2014/07/26

オルセー美術館展

国立新美術館で開催中の『オルセー美術館展 印象派の誕生 −描くことの自由−』に行ってきました。

前回2010年の『オルセー美術館展』の大混雑のこともあるので、早めに観に行っておこうと、開幕の週の夜間開館日に行ったのですが、さすがに前評判の高い展覧会だけあって、結構な混み具合。特に女性のお客さんが多くてビックリしました。たぶん9割は女性の方だったのではないでしょうか。まるで誤って女性専用車両に乗ってしまったような気分(笑)。作品前の人だかりから移動するのにも気を使います。

さて、4年ぶりのオルセー美術館展のテーマは≪印象派の誕生≫。出品作のほとんどが1860~70年代のもので、アカデミズムから印象派へ時代が移る過渡期にスポットを当てています。新しい絵画の流れが生まれ、潮流が変わっていく様子がとてもよく分かります。よくぞここまで傑作の数々を持ってきてくれたことに感謝!


1章- マネ、新しい絵画

今回の『オルセー美術館展』はマネで始まり、マネで終わります。当時のフランス美術界の唯一の発表の場であったサロン(官展)でセンセーショナルを巻き起こし、その後の印象派の誕生に大きな影響を与えたマネの1860年代中頃の作品から見ていきます。

エドゥアール・マネ 「笛を吹く少年」 1866年

このテーマからすれば、マネの「草上の昼食」か「オリンピア」が来ればベストだったのでしょうが、そうともいかず、この時代のマネの代表作の一つ「笛を吹く少年」が来日しています。「笛を吹く少年」もサロンでは落選していて、陰影を排した平面性や何もない背景、また色数を抑えた塗り方が当時は批判されたとのこと。実際に観ると少ない色数であっても丁寧に描きこまれていて、それほど抑制された感じは受けません。逆に立体的というか、浮き上がってくるような存在感があります。

ここでは「読書」もいい。白のトーンが柔らかな印象を与え、軽く早い筆触はモネやルノワールの先駆けを感じさせます。本を読む息子レオンは後年加筆されたそうで、個人的にはない方がいい気もするのですが、マネは何か物足らなかったのでしょう。


2章- レアリスムの諸相

印象派の前にフランスで起きた絵画運動のレアリスム。やはり見どころはミレーの傑作「晩鐘」で、きっちりと描かれた絵なのかと思いきや意外とポワーンとしてるのですね。写真などで見るより、夕焼けの雲やその光の陰影が実に繊細に描かれていることに感動しました。

ジャン=フランソワ・ミレー 「晩鐘」 1850-55年

ここではブルトンの「落穂拾いの女たちの招集」も印象的。この写実性、なんでしょう。女性が美しくて、たとえば同じ会場にあったジャン=フランソワ・ラファエリの「ジャン=ルー=ボワトゥの家族、プルガヌーの農民たち」のリアルな農民の姿と違い美化され過ぎな感もなきにしもあらずですが、暮れかかる大地の空気や素足で歩く草の音まで伝わってくるような作品でした。

ジュール・ブルトン 「落穂拾いの女たちの招集」 1859年

忘れてはならないのがカイユボット。昨年の『カイユボット展』に来なかったのは本展に出品されるためと聞いてましたが、ずっと観たかったカイユボットの最高傑作にやっと会えて喜びもひとしおです。予想以上に写実的で、床の光の反射や照りの繊細な描写、職人の腕のリアルな動きなんかも実に巧い。脇に置かれたワインの瓶がまたフランス的。

ギュスターヴ・カイユボット 「床に鉋をかける人々」 1875年

ほかにインパクトが大きかったのがファルギエールの「闘技者たち」。組み合う男性の筋肉の描写が見事だなと思ったのですが、ファルギエールという人は本来は彫刻家のようですね。絵画でもこれだけの技術があるのだから凄いものです。


3章- 歴史画

19世紀の歴史画というと、旧態依然として保守的なアカデミズム絵画のイメージがありますが、ここでは歴史画の新しい流れを紹介していて、なるほどと思いました。今までは想像でしか描けなかった遠い異国が、交通機関の発達とともに実際に見て来れる、また写真などで見ることができたり、知識を得られるようになり、それが絵画に大きな変化を与えたといいます。

ジャン=レオン・ジェローム 「エルサレム」 1867年

アカデミズムの大家ジェロームの「エルサレム」やラリドンの「星に導かれてベツレヘムに赴く羊飼いたち」といったオリエンタリズムもこの時代の特徴のよう。「エルサレム」の右下に描かれた磔のキリストの影がとても写真的。

アカデミズムの画家ドロネーの「ローマのペスト」はまるでバーン=ジョーンズ。ドロネーはモローとも交流があったようです。ジェロームの弟子モットの「ベリュスの婚約者」もアカデミズム絵画というより空想画。ハリウッドの『イントレランス』みたいでした。

エリー・ドロネー 「ローマのペスト」 1869年


4章- 裸体

裸体画はアカデミズムと印象派の対比が分かりやすい。アカデミズムではブグローにルフェーヴル、極めつけはカバネル。

ウィリアム・ビグロー 「ダンテとウェルギリウス」 1850年

まずはブグローの「ダンテとウェルギリウス」が圧巻。ダンテの『神曲 地獄篇』を題材にした残虐さより非常にドラマティックな描写と構図が強烈です。

アレクサンドル・カバネル 「ヴィーナスの誕生」

カバネルの傑作「ヴィーナスの誕生」が観られるのはもう感涙もの。ナポレオン3世が買い上げたというのも納得です。アカデミズム絵画は個人的には嫌いではないので、このコーナーは満足度高し。

ギュルターヴ・クールベ 「裸婦と犬」

リアリズムではクールベ、印象派ではルノワールやセザンヌ。象徴主義ではモロー。クールベの「裸婦と犬」がクールベらしくていいですね。醜いものは醜くという(笑)


5章- 印象派の風景 田園にて/水辺にて

展覧会もちょうど真ん中。ここでは印象派の風景画を田園の風景と水辺の風景に分けて展示。特にピサロとシスレーが4点ずつ、セザンヌが5点と多め。

アルフレッド・シスレー 「洪水のなかの小舟、ポール=マルリー」 1876年

今回いいなぁと感じたのがシスレーの風景画で、モネやルノワールとはまた違う光や色彩に溢れていていいですね。モネは代表作の一つ「かささぎ」があって、光に照らされた雪景色の微妙な色の加減が繊細かつ全てに渡って抜かりなし。一羽の黒いかささぎの絶妙な効果に唸ってしまいました。

クロード・モネ 「かささぎ」 1868-69年


6章- 静物

主題の身近さと価格の手ごろさもあって、19世紀半ば頃から静物画はパリのブルジョワたちの間で人気があったのだそうです。18世紀の画家シャルダンもこの頃再評価を受けたようで、“シャルダン風”の静物画もいくつかありました。

アンリ・ファンタン=ラトゥール 「花瓶のキク」 1873年

素晴らしかったのがファンタン=ラトゥールの「花瓶のキク」。菊のリアルな表現性もさることながら、筆触というか、色味というか、その質感にビックリしまくり。


7章- 肖像

肖像画も印象派が批判されつつも印象派らしさを発揮したカテゴリー。これは好みの問題ですが、ルノワールやセザンヌもあったのですが、個人的にはアカデミズムやリアリズムの画家に惹かれました。印象が強かったのはカロリュス=デュランの「手袋の婦人」。どこぞの上流階級のご婦人で、こんな大きな絵を飾れる大邸宅に住んでたんだろうなと思いきや、実はモデルは画家の妻だという。 レオン・ボナの「パスカ夫人」も風格があって良かったです。カイユボットはこのボナの弟子だったようです。

カロリュス=デュラン 「手袋の婦人」 1869年

フランス絵画の中に並ぶと異色というか、なんであるの?と思ったのがホイッスラー。調べたら、クールベに影響を受けたり、ファンタン=ラトゥールらとグループを組んだりしていたようです。「灰色と黒のアレンジメント第一番」は健康の優れない母親を絵に残そうと描いた作品で、モノトーンのような配色と横からとらえた構図が印象的です。2007年の『オルセー美術館展』(東京都美術館)にも来てましたね。

クロード・モネ 「死の床のカミーユ」 1879年

圧倒的だったのはモネの「死の床のカミーユ」。あまりにも切なすぎる美しさに涙が出ました。あのカミーユが、と思うだけで観ていて辛い。


8章- 近代生活

新しい時代を描くだけあり、ここは印象派強し。モネとドガが3点ずつ。ドガは代表作の「バレエの舞台稽古」。メトロポリタン美術館にも同題の類似の構図の作品がありますが、こちらは同系色の濃淡だけで描いているところが印象的。

エドガー・ドガ 「バレエの舞台稽古」 1874年

ほかにベルト・モリゾの傑作「ゆりかご」も来ていました。こちらも2007年の『オルセー美術館展』で観ています。印象派を代表する女流画家で、我が子を見つめる女性の優しい慈愛と母になった幸福感に満ち満ちた作品。美しい。

個人的なヒットは、これまたファンタン=ラトゥール。静物も素晴らしかったのですが、「テーブルの片隅」のヴェルレーヌとランボー。まさに“太陽と月に背いて”!

アンリ・ファンタン=ラトゥール 「テーブルの片隅」 1872年 


9章- 円熟期のマネ

最後は再びのマネ。ジャポニスムとブルジョワ女性の取り合わせが面白い「婦人と団扇」、作品の描かれたエピソードが洒落ている「アスパラガス」など、どれも良いのですが、なんといっても最晩年の「ロシュフォールの逃亡」が印象的。島流しされた政治犯の脱出劇を絵画化したもので、大海を漕ぐ小さな船の緊迫した構図とグリーンを基調とした色彩の美しさ、たゆたう波のタッチが素晴らしい。

エドゥアール・マネ 「ロシュフォールの逃亡」 1881年頃

混雑必至の展覧会ですが、オルセー美術館の傑作揃いで、これを見逃す手はありません。既に賑わってますが、会期末はさらに混雑必至。お早めにどうぞ。


【オルセー美術館展 印象派の誕生 −描くことの自由−】
2014年10月20日まで
国立新美術館にて


印象派のすべて (別冊宝島 2200)印象派のすべて (別冊宝島 2200)


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