2014/03/27

観音の里の祈りとくらし展

東京藝術大学大学美術館で開催の『観音の里の祈りとくらし展 -びわ湖・長浜のホトケたち-』の内覧会にお邪魔してきました。

『観音の里の祈りとくらし展』は、琵琶湖北岸の湖北地方の仏像とその地で育まれた仏教文化を紹介した展覧会。信仰の対象として村人の手で大切に守り継がれてきた18躯の観音像が展示されています。

おととし三井記念美術館で『近江路の神と仏 名宝展』という展覧会も開かれましたが、近江は古くから宗教を基盤とした文化が根付いた土地で、特に湖北の長浜は観音菩薩像が多く分布し、集落の数に匹敵するほどの観音像があるといいます。

会場に展示されている観音像にはそれぞれ解説とともに、仏様がどのような環境の中で安置されているのかが分かるパネル写真が並んでいます。都の洗練された仏像とは違い、素朴で地方色はあるけれど、村々でどれだけ長い間大切にされ、村人の暮らしとともにあったのか、観音様に対する人々の思いが伝わってきます。

個人的に気になった観音様をいくつかご紹介。

写真左 「十一面観音立像」 (長浜市指定文化財)
平安時代・12世紀 田中自治会蔵

長浜というと向源寺の国宝「十一面観音立像」が有名ですが、本展でも5躯の十一面観音像が展示されています。写真の「十一面観音立像」は自治会が所蔵しているというのが地元密着型の観音様なのだなと感じます。一部彩色されていて、おっとりとした優しい表情が印象的です。

「十一面観音立像」 (重要文化財)
平安時代・10世紀-11世紀前半 善隆寺蔵

本展では3躯の重文指定の仏像が出品されていますが、善隆寺の「十一面観音立像」はその一つ。桜の一木造で、切れ長の目をした凛々しいお顔の観音様です。衣文の模様は向源寺の「十一面観音立像」に似ています。

「聖観音立像」 (重要文化財)
平安時代・11世紀-12世紀 総持寺蔵

「千手観音立像」 (長浜市指定文化財)
平安時代・12世紀 総持寺蔵

総持寺の本堂の右脇壇に設置された厨子に安置されているのが「聖観音立像」で、左の厨子内安置されているのが「千手観音立像」とのこと。慈愛に満ちたふっくらとしたお顔の聖観音と丸顔の柔らかな面立ちの千手観音。姿かたちは都風なんですが、にこやかに微笑み佇むその風貌はどこか身近な感じがして、親しみを覚えます。

写真左 「十一面観音立像(腹帯観音)」
平安時代・12世紀 大浦十一面腹帯観音堂蔵
写真中央 「千手観音立像」 (重要文化財)
平安時代・9世紀 日吉神社(赤後寺)蔵

赤後寺の「千手観音立像」は本展の目玉展示のひとつ。地元では「転利(コロリ)観音」として親しまれ、三回お参りすれば極楽往生できると伝えられているとか。平安初期の作とされ、今は頭上面もなく、腕も失われていますが、どっしりとした体躯が在りし日の立派なお姿を思い起こさせます。大浦観音堂の「十一面観音立像」はお腹にサラシを巻いていることから「腹帯観音」と呼ばれ、子宝・安産祈願の本尊として地元で大切にされているといいます。

写真左 「如来形立像(いも観音)」
平安時代・10世紀 安念寺蔵
写真右 「菩薩形立像(いも観音)」
平安時代・9世紀末-10世紀初頭 安念寺蔵

会場の中でもひときわ印象深かったのがこの「いも観音」と呼ばれる2躯の仏像。身体は激しく損傷し、手足は欠け、見るも無惨な仏様ですが、織田信長の比叡山の焼き討ちで寺が焼失したとき、村人が仏像を田んぼの中に埋め難を逃れたとか、昭和初期までは子どもたちが仏様と川で水遊びをしたとか、村人の生活とともにあったんだなと観音像の長い歴史が垣間見え、感動的な気持ちにすらなります。

「十一面観音立像」 (長浜市指定文化財)
奈良~平安時代・8世紀末-9世紀初頭 菅山寺蔵

今回出品されている仏像の中で一番制作年が古いのがこの「十一面観音立像」。奈良末期から平安初期の作とされる木心乾漆の珍しい仏像で、数年前まで一般公開されていなかったそうです。奈良末期にここまでの仏像が当地で造られていたことに驚くと同時に、湖北地方の仏教文化の成熟ぶりをあらためて思い知らされます。

ほかにも細身で美人の集福寺の「聖観音立像」、竹生島の品のある「聖観音立像」、瞑想する姿が美しい阿弥陀寺の「聖観音座像」、インパクトのある「馬頭観音立像」などが展示されています。

写真右 「十一面観音坐像」 (長浜市指定文化財)
平安時代・12世紀前半 岡本神社蔵

会場の入口には“観音の里”の14分間のビデオが流されていて、湖北地方の観音像とともに観音信仰の背景にある人々の生活や文化、風土、歴史が紹介されています。



『観音の里の祈りとくらし展』の反対側の会場では、『藝大コレクション展 -春の名品選-』が開催されています。日本画、西洋画、彫刻・工芸の所蔵作品に加え、2つの特集展示があり、特集展示1では≪女性を描く / ヌードと出会う≫、特集展示2では≪近世の山水 / 近代の風景 -富士山図を中心に-≫をテーマに藝大所蔵の優品が展示されています。


日本画では尾形光琳の重要文化財「槇楓図屏風」、曾我蕭白の「群仙図屏風」、狩野山雪の「四季耕作図屏風」がずらっと並んでいて、これが壮観。奈良時代の貴重な絵画例である国宝「絵因果経」や重文の「小野雪見御幸絵巻」、また下村観山の「小倉山」の下図なども展示されています。


≪女性を描く / ヌードと出会う≫では、日本近代洋画の父と評される高橋由一の「美人(花魁)」(重要文化財)や黒田清輝の代表作「婦人像(厨房)」、安井曾太郎の「裸婦」をはじめ、黒田清輝の師・ラファエル・コランの「花月(フロレアル)」が会場の入口に展示されています。これがまた美しい。

≪近世の山水 / 近代の風景 -富士山図を中心に-≫では、池大雅の「富士十二景」、曽我紹仙の「山水図」、亜欧堂田善の「江戸街頭風景図」、橋本雅邦の「月夜山水」などを展示。個人的には和田英作の銀地の屏風に雪を頂いた富士を描いた「富士山」が印象的でした。

『観音の里の祈りとくらし展』をご覧になられた方は当日に限り藝大コレクション展も無料で鑑賞できます。これだけの名品が観られて500円はお得だと思います。お花見もいいけど、春の藝大美術館もオススメです。


※会場内の写真は主催者の許可を得て撮影したものです。


【観音の里の祈りとくらし展 -びわ湖・長浜のホトケたち-】
会期: 2014年3月21日(金・祝)〜 4月13日(日) (休館日:毎週月曜日)
会場: 東京藝術大学大学美術館 展示室2にて

【藝大コレクション展 -春の名品選-】
会期: 2014年3月21日(金・祝)〜 4月13日(日) (休館日:毎週月曜日)
会場: 東京藝術大学大学美術館 展示室1にて

開館時間: 午前10時 - 午後5時 (入館は午後4時30分まで)
ただし、4月11日(金)は午後8時まで開館(入館は午後7時30分まで)
休館日: 毎週月曜日




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