2014/03/02

アンディ・ウォーホル展 永遠の15分

六本木ヒルズの森美術館で開催中の『アンディ・ウォーホル展 永遠の15分』に行ってきました。

ピッツバーグのアンディ・ウォーホル美術館のコレクションで構成したアジア巡回展を、東京向けに再構成した展覧会。これだけまとまった形の回顧展は1996年に東京都現代美術館で開催された『アンディ・ウォーホル 1956-86』以来じゃないでしょうか。しかも本展は、初期から晩年まで約400点におよぶ作品や写真、また300点にのぼるウォーホルの私的コレクション(“タイムカプセル”)を紹介していて、日本では過去最大級のウォーホル展だそうです。

ウォーホルが亡くなって27年。自分が10代の頃はまだウォーホルも現役で、その活躍ぶりは雑誌などでよく目にしていましたし、亡くなった後もたびたび彼の作品は見ていて、リアルタイムで知っている現代アーティストの中では最も有名で、最も身近だった人かもしれません。会場は若い世代の観客がとても多く、いまも多くの人が強い関心を持っているんだなとあらためて気づかされました。


アンディ・ウォーホルのポートレイト:ウォーホルとは何者なのか

まずは導入部として、ウォーホルの出自を紹介しながら、幼少期の写真や気鋭のデザイナーとして活躍していた頃の写真、日本に観光旅行したときの写真、また自分の顔を素材にした自画像などを展示。

「自画像」(1986)

「ぼくの絵と映画、そしてぼくの表面を見るだけでいい。そこにぼくがいる。裏には何もない。」
会場のところどころにはウォーホルが残した言葉が綴られています。ウォーホルはデザイナー、アーティスト、映画監督、音楽プロデューサー、雑誌発行人など多面的な顔を持ち、自分自身さえもまるで商品のようにメディアに露出させ、マルチクリエイターと一言で括れないほど、その全容を理解するのはなかなか難しいものです。


1950年代:商業デザイナーとしての成功

ここでは、『Glamour』や『VOGUE』などファッション誌のイラストや商品の広告を手掛け早くから成功したウォーホルのイラストレーター時代の作品を紹介。

当時のウォーホルのトレードマークだったという“ブロッテド・ライン・ドローイング(しみつきの線)”と呼ばれる技法によるイラスト「靴と脚」や「無題(サム)」、またデザイン画、金箔を貼った靴などが展示されています。“ブロッテド・ライン・ドローイング”はイメージを描いた紙に別の紙を押しあててインクを転写する方法。複数生産を可能にすると同時に微妙に異なる繊細な線を生み、ウォーホルのイラストの特徴ともなり、また後のシルクスクリーン作品の原点になったということです。

「僕の庭の奥で」(1956年)

そのほか、1950年代に発表した実験的な作品集『僕の庭の奥で』のイラストや、ゴム印画作品などを展示。男の顔にスタンプを押したり、星条旗にスタンプを押したりという遊び心は1960年代以降の創作活動の発芽を感じられます。


1960年代:「アーティスト」への転身

1950年代末から「アーティスト」として絵画制作に打ち込んで以降の作品を紹介。1950年代のムーブメントだった抽象表現主義に影響されたこともあったようですが、1950年代末から沸き起こったポップアートに触発され、ウォーホルの代名詞となる「キャンベル・スープ缶」や「マリリン」などを次々と発表します。

「ジャッキー」(1964)

「キャンベル・スープ缶」はスクリーンプリント作品だけでなく、手彩色した1点もの(?)の作品や、「マリリン」もテンプレート化された作品以外にも展覧会への出品は稀という「二つのマリリン」など、なかなか見られない作品もありました。そのほか、エルヴィス・プレスリーやエリザベス・テーラー、ジャクリーン・ケネディといった有名人を素材にした一連の肖像画作品や、自殺や自動車事故をテーマにした「死と惨事」シリーズ、「電気椅子」「病院」といったセンセーショナルな作品群、「牛の壁紙」などの意欲的な作品等々、60年代のウォーホルを代表する作品を展示されています。

「電気椅子」(1971)


シルバー・ファクトリー

ウォーホルのスタジオ「ファクトリー」を展示室に再現。ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコやファクトリーで撮影された映像も紹介しています。


1970-80年代1:ビジネス・アートとセレブリティ

1970年代に入って次々と量産する、映画・音楽界のスターや、ファッション界の有名人、各界のセレブや個人コレクターからの注文肖像画や、その素材として撮影された写真などを中心に展示。ミック・ジャガーやマイケル・ジャクソン、モハメド・アリ、アレサ・フランクリン、また坂本龍一といったシルクスクリーン作品や、デニス・ホッパーやライザ・ミネル、デボラ・ハリー、マドンナ、グレイス・ジョーンズ、トルーマン・カポーティらの写真が所狭しと飾られています。

こうして70年代、80年代のポップカルチャーを代表する錚々たる面々の顔を見ていると、ウォーホルがアートという枠を超えて、どれだけ時代の寵児だったのか、時代の本流にいたのかが分かります。


1970-80年代Ⅱ:多様化と反復

オーダーメイド的な「ビジネス・アート」とは別に、衰えぬ実験精神を強く感じさせる「ロールシャッハ」や「酸化絵画」、「縫合写真」、また「人体図」シリーズや「絶滅危惧種」シリーズといったユニークな作品を展示。個人的には、ジャン=ミシェル・バスキアとのコラボレーション作品が面白く、二人のコラボというよりウォーホルへのオマージュというようにも思えました。

ウォーホルは自分の死を予感していたのか、80年代にはウォーホル流の宗教絵画を手がけ、会場の最後には晩年の「十字架」が展示されています。そのほか、同じく晩年の代表作「カモフラージュ」シリーズも展示。懐かしいTDKのテレビCMも流されていました。


実験映画とヴィデオ

いくつものスクリーンに囲まれた空間に、それぞれウォーホルがファクトリーで手がけたビデオ作品が流されています。イーディ・セジウィックやニコ、ボブ・ディラン、マルセル・デュシャン、また岸田今日子や仲谷昇も登場する『スクリーンテスト』、ウォーホルの“スーパースター”、イーディ主演の『ルペ』、ウォーホルの代表的な実験映像作品『エンパイア』や『スリープ』など。ここは真面目に観ようとすると何時間もかかるので、ちょっと見。


タイム・カプセル

ウォーホルは身近なグッズや雑誌、旅行先で買い求めた物などを大切に収集していた(というより取っておいた)そうで、それらが「タイム・カプセル」としてウォーホル財団には600箱以上も保管されているといのことです。ここではその「タイム・カプセル」の一部を披露。当時のファッション雑誌や、来日時の記念写真、歌舞伎や浮世絵の本なども飾られていて、ウォーホルの趣味的な一端を覗くことができて面白いです。


ウォーホルとは何者なのか。ウォーホルの足跡をいま一度確認するという点で、またとない機会の展覧会だと思います。これだけの展示作品があっても、まだまだ観たい、もっと観たいと思わせる刺激に溢れています。


【森美術館10周年記念展 アンディ・ウォーホル展:永遠の15分】
2014年5月6日(火)まで
森美術館にて


アンディ・ウォーホル展 永遠の15分 Andy Warhol: 15 Minutes Eternalアンディ・ウォーホル展 永遠の15分 Andy Warhol: 15 Minutes Eternal


美術手帖 2014年 03月号 [雑誌]美術手帖 2014年 03月号 [雑誌]


ウォーホルの芸術 20世紀を映した鏡 (光文社新書)ウォーホルの芸術 20世紀を映した鏡 (光文社新書)

5 件のコメント:

  1. ギロでございます~2014年3月4日 11:11

    こんにちは、おひさです。やっぱりご覧になったんですね。
    わたしも行きましたが、あらためてウォーホルは今の時代を先取りしていたなぁと感心しました。芸術の大衆化、商業化、セレブと結びつけた付加価値、ナニをやってもアートだといった感がまかりとおる風潮、「分かりやすさ」が持てはやされる表層的な感性、色彩やカタチがポップで明確つまりは「広告」的……などなど。こうした世界観を彼が40-50年前に打ち立てていたことに感嘆するとともに、今では他愛ない素人芸でも似たようなことが容易に達成できるようになったものだ、という思いも持ちました。
    翻って、これでもアートと呼ぶのならこの種のアートは現代人にとって困難な問題、生存や魂の問題とはなんら関わりのないものだよなーという思いも持ちました(これは音楽でもナンでも同様ですが)。かつてマニエリズムの堕落からバロック的な転回がなされたように、今日の商業主義的アートが再び我々の魂に訴えてくるような芸術らしい切実さ・迫力を獲得する日は来るのでしょうか?(笑)
    そーだ、全然関係ありませんが……最近アホらしい本を書いたのですが、来月には販売期間が終わってしまうので宣伝させてください。題名は「ジョーゼッツ・ベッロリンチォの思想と行動」村崎勇馬著、今ならアマゾンでも売っています~♪

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    1. >ギロさん
      お久しぶりです!お元気そうで。
      早速観に行きましたよ、ウォーホル。ミーハーなもので。
      展覧会を観て、ウォーホルのいた時代のあの空気に少しでも触れることができたことは今思うと幸せだったんだなと思いますね。
      それはそうと、ついに作家デビューですか!しかも小説!?まわりにも宣伝させていただきます!

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  2. いつも楽しみにそして参考にしながら読んでます 
    ありがとう♪

    私も行って来ました。
    何か十代の頃を思い出したりあの頃のワクワク感が戻ってきました。
    シルバーファクトリーを再現をした部屋はとっても嬉しくて
    あのダンボール箱の中に捨てられず大切にしてあった手紙や化粧品の箱等…
    人間らしくて作品のイメージとは違い良かったかなぁ。
    あー何か久々にボーダーTを着たくなりました。

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    1. >ナオミさん
      はじめまして。コメントありがとうございます!
      シルバーファクトリーの再現の部屋、面白かったですね。ほんとシルバーで、こんなところでいろいろと制作してたの!?とちょっとビックリでした(笑)
      「タイムカプセル」もあんな状態のものがまだまだあるのかと思うと、それだけで展覧会やっても楽しいだろうなと思いますね。

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