2013/09/09

狩野派 SAIKO!

板橋区立美術館で開催中の『狩野派 SAIKO!』に行ってきました。

本展は板橋区立美術館のいつもの企画展<江戸文化シリーズ>ではなく館蔵品展ということで、なんと入館料が無料! 出品数は30点弱と少ないのですが、狩野派の充実したコレクションで知られる板橋区立美術館の選りすぐりの作品が観られるとあっては行かずにはいられません。

館蔵品展とはいっても、ちゃんとテーマもあって、構成やキャプションも凝ってて、企画展みたいに手がかかってます。これで無料とは申し訳ないぐらいです。

会場は“SAIKO!”をテーマに狩野派の作品を再点検・再評価しています。それぞれの作品には板橋美術館らしいユニークな“新タイトル”が付けられているのも楽しいところです。

まずは≪再考 正信の出身地≫から。
狩野派の祖・狩野正信の出身は伊豆と伝えられていたそうですが、現在は伊豆狩野氏の同族にあたる上総や、上総狩野氏と婚姻関係にある下野(長尾氏)も取り沙汰されていると解説にありました。いずれにしても狩野家はもともと関東だったんですね。

正信の「蓮池蟹図」は枯れかけた蓮の葉の陰からひょっこり蟹が顔を覗かせているという構図で後の若冲を思わせるユニークな作品でした。

狩野正信 「蓮池蟹図」

≪最高 国宝・観楓図屏風の作者≫
正信の孫が国宝「観楓図屏風」の作者の秀頼。会場には本展のチラシにも使われている「酔李白図」が展示されています。詩人・李白の酩酊した図は応挙や蕭白も描いている画題ですが、秀頼の「酔李白図」は酔いつぶれた李白を抱きかかえる様子に茶目っ気があり、さぞ楽しい宴席だったんだろうなと想像させます。ちなみに秀頼の「観楓図屏風」は東京国立博物館にて今年の11/12~12/8に公開予定があるようです。

狩野秀頼 「酔李白図」

≪再考 狩野派図とは≫
狩野派が室町から江戸に至るまで綿々と受け継がれていった背景には粉本主義があるわけですが、そうした狩野派の典型的(?)な山水や花鳥などが見られる作品ということで狩野内膳の「山水人物花鳥貼交屏風」が展示されていました。内膳というと永徳や山楽と同時代の狩野派の絵師で、桃山文化らしい絢爛な「南蛮屛風」で有名ですが、この「山水人物花鳥貼交屏風」は淡墨による落ち着いた雰囲気の屏風。馬や鴨の目がクリッとして可愛らしいのが印象的でした。

伝・狩野探幽 「風神雷神図屏風」

「風神雷神図」というと宗達や光琳など琳派を思い起こしますが、伝・探幽の「風神雷神図屏風」は宗達や光琳のそれとは風神・雷神が左右逆になっていて、屏風の真ん中に突然の嵐に逃げ惑う人々の姿を描き天上と下界を対比させるなどの特徴があります。

英一蝶 「六歌仙図屏風」

英一蝶の「六歌仙図屏風」は“一蝶”の署名があったので島流しから戻ってからのものでしょうか。定家や慈円、西行といった六歌仙を描いた大和絵風の屏風ですが、淡彩の色合いといい、ゆったりとした空間の使い方といい、洒脱な筆致といい、一蝶の円熟した味わいが楽しめます。

そのほか、室町期の狩野派作品風という狩野宗信の「花鳥図押絵貼屏風」、狩野派の高級絵手本と紹介されていた狩野周信の「花鳥・養蚕図巻」が展示されています。

狩野即養 「寛永寺参詣図屏風」

≪再考 女性画家≫
板橋区立美術館の前館長・安村敏信氏の著書『江戸絵画の非常識』(敬文舎刊)にも江戸時代の閨秀画家(女流画家)のことが取り上げられていますが、本展でも狩野派の女流画家にスポットを当てています。印象的だったのが狩野即養の「寛永寺参詣図屏風」。花見で賑わう上野の山や不忍池、門前町や池之端、そして遠景が描かれていて、女性らしい丹念な筆致とゴチャゴチャせずすっきりまとめた描写が秀逸です。

≪再考 やまと絵学習>
探幽は大和絵を取り入れて新様式を創り上げ、江戸狩野派の基礎を築くわけですが、ここではその狩野派による大和絵学習を再考しています。ここで紹介されていた狩野探信(守道)は狩野派の中でも大和絵風の作品を得意とした絵師とのこと。叭々鳥の家族(?)を描いた「叭々鳥図」が印象的でした。

狩野了承 「秋草図屏風」

≪再考 表絵師≫
当時の狩野派は巨大なピラピッド組織に成長していて、将軍の謁見も許される奥絵師や、奥絵師の補佐をし、それこそ扇や着物のデザインまで請け負ったという表絵師、さらには繁忙期に借り出される門人筋の町狩野まで幅広かったようです。

狩野了承の「秋草図屏風」は一見、琳派と見まごうようなモダンな雰囲気があって、リズミカルに円弧を描く薄や、萩、女郎花といった涼やかな色合いの秋草が金屏風に映え、とても印象的です。たまたま同日、千葉市美術館で拝見した狩野常信の「歌賛名所絵図巻」にも同様の薄の描写があり、了承がただ琳派を模倣したというのではなく、狩野派の粉本の応用の範囲なのだろうと感じました。

沖一峨 「花鳥図」

≪再考 全国の狩野派≫
狩野派が血族を重んじたのは有名ですが、その門弟は絵が上手ければ誰でもなれるというわけではなく、諸藩の御用絵師など武士階級の子弟たちだったのですね。恥ずかしながら知りませんでした。そうして狩野派で修業をした門人が全国に散らばり、さらに狩野派を盤石にしていったわけで、ここではその代表格として沖一峨が紹介されています。沖一峨は狩野派だけでなく琳派や南蘋派なども学んだそうで、展示されていた「花鳥図」の花木の描写やデザイン的な構図にもそれは活かされているようです。

河鍋暁斎 「鍾馗二鬼図」

最後には狩野派に学んだ河鍋暁斎の作品が三点展示されています。一連の狩野派の作品とは趣を異にしますが、激しい形相の鍾馗と逃げ惑う小鬼たちの二幅からなる圧倒的な「鍾馗二鬼図」、太く力強い墨線としかし入念に描かれた表情が印象的な水墨画「太公望図」、即興なのか、まるでスケッチかイタズラ書きのようで署名までよれよれの「骸骨図」、と三様のいかにも暁斎らしい作品が見ものです。

河鍋暁斎 「骸骨図」

ちょっと不便な場所にありますが、狩野派好きにはお勧めの展覧会です。近くの赤塚植物園などとセットでお散歩がてらいかがでしょうか。











少し足を延ばせばコメダ珈琲もあります♪



【狩野派 SAIKO!】
2013年9月29日(日)まで
板橋区立美術館にて


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