2014/11/21

有吉佐和子歿後30年記念特別展

杉並区立郷土博物館で開催中の『有吉佐和子歿後30年記念特別展 いのちの証-書くこと、家族、杉並-』に行ってきました。

有吉佐和子が亡くなって30年。もうそんなになるんですね。「華岡青洲の妻」「紀ノ川」「香華」「芝桜」「悪女について」「開幕ベルは華やかに」…。大好きな作品がたくさんあります。

生涯に60冊以上の著作を残したといい、テーマも家族の問題から、高齢者問題や環境問題、政治、歴史、伝統芸能に至るまで多岐に渡っています。作品は今も舞台化や映画化、テレビドラマ化され、没後30年ということで復刊も相次ぎ、人気の高さが伺えます。

有吉佐和子は杉並区立郷土博物館から程近い堀ノ内に終戦後に移り住んでから亡くなるまで長年暮らしていたそうです。本展はそのゆかりの地・杉並での没後30年記念展になります。


会場は次の章から構成されています。
プロローグ
第一章 有吉佐和子 -作品とその奥行-
第二章 描いた家族・生きた家族
第三章 小説を越えて
第四章 自宅での日々
第五章 杉並のまちへ
エピローグ

展示品は約70点。自筆原稿や創作ノート、取材メモ、また初版本や映画化・舞台化された作品の資料やパンフレット、愛用の着物や茶道具、雛飾りといった遺品などなど。展示室は広くないので、正直物足らなさもあるかもしれません。世田谷文学館のようなスペースやボリュームは期待しないでください。それでもこうして有吉佐和子の残したものを観られるのはファンには嬉しい限りです。

展覧会は全体として、サブタイトルにもあるように、<書くこと>と<家族>に焦点が当てられています。有吉佐和子は身体が弱く、十枚も原稿を書けば顔が真っ青になり、一作書き終わると寝込み、入院することもあったようです。有吉が執筆活動に専念できるよう、有吉の母は出版社とのやり取りから家計や税金の計算、さらに有吉の娘・玉青の養育まで一切を引き受けたといいます。そうした家族の協力や強い絆が、有吉佐和子の作品を支えていたんだなと伝わってきます。


第一章では、父の仕事の関係で訪れたジャワ島での暮らしや、歌舞伎に対する強い思い、またクリスチャンであることの葛藤を示す資料や写真などが展示されていて、小説を書き始めるに至る経緯が分かります。有吉が作家デビュー前に雑誌『演劇界』で嘱託記者をやっていたり、舞踊家・吾妻徳穂の秘書をしていたことは知られていますが、懸賞論文で入選したときの『演劇界』や吾妻徳穂との写真、それに『演劇界』の原稿料の支払い明細なんていうのもありました。ちなみに『演劇界』では「尾上松緑論」、「勘三郎について」、「海老蔵について」を寄稿していたようです。

第二章には、「紀ノ川」のモデルになったという和歌山の母方の一家の写真や、小説にも登場する慈尊院の“乳房形”、取材時の様子を撮った写真やノートなどもあって、こういうのを見ると、また本を読みたくなってきます。

最後の方には、有吉佐和子の晩年に交友があったという作家の橋本治が有吉のために編んだセーターが展示されています。加山又造が装丁を手がけた「真砂屋お峰」の千羽鶴のデザインをあしらったもので、さすがという感じ。

会場には昭和33年に東京宝塚劇場で行われた文藝春秋社の文士劇の様子を撮影した5分ほどの映像が流れていて、これが見ものです。「音菊文春歌舞伎」として有吉佐和子が白玉を演じた「助六」の様子を撮影したもので、助六は石原慎太郎、揚巻は曾野綾子、髭の意休に三島由紀夫と超豪華。花道もあるし、セットも歌舞伎座みたいだし、本格的です。楽屋での有吉と三島の会話も楽しい。


会場には有吉作品の文庫本などもあるので手に取って見ることもできます。

杉並区立郷土博物館はちょっと不便なところにあって、駅からだと歩くので、バスで行くのがいいと思います。入場料100円、図録も400円とお得です。


【有吉佐和子歿後30年記念特別展 いのちの証-書くこと、家族、杉並-】
2014年12月7日まで
杉並区立郷土博物館本館にて


紀ノ川 (新潮文庫 (あ-5-1))紀ノ川 (新潮文庫 (あ-5-1))


真砂屋お峰 (中公文庫)真砂屋お峰 (中公文庫)


地唄・三婆 有吉佐和子作品集 (講談社文芸文庫)地唄・三婆 有吉佐和子作品集 (講談社文芸文庫)

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