2015/04/01

若冲と蕪村

サントリー美術館で開催中の『若冲と蕪村』を観てきました。

伊藤若冲と与謝蕪村はなんと同い年。しかもご近所さん同士だったといいます。なのに交流した形跡が残ってないというから不思議です。

本展は、来年生誕300年を迎えるそんな若冲と蕪村の作品を通して、江戸絵画を代表する二人の作風や共通点、また周囲の交流を見ていこうという展覧会。

出品数は全部で223点で、一部二人以外の関連作品もありますが、若冲が約90点、蕪村が約100点。展示替えもあって一度に見られるのは約85点前後で、だいたい半分ずつぐらいの割合で若冲と蕪村の作品が並びます。全作品をコンプリートするには3回通う必要があるようです。

土日の混雑を避け、平日の開館前に並んで観たのですが、朝から結構な人の入り。若冲人気の高さを感じます。(来年の『若冲展』はどんなことになるんでしょうか…)


第1章 18世紀の京都ルネッサンス

まずは導入部として、京都に住む学者や書家、画家などを記した「平安人物誌」や、当時人気の絵師が絵を寄せた贅沢な寄合膳などが並びます。同じ時代の京都には、若冲と蕪村以外に円山応挙や池大雅もいたわけで、奇跡ともいえる江戸絵画の密度の濃さにただただビックリ。


第2章 出発と修行の時代

若冲はずっと京都の人ですが、蕪村は摂津に生まれ、20歳の頃から江戸、そして北関東や東北を回り、36歳のとき京に上るも、その後また丹後に行ってしまいます。若冲はもとは八百屋、蕪村は俳人。二人ともいつ頃から絵を描いていたのか分からないといいます。

初期の作品とはいえ、若冲も蕪村も既にその技量は高く、八百屋や俳人の余芸の域をはるかに超えているのに驚きます。若冲のお得意の鶏でさえ、すでに完璧で、素人目には初期のものと晩年のものと見分けは尽きません。

伊藤若冲 「糸瓜群虫図」
江戸時代・18世紀 細見美術館蔵 (展示は4/13まで)

若冲の展覧会でよく見る「糸瓜群虫図」も初期の作品なんですね。もう若冲の特徴が余すところなく発揮されています。蕪村は「天橋立図」のセンスの良さといったらなんでしょう。


第3章 画風の確立

40歳を過ぎ、脂がのった時期の作品を展観。若冲は「動植綵絵」の制作に取り掛かり、蕪村はようやく京に腰を落ち着けた頃にあたります。

伊藤若冲 「月夜白梅図」
江戸時代・18世紀 (展示は4/13まで)

若冲は「動植綵絵」を彷彿とさせるような極彩色かつ精緻な花鳥画やユーモア溢れる水墨画がずらーっと並んでいて、もう楽し過ぎます。

蕪村は水墨の山水図なんかも中国の山水画の影響を受けているという独特の筆触が分かって興味深かったのですが、掛軸の連作「山水花鳥人物図」や6曲1双の「飲中八仙図屏風」の素晴らしさには目を見張ります。文人画の面白さはもちろん、特に人物表現の巧さに惹かれます。

伊藤若冲 「寒山拾得図」
江戸時代・18世紀 (展示は4/13まで)


第4章 新たな挑戦

若冲が次から次へと斬新な表現や新たな技法を生みだしたのは有名なところ。ここではそんな例を紹介しています。一つは“筋目描き”で、吸水性の強い紙に淡墨を重ねて塗ることで墨の面と面の間に輪郭線のような白い筋が残るという若冲独特の水墨技法。若冲はこの筋目描きを、花びらや魚の鱗などの描写にうまく活用しています。

伊藤若冲 「菊図」
江戸時代・18世紀 (展示は4/13まで)

もうひとつは“拓版画”。先日テレビ東京のテレビ番組『美の巨人たち』でも取り上げられていた「乗興舟」が展示されています。スペースの関係で観られる部分は一部だけですが、現代の拓版画家の技術をもってしても再現できないという「乗興舟」を間近で拝見できるチャンス。「乗興舟」は複数存在しているそうですが、今回展示されているのはその中でも最も早い頃の版のものではないかと考えられているそうです。

与謝蕪村 「奥の細道」(重要文化財)
安永7年(1778) 京都国立博物館蔵(※写真は部分)

蕪村は独自の世界を切り拓いた俳画。自分の句に画を添えた“自画賛”と呼ばれる作品や、松尾芭蕉の「奥の細道」の全文を筆写し、俳画風の挿画を添えた画巻などがあって、いずれも軽妙洒脱な筆致とゆるさが面白い。


第5章 中国・朝鮮絵画からの影響

若冲も蕪村も中国絵画の影響を受けているのは有名ですが、ここでは当時多くの絵師に影響を与えた沈南蘋の作品や、若冲が学んだという宋元画、またその影響下にある若冲と蕪村の作品などに焦点を当てています。

沈南蘋の作品のほかにも、若冲が大きな影響を受けたという沈南蘋の孫弟子にあたる鶴亭の作品が観られたのも嬉しいところ。沈南蘋が江戸絵画に与えた影響を見る点でも興味深く、願わくばいつか沈南蘋とその影響を受けた絵師の作品を集めた展覧会をどこかで是非やって欲しいなと思います。

伊藤若冲 「象と鯨図屏風」
寛政9年(1797) MIHO MUSEUM蔵

与謝蕪村 「山水図屏風」
天明2年(1782) MIHO MUSEUM蔵

4階から3階へ降りた吹き抜けのホールには、近年発見され話題になった若冲の「象と鯨図屏風」や蕪村の「山水図屏風」が展示されています。特に蕪村の「山水図屏風」は銀地の大型の屏風で、図録の写真だと分かりづらいのですが、非常に状態が良く、銀箔も変色せず、また墨絵の上の淡彩もきれいで驚きます。


第8章 隣り合う若冲と蕪村

別の章でも、若冲の描いた画に蕪村とも交流の深い俳人が賛を寄せているという作品があって、若冲と蕪村の接点の近さを物語るものは多いのに、蕪村が残した日記には若冲の名前すら出てこないといいます。

会場には二人の住んでいた四条烏丸近辺の地図があったのですが、若冲宅と蕪村宅は歩いてほんの数分の距離。近所付き合いがなかったとなると、余程ライバル心があったり仲が悪かったのかと疑心を抱いてしまいます。

伊藤若冲 「猿猴摘桃図」
江戸時代・18世紀 (展示は4/13まで)

強く印象に残ったのが若冲の「猿猴摘桃図」。桃の木や葉、実が南蘋風に描かれているのですが、桃の実の大胆なグラデーションや、葉の縦の葉脈の左右で色を違えたり、枝の上下で墨のトーンを変えたりと、観れば観るほど若冲の斬新さに唸ります。


第7章 翁の時代

最後は晩年の作品群。蕪村は68歳、若冲は85歳で生涯を閉じますが、ともに最晩年まで旺盛な制作活動を続けます。特に若冲は、江戸時代の平均寿命が40代後半ということを考えると、80過ぎても卓越した作品を残しているのですから驚異的です。

与謝蕪村 「蜀桟道図」
江戸時代・18世紀 LING SHENG PTE. LTD蔵 (展示は4/13まで)

まずは蕪村の充実ぶりが素晴らしい。「蜀桟道図」の山のうねるような筆のラインはなんでしょう。「鳶・烏図」は見入りますね。吹き荒れる風雨に耐える一羽の鳶と、しんしんと降る雪の中に体を寄せ合う二羽の烏。動と静、黒と白のコントラスト。雪を塗り残しで表現するテクニックも実に巧い。画境の極みと解説にありましたが、まさしくその通りだと思います。

与謝蕪村 「鳶・鴉図」(重要文化財)
江戸時代・18世紀 北村美術館蔵 (展示は4/13まで)

一方の若冲は、かつてほどの精緻さと過剰さは薄れるとはいっても、そこは若冲、十分にまだ濃密です。表現にも磨きがかかり、イマジネーションは広がり、老いてなお、いや老いを全く感じさせないのだからすごい。最晩年の水墨画の傑作「果蔬涅槃図」なんて若冲でしか描けない世界ですよね。この自由でポップで豊かな表現力!

伊藤若冲 「果蔬涅槃図」
江戸時代・18世紀 京都国立博物館蔵 (展示は4/8まで)

若冲で初めて観た作品の中では、会場の最後に展示されてた六歌仙の面々がなぜか味噌田楽を作っているユニークな「六歌仙図」がツボでした。大友黒主が味噌田楽を炙ってる姿なんてサイコーです。

伊藤若冲 「六歌仙図」(※写真は部分)
寛政5年(1793) 愛知県立美術館蔵 (展示は4/13まで)

若冲は事あるごとに展覧会で作品を観ているので、何度か観ている作品もあるのですが、蕪村はまとめて観る機会が意外とないのでかなり有り難かったです。若冲の作品だけをただ並べて見せるのとは違い、同時代の蕪村との比較の中で、二人の特性が浮き彫りになって、非常に興味深い展覧会でした。

聞くところによると、もう会場には展覧会のチラシが終わってしまって、また図録は売れ行きも大変好調で、会期途中で完売してしまうんじゃないかとのこと。図録の購入を考えている方は早めに行った方がよさそうですね。


【若冲と蕪村】
2015年5月10日(日)まで
サントリー美術館にて


若冲百図: 生誕三百年記念 (別冊太陽 日本のこころ 227)若冲百図: 生誕三百年記念 (別冊太陽 日本のこころ 227)


Pen(ペン) 2015年 4/1 号 [若冲を見よ]Pen(ペン) 2015年 4/1 号 [若冲を見よ]


与謝蕪村 (別冊太陽 日本のこころ)与謝蕪村 (別冊太陽 日本のこころ)

2015/03/22

動物絵画の250年

府中市美術館で開催中の『動物絵画の250年』展(前期)に行ってきました。

恒例の“春の江戸絵画まつり”。初めて府中市美術館に観に行った展覧会が2007年の『動物絵画の100年』だったのですが、今回は好評だったその展覧会をさらにバージョンアップしての企画展。前回は江戸後期の100年にスポットを当てていましたが、今回は江戸時代の250年を通して動物絵画を展観していきます。

作品数は前後期合わせ166点。前期と後期で作品は総入れ替えされます。府中市美術館の所蔵作品をはじめ全国の美術館から作品を借り受けていますが、2/3の作品が個人蔵なので、この機会を逃すと観られないだろう作品も多くあるんだと思います。


序 動物という存在

府中市美術館の春の江戸絵画まつりで好きなのは、あまり名の知られていない江戸の絵師の、優れた作品を探してきて見せてくれるところ。最初に登場する橘保国なんて全然知りませんが、やはり最初に持ってくるだけあり、鯉のとろそうな感じが出てて面白い。

森徹山 「檜に栗鼠図」
江戸時代後期(19世紀前半) 熊本県立美術館蔵(前期展示)

本展には“猿画の名手”森祖仙の作品がいくつかあるのですが、「手長猿図」はいつものリアルな猿とも違い、中国画のような筆致と、それでいて祖仙らしい豊かな猿の表情が秀逸。

森徹山は森祖仙の養子で後に応挙の弟子になった人。リスの毛のふわふわ感なんて祖仙譲りだなと感じます。 図録で観ただけですが、後期展示の徹山の「群鳥図」もまた別の意味で凄いですね。絵画とはいえ自然の迫力に息を呑みます。

森徹山 「群鳥図」
江戸時代後期(19世紀前半) 熊本県立美術館蔵(後期展示)

迫力といえば、国芳の大きな鯨もさすがのインパクト。いまの品川沖に実際に迷い込んだ鯨で、誇張はあるでしょうが、鯨の迫力と人々の驚きが伝わってきます。

国芳 「大漁鯨のにぎわい」
嘉永4年(1851) (前期展示)


第Ⅰ章 想像を具現する

ここでは、<縁起物の素晴らしい世界>、<見たことのない動物>、<空想>の3つのパートに分けて紹介。江戸時代の頃までは虎にしても象にしても、実際に見たことのある人は少なく、中国絵画や古画をお手本に想像で描いたものがほとんど。今観れば笑えるものもありますが、逆に知らないからこそ描ける動きや表情、想像を働かすことで生まれる表現が江戸の動物画の魅力だったりします。

英一蝶 「四睡図」
江戸時代中期(18世紀前半) (前期展示)

「四睡図」というと豊干と寒山、拾得、そして虎が眠るところを描く中国絵画の伝統的な画題ですが、一蝶のそれはちょうど目覚めたところのようで、大あくびする面々と猫のようにお尻を上げた虎が可笑しい。そばに展示されていた伊年の「四睡図」も、なんだかほのぼのとしてかわいい。

虎図では円山応挙、長沢蘆雪もあったのですが、諸葛藍や片山楊谷、百川子興の並んでいた3点がどれも虎の毛の一本一本まで超極細の線で描いていて見事。構図や色合いも中国絵画の影響を感じさせます。諸葛藍は時々見る絵師ですが、ほかの2人は全然知りませんでした。こういう発見があるから面白い。

原在明 「水呑虎図」
江戸時代後期(19世紀前半) (前期展示)

“水呑虎”もよくある画題ですが、原在中の子・在明の「水呑虎図」は岩の上から水面を覗きこみ、水を飲もうにも少し距離感があります。水を飲むというより、自分の姿を映し何か思慮しているようにも見えます。

ほかにも曽我二直庵の二幅の見事な鷹図や黒田綾山のダイナミックな「琴高仙人図」などが印象的。鹿の輪郭線を破線で描いた狩野洞雲の「唐松白鹿図」や人面犬にしか見えない不気味な司馬江漢の「ライオン図」、また猿蟹合戦や孫悟空、狐火を描いた作品、国芳の戯画などもあって目を楽しませてくれます。

司馬江漢 「ライオン図」
江戸時代中期(18世紀後半)
摘水軒記念文化振興財団蔵(府中市美術館寄託)  (前期展示)


第Ⅱ章 動物の姿や動きと、「絵」の面白さ

日本画に描かれる動物絵は造形の面白さにあると思ってるのですが、ここではそんな動物絵画の造形の魅力を、<迫真描写の斬新さと、その思わぬ展開>、<姿や動きから生まれる「形」>のテーマで紐解きます。

土方稲嶺 「糸瓜に猫図」
江戸時代中期(18世紀後半) 鳥取県立美術館蔵 (前期展示)

岸駒の「枇杷に蜻蛉図」や沖一峨・九皐親子の「水辺鷺図」、土方稲嶺の「糸瓜に猫図」といった中国絵画や南蘋派の影響を感じさせる作品もあれば、動物絵ではおなじみの伊藤若冲の鶏や、逆にいつもの画風とは全然違う森祖仙の鹿や葛飾北斎の兎など、次から次へと様々なタイプの作品が出てきて、観ていて飽きません。

安田雷洲 「鷹図」
安政3年(1856)  摘水軒記念文化振興財団蔵(府中市美術館寄託)
(前期展示)

印象的だったのが安田雷洲の「鷹図」で、キュビズムかと思うような個性的な波模様と異様な存在感の鷹が強烈なインパクトを与えます。衣笠守昌の「牛馬図屏風」も、はっきりとした強い線で動的に馬を描いた右隻と輪郭線も曖昧でまったりとした牛の左隻という対照的な描き方で面白い。鍬形蕙斎の「鳥獣略画図」もあって、ゆるさに和みます。

鍬形蕙斎 「鳥獣略画図」(一部)
近代 ※初版は寛政9年(1797) (前期展示)


第Ⅲ章 心と動物

最後は、<動物が醸し出す抒情とおかしみ>、<人と動物の境界線>、<人と同じ命>、<子犬に惜しみなく愛を注ぐ>とに分け、動物絵の中に「人の心と動物の関係」を見ていきます。

しみじみとした絵やほのぼのとした絵など、なんとなく心にすーっと入ってくる作品が多くあります。ここは森祖仙や長沢蘆雪、中村竹洞、若冲や蕪村、応挙、仙厓といった江戸絵画を代表する絵師の作品も多い。

岸勝 「猿の座禅図」
江戸時代後期-明治時代(19世紀)
摘水軒記念文化振興財団蔵 (前期展示)

ここで印象的だったのは岸勝の「猿の座禅図」。猿を擬人化したかわいらしさの反面、何か哲学的な意味が込められているような趣があります。まんまるとした姿形も秀逸。上田公長の「芭蕉涅槃図」は芭蕉の俳句に登場した所縁の生き物たちが横たわる芭蕉のまわりに集い悲しむという、 おかしみと優しさに溢れた作品。応挙と名乗る前の作品という「芭蕉と虫図」は墨のみで描かれたシンプルで洒脱な作品ですが、蜘蛛の巣から逃れた虫を描くことで、命の大切さと慈しみが伝わってきます。

円山応挙 「麦穂子犬図」
明和7年(1770) (前期展示)

さすが250年分の楽しさ、江戸時代のバラエティに富んだ動物絵画の魅力を存分に堪能できます。ここの“江戸絵画シリーズ”はマイナーな絵師にもスポットを当ててくれるし、個人蔵などなかなかお目にかかれない作品も多く、日本画ファンは必見だと思います。後期は作品が全て入れ替わりますが、半券を持っていけば半額というサービスもあるのでチケットは捨てないように。


【春の江戸絵画まつり 動物絵画の250年】
前期: 2015年3月7日(日)~4月5日(日)
後期: 2015年4月7日(火)~5月6日(水)
府中市美術館にて


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かわいい江戸絵画かわいい江戸絵画


鳥獣略画式鳥獣略画式

2015/03/20

花と鳥の万華鏡

山種美術館で開催中の『花と鳥の万華鏡』に行ってきました。

本展は山種美術館の所蔵作品の中から花と鳥をテーマに、江戸末期以降の日本画、特に明治以降の作品を集めた展覧会。色とりどりの美しい季節の花々や可憐な鳥たちなど、写実的な作風から、装飾性豊かな作風にいたるまで、バラエティに富んだ花鳥画を展観できます。

会場は
第1章 花と鳥の競演
第2章 花の世界
第3章 鳥の世界
で構成されています。


まず目に飛び込んでくるのが、御舟の最晩年の傑作「牡丹花(墨牡丹)」。妖艶であり、気高くもあり、なにか深遠な美しさがあります。墨の濃淡と滲みだけで花弁を描いていて、いつ観てもその高度な技巧に惚れ惚れとしますが、パネルの解説によると、花弁に礬水(どうさ)と呼ばれる滲み止めの技法を用いずに描いたか、もしくは滲ませたい部分に熱湯で礬水を抜くというテクニックを使っているのではないかということでした。

速水御舟 「牡丹花(墨牡丹)」
1934年(昭和9年)

つづく岡本秋暉、狩野芳崖、橋本雅邦もなかなかいいのですが、個人的には今尾景年の作品に深い感銘を受けました。墨による松と青紅葉の「松楓啄木鳥図」、同じく墨の松と鮮やかな紅葉の「有紅葉小禽図」。墨と色絵の対比、構図の妙が素晴らしい。後半に展示されていた「朧月杜鵑図」も傑作ですね。いいものを観ました。

松林桂月 「春雪」
19-20 世紀(明治-昭和時代)

大好きな桂月も。笹の葉に積もった雪の表現が絶品。ただの白ではなく、溶けかかった雪の、水分を含んだような重みのある白。ただただ素晴らしい。南天の赤と小鳥がまた風情を演出しています。

菱田春草 「白牡丹」
1901年(明治34年)頃

御舟の「墨牡丹」が大人の色気なら、春草の「白牡丹」には清楚な若さがあります。27歳の頃の作品だそうで、春草の清新さがその筆から伝わってくるようです。牡丹を描いた作品では渡辺省亭の「牡丹に蝶図」も素敵でした。圧巻なのが川端龍子の「牡丹」。花びらの白と朱のコントラストが激しく、まるでハイキー効かせた写真のよう。なんとも艶やか。

鈴木其一 「四季花鳥図」
19世紀(江戸時代)

其一の「四季花鳥図」にも目を奪われます。右隻に春夏の草花、左隻に秋冬の草花。それぞれに鶏と鴛鴦が描かれています。金屏風に映える生命力に溢れた草花と濃厚な色彩。向日葵や朝顔の表情がいかにも其一らしい。

荒木十畝 「四季花鳥」
1885年(明治18年)

御舟の代表作「翠苔緑芝」と隣り合わせて展示されていたのが荒木十畝の「四季花鳥」。御舟の作品さえ霞んでしまうようなインパクト。右から「春(華陰鳥語)」「夏(玉樹芳艸)」「秋(林梢文錦)」「冬(山澗雪霽)」と四季の花木や鳥を描いた華麗な四幅対で、びっしり描き込んだ濃密な空間と中間色を多用した明るい色彩に目が眩みそうです。

速水御舟 「桃花」
1923年(大正12年)

<近代日本画への院体花鳥画の影響>として御舟の「桃花」などが紹介されていました。御舟は徽宗の名作「桃花図」の粉本を模写したりしていたそうで、この「桃花」も桃の花の色や枝の感じが徽宗の作品を思い起こさせます。落款も徽宗の書風を真似ているのだとか。

ほかに個人的に好きだった作品だけを挙げても、春草の「月四題(春)」や橋本関雪の「白梅に月」、横山大観の「叭呵鳥」、福田平八郎の「春」、小茂田青樹の「水仙」などなど、どれも優品揃い。別室にあった小山硬の四曲半双の「海鵜」にはしばし時間を忘れ見入ってしまいました。

菱田春草 「月四題のうち「春」」
1909-10年(明治42-43年)頃

何度か観てる作品もありますが、やはり良いものは良いですね。出品作が充実したいい展覧会でした


【花と鳥の万華鏡 -春草・御舟の花、栖鳳・松篁の鳥-】
2015年4月12日(日)まで
山種美術館にて


菱田春草 (別冊太陽 日本のこころ 222)菱田春草 (別冊太陽 日本のこころ 222)

2015/03/14

小杉放菴展

出光美術館で開催中の『小杉放菴展』に行ってきました。

去年、東京都美術館の『世紀の日本画』で観た小杉放菴(未醒)の作品に感動して、一度ちゃんと観ておきたいなと思っていました。昨年が没後50年だそうで、本展はその記念しての展覧会。ちょうどいいタイミングでした。

小杉放菴は洋画家から出発し、日本画的なテーマや手法を取り入れつつ、やがて日本画へ転向していきます。出光美術館の展覧会では「放菴」としていますので、そう書きますが、この人は時代時代に名前を三回変えています。最初が洋画家時代に名乗っていた「未醒」。その後、日本画に転向し、大正12年頃から用いるようになる「放庵」。そして晩年の「放菴」。本展はほぼ年代順に約90点の作品(一部入れ替えあり)を紹介しています。


展覧会の構成はこちら:
〈第1章〉 蛮民と呼ばれて-日光~田端時代
〈第2章〉 西洋画による洗礼- 文展入賞~パリ時代
〈第3章〉 洋画家としての頂点- 東京大学大講堂大壁画
〈第4章〉 大雅との出会い-深まりゆく東洋画憧憬の心
〈第5章〉 麻紙の誕生と絵画の革新-〈東洋回帰〉と見られて
〈第6章〉 神話や古典に遊ぶ
〈第7章〉 十牛図の変容
〈第8章〉 画冊愛好-佐三との出会い
〈第9章〉 安らぎの芸術-花鳥・動物画

放菴は日光の二荒山神社の神官の息子で、父の紹介で門を叩いた画家が高橋由一の門人の五百城文哉なのだそうです。日光東照宮を描いた20歳の頃の作品が出ていましたが、初期の作品群はバランスや色彩に細部までこだわりを見せ、由一も師事したフォンタネージに連なる実直で丁寧な油彩画という感じです。

一方で若い頃は生計を立てるため新聞に挿絵は漫画を描いていたそうで、放菴が描いた漫画なども展示されています。油彩画とは違う飄逸な線で面白いですが、明治時代の漫画の例としても貴重です。

小杉放菴 「水郷」
明治44年(1911) 東京国立近代美術館蔵

放菴の出世作というのがこの「水郷」。この作品と翌年の「豆の秋」(現存不明)で文展の最高賞を2年連続受賞しています。非常に丁寧に描きこまれているのが印象的ですが、この頃からフランスの象徴派の画家シャヴァンヌの影響を受けているようで、2010年の『オルセー美術館展』にも来日したシャヴァンヌの代表作「貧しい漁夫」との関係も指摘されています。

小杉放菴 「飲馬」
大正3年(1914) 小杉放菴記念日光美術館蔵

会場には『世紀の日本画』にも出ていた「飲馬」も展示されていました。仕事が終わったあとでしょうか、少年と馬の温かな関係、牧歌的な雰囲気が伝わってくるいい絵です。シャヴァンヌの壁画装飾の影響を感じさせつつ、なんとなく東洋画的な味わいもあります。よく見ると、岩の輪郭線が片ぼかしになっていて、これはセザンヌの絵に学んだ技法だそうですが、これがやがて横山大観も取り入れ、大観の代名詞的な表現になるのだから面白いですね。

スペインの小村を描いた作品が数枚あって、これがまた雰囲気あっていいです。この頃の油彩画はシャヴァンヌ以外にもセザンヌやマティスを思わせるところもあり、ヨーロッパ遊学で本場の西洋画に触れたことでリアリズムからの脱却に果敢に挑戦していたことが見て取れます。

小杉放菴 「湧水」
大正14年(1925) 出光美術館蔵

放菴は東大の安田講堂の壁画を描いていて、その習作も展示されてます。フランスのソルボンヌ大学にあるシャヴァンヌの壁画を念頭に制作したそうで、放菴の装飾壁画の集大成と言われています。安田講堂内部は現在非公開のためパネルで紹介されていましたが、一度実物も観てみたいものです。

小杉放菴 「瀟湘夜雨」
昭和時代 出光美術館蔵

放菴が日本画に転向するきっかけになったのが滞欧時にパリで観た池大雅の絵。西洋画の勉強に行った先で日本画に感銘を受けるなんて運命だったんでしょうね。ここでは池大雅や浦上玉堂らの作品とともに、南画に感化された水墨の作品が並んでいます。後年の放菴の作品に見られる軽妙さや純朴な味わいというのは大雅の洒脱さから来てるところもあるのでしょう。放菴は晩年は妙高高原の別荘に移り住み、文人画家のごとく創作活動に励んでいたようです。

小杉放菴 「帰院」
大正15年(1926) 出光美術館蔵

ヨーロッパから帰国して以降は日本画の画材で西洋画、また東洋的な表現を試みたり、逆に西洋画の主題を屏風や絵巻など日本画の画材に描いたりと、いろいろ模索していたようですが、徐々にそのベースが西洋画から日本画へシフトしていったことが作品からも分かります。

大正時代の作品は菱田春草や今村紫紅を思わせる作品も多く、放菴も参加していた日本美術院とのつながりも感じます。特に「秋色山水長巻」は紫紅の代表作「熱国之巻」を彷彿とさせます。

小杉放菴 「さんたくろす」
昭和6年(1931) 出光美術館蔵

サンタクロースが描かれてる水墨画というのも初めて見ました。こういうユーモアもこの人の魅力かもしれません。サンタクロースというより杖を持った仙人風なのが面白い。

小杉放菴 「天のうづめの命」
昭和26年(1951) 出光美術館蔵

小杉放菴展のメインヴィジュアルにもなってる「天のうづめの命」のモデルは笠置シヅ子なんだそうです。天照大御神を天の岩戸から誘い出そうと踊るリズムがブギだったとは!

小杉放菴 「太宰帥大伴旅人卿讃酒像」
昭和22年(1947) 出光美術館蔵

かつて用いていた未醒という詩的な名前からはイメージできませんが、放菴は酒好きの豪傑だったとか。自画像も展示されてましたが、何も知らないとどこぞの組の親分かと思いそう。でもそのイカツイ風貌にもかかわらず、その絵はどれも繊細でとても雰囲気があります。酒好きだったとされる大伴旅人を描いた作品を眺めてると晩年の好々爺然とした放菴に重なってくる気がします。

小杉放菴 「田父酔帰」
昭和3年(1928) 出光美術館蔵

金太郎や牧童と牛の組み合わせという作品が複数あって、これもまた放菴の遊び心が溢れていて秀逸。童話的世界というんでしょうか、物語世界も放菴の魅力の一つですね。どの絵からも温もりが伝わってきます。

小杉放菴 「金時遊行」
昭和時代 出光美術館蔵

今回個人的に一番衝撃を受けたというか唸ってしまったのが放菴の花鳥画を集めた最後の章。鶏もコノハズクもウサギも猫も写実的で精細なのに、なんとなく可愛らしさを感じます。構図の妙と色の美しさ。そして何といっても、麻紙の醸し出す独特の質感と滲みの面白さ。この滲み具合、独特の筆触はクセになります。「梅花小禽」のたらしこみもとっても新鮮に感じます。

小杉放菴 「梅花小禽」
昭和時代 出光美術館蔵

没後50年ということもあって放菴の代表作が揃っていて、明治から昭和に至る画風の変遷とそれぞれの時代の魅力をあますことなく伝える回顧展です。シャヴァンヌに影響を受けた頃の洋画もいいのですが、東洋回帰した以降の作品、特に南画に傾倒した作品や後年の日本画が物凄くいいのも初めて知りました。かなり満足度の高い展覧会でした。


【没後50年 小杉放菴 -〈東洋〉への愛】
2015年3月29日(日)まで
出光美術館にて