶などが繰り返し登場します。同じ器で同じ構図だから制作年が近いのかと思いきや、10年ぐらい年数の開きがあるものがざらにありますし、中には30年ぐらいずっと同じ物が描いていたりして驚きます。

わざわざ表面の色を塗り替えたり、溶接してくっつけたり、自分のイメージに合わせて作り替えたりしてるんですね。モランディの作品でたびたび見かける逆三角形の蓋のようなものは実は漏斗(じょうご)で、金属製の円筒に溶接して自作したものだといいます。

ジョルジョ・モランディ 「静物」
1951年 モランディ美術館蔵

ジョルジョ・モランディ 「静物」
1951年 モランディ美術館蔵

変奏といっても、リズムが変わるわけでもなく、がらりと転調するわけでもなく、オーケストラが加わるわけでもありません。それはとてもシンプルで禁欲的で、しかしその微細な変化の中でも、配置を変え、構成を変え、光を変え、色調を変え、ひたすらストイックに、常に理想を求めているのが分かります。静かに見つめ続ける先に見えてくるもの。晩年の水彩などはより平面的で奥行きがなくなり、輪郭線も消失し、抽象に近づいているのが興味深い。

ジョルジョ・モランディ 「7つの器のある円形の静物」
1945年 モランディ美術館蔵

静物画のエッチングも複数あって、これは油彩画とはかなり雰囲気が異なります。とても緻密で、強い陰影や多彩なパターンなど、静物画とはまた違った魅力があります。レンブラントの銅版画の技法を研究したりしたのだそうです。

ジョルジョ・モランディ 「風景」
1921年 モランディ美術館蔵

静物画以外に、花の静物画や風景画もあります。モランディは海外はおろかイタリア国内にもほとんど旅をしていないそうで、風景画に描かれる景色はアトリエから見える光景や、せいぜい町のまわりの丘の景観だけ。彼の静物画に似て、やはり同じ景色の変奏、単純化された表現です。花の静物画は、後年は花も造花になり、褪色したり埃でくすんだり、逆にその色調やニュアンスにモランディの面白さを感じます。

ジョルジョ・モランディ 「花」
1952年 ミラノ市立ボスキ・ディ・ステファノ邸美術館蔵

会場の途中に、最後の静物画で描いたという瓶や逆さじょうごの写真があるのですが、もう20年も30年も描きつづけたおなじみの瓶や器なわけで、埃か錆か 汚れて汚いんだけど、これをずーっと大切に、それを何度も何度も描いてきたんだと思うと、なんだかとっても愛おしく思えてきます。なんかグッときます。


【ジョルジョ・モランディ 終わりなき変奏】
2016年4月10日(日)まで
東京ステーションギャラリーにて


ジョルジョ・モランディジョルジョ・モランディ

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