2013/10/01

清雅なる情景 日本中世の水墨画

根津美術館で開催中の『清雅なる情景 日本中世の水墨画』展に行ってきました。

墨の濃度により無限の諧調を生み、ぼかし、かすれなど多彩な表情を持つ水墨画。根津美術館は水墨画のコレクションが充実していて、これまでもたびたび水墨画に関連した展覧会を企画していますが、本展では14世紀から16世紀までの水墨画約50点を展示。中国で生まれ、やがて日本に伝わった水墨画が中世文化の中でどのように発展し引き継がれていったか、いくつかのテーマを設け、その系譜を追っています。

水墨画は唐時代の中国で三次元空間のリアリスティックな描写を目指す技法として誕生。日本には鎌倉時代に禅宗の僧侶により中国からもたらされといわれています。 もともとは禅の思想を表すものだったようですが、やがて山水表現へと展開をしていきます。


≪水墨の観音図≫

まずは水墨画の観音図から。観音図は禅僧に好まれ、また画僧にとって重要な画題だったそうで、水墨画が日本に導入された際、ことのほか大きな位置を占めていたとありました。

赤脚子 「白衣観音図」(重要美術品)
室町時代・15世紀

明兆の弟子・赤脚子の「白衣観音図」は、岩上で頬杖をつき、くつろいでいるような、物思いにふけるような姿がなんとも愛らしい観音様の水墨画。白衣の滑らかな襞のラインや岩肌の描写が見事で、光背の丸い線が微妙にグラデーションになっていて、技術の高さを感じさせます。白衣観音は三十三観音の内の一つで、清流の岩上で静かに瞑想する姿は禅的境地を表したものとして禅宗では捉えられていたようです。

このほか、大海に浮かぶ蓮弁に乗る白衣観音を描いた禅味あふれる「一葉観音図」や中国伝来の禅僧画で国宝の「布袋蔣摩訶問答図」 などが展示されています。


≪詩画軸と周文≫

詩画軸とは山水画の画軸に禅僧が漢詩文を書いたもので、特に周文の様式は日本の水墨画に大きな影響を与えたと言われています。ここでは周文の作品や周文の弟子の作品などを紹介しています。

伝・周文 「江天遠意図」(重要文化財)
室町時代・15世紀

確実に周文の作といわれる作品は一点もないそうで、この「江天遠意図」も、たまたま同日に東京国立博物館で観た国宝の「竹斎読書図」もあくまでも“伝”周文なんですね。「江天遠意図」は「竹斎読書図」同様に、遠山を望む書斎での書斎生活の素晴らしさを詠ったいわゆる書斎図で、「江天遠意図」の方が書斎の趣はある気がします。見た目には、「江天遠意図」と「竹斎読書図」は岩山が単純に左右対称ではあるんですが(笑)。


≪関東水墨画≫

室町から戦国時代にかけ、鎌倉を中心に発展した関東水墨画は、線描や形態そのものの面白さを追求する傾向を持ち、洗練と形式を重んじる京都の水墨画と一線を画したといいます。

賢江祥啓 「山水図」(重要文化財)
室町時代・15世紀

会場には関東水墨画の祖・仲安真康や、関東水墨画を代表する祥啓、関東水墨画壇の異才・雪村などの作品を展示しています。祥啓は上洛した際に芸阿弥に師事し、その画風を学んだといわれ、岩山や樹木の描写にそれが現れているとありました。「山水図」は構図やバランス、奥行き、コントラストが見事で、全体的にカチッとした山水画。師・芸阿弥の現存唯一の作とされる「観瀑図」も展示されていました。流れ落ちる幾筋もの滝や滝壺の描写が特徴的で非常に印象的な作品でした。

芸阿弥 「観瀑図」(重要文化財)
文明12年(1480年)・室町時代

そのほか、ぼかしで巧みに表現した荒天の雲や、図用化された水の飛沫、風に大きくなびく竹などドラマティックな描写が素晴らしい雪村の「龍虎図屏風」も見どころの一つです。


≪拙宗等揚とその系譜≫

拙宗等揚は若い頃の雪舟であると言われていますが、雪舟画様式の成立以前の作品として、周文の山水画の伝統を継承したという「山水画」などが紹介されています。雪舟の系譜の作品としては、雪舟晩年の弟子として知られる如水宗淵の、伸びやかで無駄のない衣文が印象的な「芦葉達磨図」や、対照的に滑らかで装飾的な衣の描線が美しい甫雪等禅の「岩上観音図」も非常に良かったと思います。そのほか、雪舟の弟子で長谷川等伯が私淑したともいわれる等春の「杜子美図」などが展示されていました。


≪水墨の花と鳥≫

ここでは水墨画のもう一つの伝統である花鳥画を紹介しています。「牡丹猫図」は白い牡丹の花の下、猫が蝶をじーっと見つめているという、なんとも愛嬌のある作品。ほかに、飛び交うツバメを素早い筆致で描いた「柳燕図」も印象的でした。

蔵三 「牡丹猫図」
室町時代・16世紀


≪大徳寺派と曽我派・小栗派≫

京都の水墨画は京都五山を中心に展開したそうですが、五山の下におかれた大徳寺では権威に囚われない個性的な画僧が育ったといいます。バランスの良い構成と湿潤な雰囲気が目を引く曽我紹仙の「山水図」や、中央にそびえる遠山と三本の松が力強く印象的な小栗宗湛(伝)の「周茂叔愛蓮図」が個人的には好みでした。


≪初期狩野派≫

最後には初期狩野派の山水画や花鳥画などを紹介。岩山の精緻な描き込みが印象的な狩野正信(伝)の「観瀑図」や、精緻な描写と物語性豊かな構成力、岩山や川辺の豊かな表現力が素晴らしい狩野元信(伝)の「養蚕機織図屏風」などが素晴らしかったです。

水墨画が日本でどのように発展していったのか体系的に作品を紹介していて、非常に参考になる展覧会でした。


【清雅なる情景 日本中世の水墨画】
2013年10月20日(日)まで
根津美術館にて

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