本展は松濤美術館のリニューアルオープン記念第2弾の特別展で、東京では13年ぶりの醍醐寺展とのこと。
世界遺産にも登録されている洛南の醍醐寺には5年ほど前に訪れたことがあり、国宝の金堂や五重塔をはじめ、霊宝館では数々の寺宝を拝見し、とくに霊宝館の充実ぶりにはとても感動したのをよく覚えています。
その醍醐寺から国宝・重要文化財を含む貴重な名宝の数々が来ているわけですが、9月まで奈良国立博物館で開催されていた『国宝 醍醐寺のすべて』とは別物の企画展になります。ただし、奈良博では出品されなかった、醍醐寺でも最も貴重な寺宝の一つ、国宝「過去現在絵因果経」がこちらでは展示されています。
展覧会は、
第1章 み仏のおしえ ~「国宝 過去現在絵因果経」と経典類~
第2章 み仏のすがた ~密教の彫刻と絵画~
第3章 み仏とつながる ~密教法具類~
第4章 醍醐にひらく文雅 ~桃山・江戸時代の絵画と工芸品~
という構成になっていますが、会場は地下1階に2章→1章→3章、2階が3章と4章という順番になります。
まずは真言密教にまつわる仏像や絵画から。密教では複雑な宇宙観や真理は言葉で表しがたく、色や形を用いてそれを表すといいます。古くから密教寺院に仏画や曼荼羅が多くあるのは、絵図を通して悟ってもらいたいということなのでしょう。
「閻魔天像」(国宝)
平安~鎌倉時代・12世紀 醍醐寺蔵(展示は11/3まで)
平安~鎌倉時代・12世紀 醍醐寺蔵(展示は11/3まで)
「閻魔天像」はよくイメージされるような地獄の王としての怖い姿ではなく、観音様かと一瞬思うような慈悲深いお顔をされています。忿怒相として描かれる以前の古い単独の閻魔像としては最古の遺品とのこと。水牛にまたがり、人頭杖を手にするのは閻魔様の基本的な図様だそうです。
「虚空蔵菩薩像」は色調も鮮明で、比較的保存状態もよく、とても美しい。穏やかというより少しクールな表情が印象的です。
「虚空蔵菩薩像」(重要文化財)
鎌倉時代・13世紀 醍醐寺蔵(展示は11/3まで)
鎌倉時代・13世紀 醍醐寺蔵(展示は11/3まで)
そして本展の目玉、日本最古の絵巻「過去現在絵因果経」(醍醐寺本・巻第三上)。釈迦の前世と現世の出来事を下段に経文、上段に絵で表した絵巻で、出家前の釈迦(悉達太子)が出家してから、菩提樹の下で悟りを開く釈迦に魔王が降伏するまでを描いています。
奈良時代の絵因果経は藝大本など観ていますが、これは一巻まるまる欠損のない唯一の完本。日本最古の絵巻どころか、敦煌請来画の「牢度叉闘聖変」と並ぶ世界最古級の絵巻であるといいます。幸いなことに私が伺った日は雨で、しかも夕方だったこともあり、ほぼ独占状態でゆっくり鑑賞できました。これが『日本国宝展』だったら、大行列で大変なことになっていたんじゃないでしょうか。
驚くのは、その色の鮮やかさと保存状態の良さ。8世紀の遺品であるにもかかわらず、色はくっきりとしていて非常に鮮明、ほとんど褪色してないことにビックリしました。絵は素朴で、人物はやや稚拙な感じもありますが、顔の表情なども丁寧に描かれています。屹立した岩山の描写や、山や紅葉(?)の色彩感も、8世紀に既にこういう描き方をされていたのかと正直驚きました。
全体がストーリーになっているので、ついつい引きこまれて見入ってしまう面白さがあって、とくに魔王が釈迦の邪魔をする場面では、魔王の手下の怪獣軍団があの手この手を繰り広げ笑えます。「鳥獣戯画」が日本最古のマンガなどと言われることがありますが、その400年も前に既にこうした楽しい絵巻があったのです。
「過去現在絵因果経」(国宝)
奈良時代・8世紀 醍醐寺蔵
(※全場面展示は10/7~13、10/28~11/3、11/18~24のみ。11/5~16は後半部分のみ展示。)
奈良時代・8世紀 醍醐寺蔵
(※全場面展示は10/7~13、10/28~11/3、11/18~24のみ。11/5~16は後半部分のみ展示。)
醍醐寺本は、隋もしくは初唐の大陸請来の絵巻の写本と考えられていて、宮廷の画工司の協力を得て写経所で制作されたものではないかとのこと。奈良時代の絵因果経の次に現存する絵巻で古いのは約400年もあとの「源氏物語絵巻」なので、それを考えると、非常に貴重な絵巻であることが分かると思います。
ちなみに、「過去現在絵因果経」は期間により全場面展示か半分のみ展示かがあるのでご注意ください。
山口雪渓 「楓図屏風」(一部)
江戸時代・17~18世紀 醍醐寺蔵
江戸時代・17~18世紀 醍醐寺蔵
2階に上がると、俵屋宗達の「扇面貼付屏風」がいい。「保元物語」や「伊勢物語」などに取材した11面の扇を貼りあわせた屏風で、宗達らしい図様とたらしこみが印象的です。山口雪渓の「楓図屏風」は桜を描いた屏風と合わせ、二双の大きな屏風のようですが、本展では六曲一双の「楓図」のみ展示。狩野永納に師事していたともいわれ、京狩野に近い屏風と紹介されていましたが、長谷川派の影響を思わせるところもあります。楓の緑葉が一部褪色してるのが残念ですが、華麗な中にも瀟洒な味わいのある逸品です。
そのほか、菅原道真や空海、小野道風の書跡、信長・秀吉・家康の書状など、いろいろと興味深い遺品もありました。出品数は前後期合わせても44点と決して多くないのですが、その内11点は国宝、重要文化財も10点と見どころの多い展覧会でした。
【御法に守られし 醍醐寺展】
2014年11月24日まで
渋谷区立松涛美術館にて
醍醐寺の謎―京都の旅 (祥伝社黄金文庫)
密教の美術―修法成就にこたえる仏たち (仏教美術を極める)
絵因果経の研究 (美の光景)
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