2014/01/13
百物語 第三十一夜
岩波ホールで白石加代子の『百物語 第三十一夜』(第96話・第97話)を観てきました。
『百物語』は毎回観てるわけではありませんし、しばらくぶりなのですが、今回は成瀬巳喜男が映画化もした林芙美子原作の『晩菊』と、山田五十鈴のあたり役として知られ、歌舞伎でも中村勘三郎が復活させ話題になった『狐狸狐狸ばなし』という、映画ファンの食指も動く2本立て。岩波ホールの公演は2日だけ。しかも席数も少ないので、いつも激戦。なんとかチケットを確保し、観に行って参りました。
まずは『晩菊』。ちょうど成瀬の映画の、元芸者の杉村春子と彼女のもとを訪れる昔の恋人・上原謙との場面にあたります。舞台では白石加代子が一人二役で演じます。
容色も衰えた元芸者の女のもとに昔恋仲だった年下の男から電話が入ります。懐かしい恋人に会えるということで、急いで肌を整えたり化粧をしたりと、まるで若い娘のように嬉々とする姿がかわいい。しかし、男にかつての輝きはなく、実はお金を借りに来たことを知り、一気に気持ちが醒めてしまいます。そうした女性の恋心の機微を繊細に表現し、知らず知らず白石ワールドに引き込まれていきます。
映画では彼女が金貸しで、折角会えた男もお金のことで訪ねて来たのかと落胆しますが、原作には金貸しの件はなく、舞台はあくまでも老境を迎えた女と、事業が失敗し年齢以上に老け込んだ男の心理描写をいかに演じ分けるかにかかってます。ただ、まだ練り上げ不足だったのか、白石さんも珍しく台詞を何度か噛んだり、少し淡々としたところもあり、ラストは原作通り(映画版とは異なる)なのですが、いまひとつパッとしませんでした。幕が下りて始めて芝居が終わったことを分かった人もいたようです。まぁ、まだ公演2日目だったので、このあたりはもっと良くなることでしょう。
20分の休憩を挟んで次は『狐狸狐狸ばなし』。もとは山田五十鈴、森繁久彌、三木のり平、十七世中村勘三郎という超豪華な役者が揃い、大ヒットした舞台。当時は歌舞伎でも山田五十鈴を主演に迎え、舞台化もされてるんですね。
こちらは一人五役の大奮闘。白石加代子の“らしさ”が出て痛快です。舞台中央の座卓を前に語るだけの『晩菊』と違って、舞台を縦横無尽に動き回る忙しさ。登場人物はもちろん声色で演じ分けるのですが、着物を左右に片袖ずつ通して、誰なのか目でも分かるような工夫もされていました。演じてる本人や裏方さんは大変そうでしたが、観てる私は存分に笑わせてもらいました。
岩波ホールでの百物語の公演はこの日が最後の舞台とのことで、カーテンコールで挨拶された白石さんもとても感慨深げでした。だって第一回公演から岩波ホールなんですもんね。朗読劇を観るには岩波の大きさ(小ささ)はちょうど良かったんですけど…。
次回はいよいよ最終夜。100話すると何かが起こるんで99話でおしまいにしますって。
晩菊・水仙・白鷺 (講談社文芸文庫)
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