本年もどうぞよろしくお願いいたします。
さて、今年も博物館・美術館巡りはトーハクから活動開始! 毎年恒例『博物館に初もうで』に新年早々開館の1時間前から並び、混み合う前にひととおり観てまいりました。朝早いし寒いかなと厚着で出かけたのですが、幸いに風もなく穏やかな晴天で、日差しも心なしか暖か。
今年のお正月は平成館で特別展をやってないので、去年ほど混まないかなと思ってましたが、開館前にはかなりの行列になっていたようですし、お昼過ぎにトーハクをあとにしたときにも当日券を買い求める人の列がかなり長く伸びてました。『博物館に初もうで』も恒例行事となり、年々混雑するようになっている気がします。
今年は戌年ということで、本館2階の特別1室・2室では≪博物館に初もうで 犬と迎える新年≫と題し、戌(犬)をテーマとした作品が展示されています。当然ですが、犬だらけ。たまりませんな(笑)
円山応挙 「朝顔狗子図杉戸」
江戸時代・天明4年(1784) 東京国立博物館蔵 (展示は1/28まで)
江戸時代・天明4年(1784) 東京国立博物館蔵 (展示は1/28まで)
円山応挙 「狗子図」
江戸時代・18世紀 東京国立博物館蔵 (展示は1/28まで)
江戸時代・18世紀 東京国立博物館蔵 (展示は1/28まで)
犬といえば、長沢芦雪の犬がかわいいと人気ですが、芦雪の師匠・円山応挙の犬の絵が2点出ています(芦雪はありません)。解説に「犬は世界中で最も古くから人に飼われていたと考えられる動物」とあるように、最近サウジアラビアから8000年前と思われる壁画から世界最古の犬の絵が見つかったなんてニュースもありましたし、それこそ「鳥獣戯画」にも犬は出てきますが、応挙以前にここまで仔犬をコロコロモフモフに描いた画家がいたでしょうか。いまはキャラクター化されたかわいい犬の絵はいくらでもあるけど、当時としては革新的だったのではないでしょうか。
竹内栖鳳 「土筆に犬」
明治時代・19世紀 東京国立博物館蔵 (展示は1/28まで)
明治時代・19世紀 東京国立博物館蔵 (展示は1/28まで)
四条派の流れを汲む竹内栖鳳の「土筆に犬」に描かれた犬も応挙の犬の完全な摸倣。皇居に納められた襖絵の下絵なのですが、この犬が描かれた襖が皇居にあるってことなんでしょうね。
歌川広重 「名所江戸百景・高輪うしまち」
江戸時代・安政4年(1857) 東京国立博物館蔵 (展示は1/28まで)
江戸時代・安政4年(1857) 東京国立博物館蔵 (展示は1/28まで)
喜多川歌麿 「美人子供に小犬」
江戸時代・文化3年(1806) 東京国立博物館蔵 (展示は1/28まで)
江戸時代・文化3年(1806) 東京国立博物館蔵 (展示は1/28まで)
犬が描かれた浮世絵がいくつも展示されていましたが、こうして見ても江戸庶民の日常に犬がフツーに溶け込んでます。広重の「名所江戸百景・高輪うしまち」は“うしまち”というのに牛は描かれず、わらじでじゃれて遊ぶ仔犬が描いているのが面白い。広重の仔犬も歌麿の仔犬もコロコロとして、ちょうど時代的にも応挙の仔犬に影響されてるんだろうなと感じます。
鈴木春信 「犬を戯らす母子」
江戸時代・18世紀 東京国立博物館蔵 (展示は1/28まで)
江戸時代・18世紀 東京国立博物館蔵 (展示は1/28まで)
菊川英山 「狆だき美人」
江戸時代・19世紀 東京国立博物館蔵 (展示は1/28まで)
江戸時代・19世紀 東京国立博物館蔵 (展示は1/28まで)
狆といえば、大名家や大奥で人気だったという江戸時代を代表する愛玩犬。狆を抱いているというだけでセレブ感が漂いますね。春信の黒い小型犬はなんでしょうか。子どもが母親の後に隠れてるのは犬をおっかながっているのかな?
橋本周延 「江戸婦女」
明治時代・19世紀 東京国立博物館蔵 (展示は1/28まで)
明治時代・19世紀 東京国立博物館蔵 (展示は1/28まで)
橋本周延(楊洲周延)の肉筆浮世絵「江戸婦女図」にも狆が。江戸の風俗を描いた作品ではありますが、女性の顔はいかにも明治期の美人画という感じです。着物の柄がまた実に細かい。
伝・夏珪 「山水図」
中国・南宋~元時代・13~14世紀 東京国立博物館蔵 (展示は1/28まで)
中国・南宋~元時代・13~14世紀 東京国立博物館蔵 (展示は1/28まで)
ほかにも英一蝶の雑画帖や酒井抱一の絵馬も良かったのですが、こちらは撮影禁止。中国絵画の模本の狗図などもあった中、なぜか夏珪(伝)の「山水図」があって、ここにも犬が描かれているそうです(すぐに見つけましたが)。ほとんどウォーリーを探せ状態(笑)。
「染付子犬形香炉」
江戸時代・19世紀 東京国立博物館蔵 (展示は1/28まで)
江戸時代・19世紀 東京国立博物館蔵 (展示は1/28まで)
「緑釉犬」
後漢時代・2~3世紀 東京国立博物館蔵 (展示は1/28まで)
後漢時代・2~3世紀 東京国立博物館蔵 (展示は1/28まで)
犬の陶磁器もいくつか。愛らしい仔犬の香炉は平戸焼。口と耳からお香の煙が出るみたい。「緑釉犬」は不細工な感じがどこか愛嬌があって憎めないですね。
「犬形置物」
19世紀 東京国立博物館蔵(ライプツィヒ民族学博物館寄贈) (展示は1/28まで)
19世紀 東京国立博物館蔵(ライプツィヒ民族学博物館寄贈) (展示は1/28まで)
磁器の街として知られるドレスデンで作られたといわれる犬型の置物。スパニエルでしょうかね。目にはガラス玉がはめられているそうです。
「釈迦金棺出現図」(国宝)
平安時代・11世紀 京都国立博物館蔵 (展示は1/28まで)
平安時代・11世紀 京都国立博物館蔵 (展示は1/28まで)
つづいて国宝室。ここ数年、お正月に決まって公開されていた長谷川等伯の「松林図屏風」が今年はお休み。今年は平安時代後期を代表する仏画「釈迦金棺出現図」が展示されてます。横2mを超える大変大きな仏画で、お釈迦様が入滅し摩耶夫人が嘆き悲しんでいると、お釈迦様が身をを起こし母のために説法したという仏教説話を絵画化したもの。色も良く残っていて、金銀による彩色や色のぼかしなど、大変丹念に描きあげられたものであることが分かります。単眼鏡で覗くと、描かれている人物や動物に名前らしきものも記されています(背景の色や着物の柄に交じったりして分かりづらい)。
左:「釈迦金棺出現図(部分)」、右(参考):伊藤若冲 「象と鯨図屏風(部分)」
右下によもや若冲の白象が!若冲はこうした仏画の図像を参照してるんでしょうね。
「鳥獣戯画断簡」(重要文化財)
平安時代・12世紀 東京国立博物館蔵 (展示は2/4まで)
平安時代・12世紀 東京国立博物館蔵 (展示は2/4まで)
山崎董詮模写 「鳥獣戯画模本(甲巻)」
明治時代・19世紀 東京国立博物館蔵 (展示は2/4まで)
明治時代・19世紀 東京国立博物館蔵 (展示は2/4まで)
常設展(総合文化展)にも関連企画の展示があります。本館3室<宮廷の美術>には「鳥獣戯画断簡」と「鳥獣戯画甲巻 模本」。「鳥獣戯画断簡」は甲巻の一部だったとされるもので、昨年重要文化財に指定されたばかり。模本は、東博本断簡につづく部分とされる場面が展示されていました。
伝・狩野元信 「楼閣山水図屏風」(重要美術品)
室町時代・16世紀 東京国立博物館蔵 (展示は2/4まで)
室町時代・16世紀 東京国立博物館蔵 (展示は2/4まで)
「梅樹禽鳥図屏風」
室町時代・16世紀 東京国立博物館蔵 (展示は2/4まで)
室町時代・16世紀 東京国立博物館蔵 (展示は2/4まで)
<禅と水墨画>には元信と伝わる「楼閣山水図屏風」。昨年の『狩野元信展』には出品されてない作品で、真体による松や岩、山稜の描写が正信から元信にかけての表現を感じます。一方となりにあった「梅樹禽鳥図屏風」は元信の三男・狩野松栄周辺で活動した狩野派の絵師によるとされるもの。梅の木の曲がりくねり方が松栄の息子・永徳が聚光院に描いた「梅花禽鳥図(四季花鳥図襖)」の梅の大樹を彷彿とさせます(ちょうど反転してる)。
亜欧堂田善 「浅間山図屏風」(重要文化財)
江戸時代・19世紀 東京国立博物館蔵 (展示は2/4まで)
江戸時代・19世紀 東京国立博物館蔵 (展示は2/4まで)
7室<屏風と襖絵>には江戸後期の洋風画を代表する亜欧堂田善の「浅間山図屏風」。よくよく見ると油絵なんですね、これ。手前から奥へ丘や山を重ねていく遠近感、油絵の独特の色彩、洋風画なのに屏風というのもユニーク。
安土桃山時代の筆者不詳の「宮楽図」は中国の宮廷風俗を描いた作品。恐らく狩野派なのでしょう。京狩野の狩野永敬の「十二ヶ月花鳥図屏風」は昨年も同じ時期に出てましたね。ほかの作品を展示してくれたらよかったのに。
伊藤若冲 「松梅孤鶴図」
江戸時代・18世紀 (展示は2/4まで)
江戸時代・18世紀 (展示は2/4まで)
8室<書画の展開>には若冲のおめでたい鶴図。若冲らしい独特のフォルムの鶴と、松なのか何なのか最早よく分からない松が面白い。ここでは酒井抱一の「五節句図」、英一蝶の「大井川富士山図」、宋紫石の「日金山眺望富士山図」、田中訥言の「十二ヶ月風俗図屏風」も印象的。
「縄暖簾図屏風」(重要文化財)
江戸時代・17世紀 個人蔵 (展示は1/28まで)
江戸時代・17世紀 個人蔵 (展示は1/28まで)
<浮世絵と衣装>には、初期風俗画の「縄暖簾図屏風」。立兵庫の遊女が小犬を追って暖簾から顔を覗かせています。縄暖簾と御簾という組み合わせが不思議ですが、左側の御簾は後補だそうで、もともとは男性が描かれていたのではないかと思われているとのこと。『源氏物語』の一場面を下敷きに描かれているそうです。
横山大観 「無我」
明治30年(1897) 東京国立博物館蔵 (展示は2/12まで)
1階18室<近代の美術>には大観の「無我」と「松竹梅」の屏風。今年、東京近代国立美術館で大観生誕150年の大々的な回顧展が開かれますが、今の時期に並んでいるということは、この「無我」は東近美には出ないんでしょうか? それとも大観展の話題作りの意味で出てるのかな?
ここではほかにも今尾景年の「鷲猿」や柴田是真の「雪中の鷲」、橋本雅邦の「狙公 」、近代洋画では小林万吾の「門付」が印象的でした。青木繁の代表作「日本武尊」や平櫛田中の彫刻なども展示されています。
浅井忠 「グレー風景(黄昏)」「仏国モンクールの橋」
明治34年(1901) 東京国立博物館蔵 (展示は2/12まで)
明治34年(1901) 東京国立博物館蔵 (展示は2/12まで)
浅井忠 「フランス風景」「グレー風景」
明治34年(1901) 東京国立博物館蔵 (展示は2/12まで)
明治34年(1901) 東京国立博物館蔵 (展示は2/12まで)
その中で目を惹いたのが、浅井忠が留学先のフランスで描いた水彩画。フランス留学前の、“脂派(やには)”と呼ばれていた頃とは全然違う、明るく優しい色合いと柔らかな光が印象的です。
平成館の考古展示室、東洋館をぐるりと回って、お昼前。午後に用事があったので、法隆寺宝物館と黒田記念館は今回パスしましたが、今年もお正月からトーハクを堪能してきました。
【博物館に初もうで】
2018年1月2日(火)~1月28日(日)
開館時間、休館日、作品の展示期間など詳しくは東京国立博物館のウェブサイトでご確認ください。
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