2019/08/09

モダン・ウーマン

国立西洋美術館の常設展内の特集企画として開催中の『モダン・ウーマン-フィンランド美術を彩った女性芸術家たち』を観てきました。

良く知らなかったのですが、19世紀にロシア帝国の配下にあったフィンランドは19世紀後半からの独立運動を経て、1917年に誕生したまだ建国100年ちょっとの比較的新しい国なんですね。新しい国家の形成に合わせるように女性の権利も向上し、フィンランドの美術学校では当時のヨーロッパ諸国の中ではいち早く、男女平等の美術教育が行われていたそうです。

今回の展覧会は、19世紀末から20世紀前半にかけてのフィンランドの女性芸術家たちを取り上げているのですが、フィンランドの女性芸術家といえば、知っているのは2015年に東京藝術大学大学美術館で展覧会が開催されたシャルフベックぐらい。本展では5人の画家と2人の彫刻家の作品を紹介していますが、同じ時代にこうした女性芸術家たちがフィンランドで活躍していたということも興味深いですし、20世紀初頭の西洋絵画の新しい潮流に呼応するように花開いた女性芸術家のみずみずしい感性がとても素晴らしいと感じました。


[写真右] マリア・ヴィーク 「ボートをこぐ女性、スケッチ」
1892年頃 フィンランド国立アテネウム美術館所蔵

最初に展示されていたのが、1880年代から国際的に活躍していたというマリア・ヴィーク。パリの美術学校で女性や外国人を受け入れていたことでも有名なアカデミー・ジュリアンで学んだ人とか。人物画などを観るとアカデミズムな傾向が強いのかなと感じますが、当時パリにいたシャルフベックとともにフランスの画家に人気のあったポン=タヴァンに行ったりもしていたそうで、「ボートをこぐ女性、スケッチ」のように自然主義的な外光表現の影響を受けていることも分かります。

マリア・ヴィーク 「教会にて」
1884年 フィンランド国立アテネウム美術館所蔵

風俗画や子どもの絵を多く描いたそうで、明るい色彩がとても印象的。正統派の写実的なタッチで、肖像画家として人気を博したのだそうです。

[写真右] ヘレン・シャルフベック 「ロヴィーサからきた少女」
1941-42年 フィンランド国立アテネウム美術館所蔵
[写真左] ヘレン・シャルフベック 「占い師(黄色いドレスの女性)」
1926年 フィンランド国立アテネウム美術館所蔵

そしてシャルフベック。2015年の『ヘレン・シャルフベック展』の鮮烈な印象がまだ記憶に新しいところ。本展は素描作品も含めシャルフベックは20点ほど出品されているのですが、前回の『ヘレン・シャルフベック展』のときと同様にほとんどの作品がフィンランド国立アテネウム美術館のコレクションなので、「少女の頭部」のように『ヘレン・シャルフベック展』に出品されていた作品も一部含まれています。

ヘレン・シャルフベック 「少女の頭部」
1886年 フィンランド国立アテネウム美術館所蔵

ヘレン・シャルフベック 「青りんごとシャンパン・グラス」
1934年 フィンランド国立アテネウム美術館所蔵

『ヘレン・シャルフベック展』のときは初期から晩年まで回顧展として、彼女の人生も含め、大変興味深いものがありましたが、今回は人物画や静物画などピックアップしての展示なので、シャルフベックの全貌に触れられるというものではありませんが、彼女の個性や独特の魅力を感じることができます。

エレン・テスレフ 「自画像」
1916年 フィンランド国立アテネウム美術館所蔵

エレン・テスレフ 「装飾的風景」
1910年 フィンランド国立アテネウム美術館所蔵

今回とても印象に残ったのが、エレン・テスレフ。フィンランド美術に色彩の革命をもたらしたといいます。彼女もパリに留学していて、象徴主義に傾倒していたようですが、20世紀初頭にカンディンスキーの作品に触れたことが大きかったようです。パステルのような個性的な色合いが素敵です。彼女の木版画も良かった。

エルガ・セーセマン 「自画像」
1946年 フィンランド国立アテネウム美術館所蔵

[写真右] エルガ・セーセマン 「カフェにて」
1945年 フィンランド国立アテネウム美術館所蔵
[写真左] エルガ・セーセマン 「通り」
1945年 フィンランド国立アテネウム美術館所蔵

エルガ・セーセマンも個人的にはかなり好み。個性的な色遣いといい、独特の筆遣いといい、抽象化された表現といい、何か訴えかけてくるものがあるというか、孤独を漂わせながらも、何か強い意識を感じます。

ヘレン・シャルフベック 「快復期」
1938-39年 フィンランド国立アテネウム美術館所蔵

第2展示室は素描を中心に作品が展示されています。シャルフベックのまるでイラストのようなタッチの素描がまたとてもいい。『ヘレン・シャルフベック展』で展示されていた「回復期」の元にしたスケッチも展示されていました。

ヘレン・シャルフベック 「シルクの靴」
1938年 フィンランド国立アテネウム美術館所蔵


【日本・フィンランド外交関係樹立100周年記念
モダン・ウーマン―フィンランド美術を彩った女性芸術家たち】
2019年9月23日(月・祝)まで
国立西洋美術館にて


0 件のコメント:

コメントを投稿