2014/07/08

ジャン・フォートリエ展

東京ステーションギャラリーで開催中の『ジャン・フォートリエ展』に行ってきました。

以前、ブリヂストン美術館でフォートリエの「人質の頭部」を観て興味は持っていたのですが、先日コレクション展示でまた別のフォートリエ作品に接し、フォートリエの全貌を知るにはちょうどいい機会だと思い、伺ってまいりました。

ジャン・フォートリエはフランスの抽象絵画運動を代表する画家。意外なことに日本では初の本格的な回顧展だそうです。


1-レアリスムから厚塗りへ 1922-1938

若い頃はターナーに影響を受けていたりしたようですが、20~30年代の作品を観る限り、その絵はターナーという感じはせず、セザンヌを思わせます。しかも暗いセザンヌ。

会場の最初に展示されていた「管理人の肖像」には度肝を抜かされましたが、これは他の作品と比べてもちょっと特異で、「エドゥアール夫人の肖像習作」のタッチや、「静物」や「玉葱とナイフ」などの静物画はセザンヌを重くさせたような色調と描写が印象的です。

ジャン・フォートリエ 「管理人の肖像」
1922年頃 ウジェーヌ・ルロワ美術館蔵

この時代は2~3年でがらりと画風が違うというか、サンギーヌ(赤色顔料)を使った裸婦画や、暗い背景に対象物がぼーっと浮かび上がるような裸婦画、まるで炭で描いたような“黒の時代”と呼ばれる特徴的な作品が次々現れます。この時期の特色として、女性の乳房や腹部が強調されるのはアフリカ美術の影響だとありました。いろいろと模索を繰り返していたのでしょうね。

ジャン・フォートリエ 「美しい娘(灰色の裸婦)」
1926-27年頃 パリ市立近代美術館蔵

ちなみに、後にフォートリエは過去の具象絵画を失敗とし、「誤りだと分かった」と否定しています。

途中にはフォートリエの彫刻作品も展示されていますが、彫刻は限られた時期のみに制作されていて、全体でも20点ぐらいしかないようです。


2-厚塗りから「人質」へ 1938-1945

戦前の活動は日本でも紹介されていたほどですから、それなりに評価は高かったのでしょうが、フォートリエは経済的な理由から創作活動を一旦止め、アルプスでスキーのインストラクターやホテルの経営などをしていたといいます。

ジャン・フォートリエ 「人質の頭部」
1944年 国立国際美術館蔵

その後、再びパリに戻るのですが、時は戦時下。そんな中でドイツ軍の捕虜になったレジスタンスを題材に制作したのが連作の<人質>シリーズ。その顔は拷問されたかのような、ただの肉の塊りと化し、もはや目や鼻、口の区別さえつかないようなものもあります。これはレジスタンスに限定されず、ユダヤ人の悲劇や広い意味で戦争の悲劇の象徴でもあるのでしょう。その作品は美術界に衝撃を与え、「ピカソ以来世界でもっとも革新的な画家」と高い評価を受けたそうです。


2-第二次世界大戦後 1945-1964

戦後の作品は“アンフォルメル”といわれる、厚塗りで色彩豊かな独特のマチエールをもった作風へ一変します。

ジャン・フォートリエ 「雨」
1959年 大原美術館蔵

会場に流れていた映像でフォートリエは、「他の画家に興味はない。好きなのは自分の絵だけ」と語っていました。孤高というより我が道を往く画家なのだなと実感。「雨」や「草」、「黒の青」あたりが個人的にはいいなと感じます。

ジャン・フォートリエ 「黒の青」
1959年 個人蔵

会場に流れていた映像で、美術評論家がアンフォルメルに自説を述べるも、フォートリエがばっさりと切り捨てたり、描こうと思えば3分でできると豪語していたのにはちょっと笑いました。

会場の最後には日本を代表するアンフォルメルの画家・堂本尚郎の作品が展示されています。


 【ジャン・フォートリエ展】
2014年7月13日まで
東京ステーションギャラリーにて


アンフォルム―無形なものの事典 (芸術論叢書)アンフォルム―無形なものの事典 (芸術論叢書)

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