山種美術館開館50周年記念として山種美術館が所蔵する江戸絵画の名品を紹介する特別展です。
サブタイトルに『岩佐又兵衛から江戸琳派へ』とありますが、又兵衛と江戸琳派という狭い範囲に的を絞ってるわけではありませんし、まして又兵衛と江戸琳派には何の繋がりもないので、ちょっと誤解されそうですね。展覧会もあってタイムリーな又兵衛と山種美の江戸絵画コレクションの中心となる江戸琳派を看板にしたということなんでしょうけど。実際には、古くは宗達にはじまり、琳派や又兵衛作品のみならず、狩野派や土佐派、文人画、円山四条派に至るまで幅広く江戸絵画を集めています。
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入口を入ったところに展示されているのが、人気の若冲。伏見人形はその名の通り伏見稲荷の土産物で、布袋様とのことなのですが、若冲が描くと布袋も石峰寺の五百羅漢も変わらないというか、みんなおおらかで、ほのぼのとした表情になって愛らしいですね。
伊藤若冲 「伏見人形図」
寛政11年(1799) 山種美術館蔵
寛政11年(1799) 山種美術館蔵
まずは琳派。宗達の下絵と光悦の書のコラボの「鹿下絵新古今集和歌巻断簡」と「四季草花下絵和歌短冊帖」があって、まぁ山種で琳派というと必ず出てくるので何度も観てますが、いいものはいい。「短冊帖」は18点中17点を展示(スペースの関係?)。千羽鶴や浜松、朝顔、萩、藤など、光悦の書と宗達の琳派の図様のコラボレーションにため息が出ます。
抱一が一番多くて、6点出品されています。山種美術館の創立者・山崎種二が酒井抱一の絵を観たことがきっかけで美術品の蒐集を行うようになったとかで、山種美術館にとってはとても所縁の深い絵師なんだそうです。「飛雪白鷺図」と「菊小禽図」は現在は軸装ですが、もとは十二ヶ月花鳥図屏風だったのではないかと考えられているとか。降下する白鷺は先日出光美術館で観た能阿弥と等伯の牧谿様の白鷺を思い起こさせます。
酒井鶯蒲 「紅白蓮・白藤・夕もみぢ図」
江戸時代・19世紀 山種美術館蔵
江戸時代・19世紀 山種美術館蔵
本阿弥光甫(光悦の養子の子)の「藤・牡丹・楓図」の三幅対の図様を写したという抱一の弟子・酒井鶯蒲の「紅白蓮・白藤・夕もみぢ図」も素晴らしい。光甫の同作は先日まで東京国立博物館の常設展に並んでいたのでご覧になられた方も多いのでは。構図はほぼ同じですが、牡丹や楓の色合いを工夫し、より“抱一風”なものにしています。
伝・俵屋宗達 「槙楓図」
江戸時代・17世紀 山種美術館蔵
江戸時代・17世紀 山種美術館蔵
会場の一角に屏風が4点あるのですが、本展ではここのみ写真撮影可になってます(会場で≪写真撮影に関するお願い≫という紙がもらえますので、注意事項に従いましょう)。
初めに宗達と伝わる「槙楓図屏風」。光琳も模写した有名な屏風ですが、光琳本は重要文化財であるのに対し、こちらは指定なし。でも継承された琳派の古典として重要。左下に“対青軒”と朱文円印があり、恐らく工房作なのかもしれません。
酒井抱一 「秋草図」
江戸時代・19世紀 山種美術館蔵
江戸時代・19世紀 山種美術館蔵
鈴木其一 「四季花鳥図」
江戸時代・19世紀 山種美術館蔵
江戸時代・19世紀 山種美術館蔵
江戸琳派では、洗練された草花の表現とデザイン化された銀泥の月が印象的な抱一の「秋草図屏風」、主張の強い鮮やかな花々が絵師の強い個性を感じさせる其一の「四季花鳥図屏風」が並びます。其一では「伊勢物語図 高安の女」という作品も出品されてて、初期の作品でしょうか、其一には珍しい伊勢絵でなかなか興味深かったです。
伝・土佐光吉 「松秋草図」
江戸時代・17世紀 山種美術館蔵
江戸時代・17世紀 山種美術館蔵
やまと絵からは江戸初期の土佐派を代表する土佐光吉の「松秋草図屏風」。金屏風に堂々と描かれた永徳ばりの松の大木に、一見アンバランスな瀟洒な秋の草花。金碧障壁画の時代的流行の中、どのように土佐派らしい様式美を表現するか、苦心しているようなところも感じます。
岩佐又兵衛 「官女観菊図」(重要文化財)
江戸時代・17世紀 山種美術館蔵
江戸時代・17世紀 山種美術館蔵
又兵衛は会場の真ん中あたり。「官女観菊図」も何度か拝見していますが、今年は久しぶりに『岩佐又兵衛展』が開かれるということもあって、特別にフィー チャーしてるのでしょう。女性たちの相貌が又兵衛の特長とされる豊頬長頤で、一見白描画のように見えますが、唇には紅をさし、背景に薄く金泥を刷いていたりします。画題は『源氏物語』で、描かれているのは「賢木」の六条御息所と娘・斎王ではないかという説を紹介していました。本作は本展終了後、福井の『岩佐又兵衛展』に出品されます。
風俗画では、桃山から江戸初期にかけての風俗を思わす「輪踊り図」が興味深い。何かの絵巻の断簡でしょうか。狩野派は少ないですが、江戸狩野の常信が2点と京狩野の永岳が1点。
「竹垣紅白梅椿図」(重要美術品)
江戸時代・17世紀 山種美術館蔵
江戸時代・17世紀 山種美術館蔵
屏風では作者不詳の「竹垣紅白梅椿図」と「源平合戦図」がなかなかの傑作。「竹垣紅白梅椿図」は右隻は屏風下部に竹垣を描いてるのに対し、左隻は弧を描き宙に浮くような配置で、その大胆な構図が面白い。それ以上に興味深いのは竹垣に紅白の梅が絡む取り合わせと、竹垣や梅、その葉の写実的な描写。巧みに陰影がつけられていて立体感があります。構図は琳派をおもわせますが、筆致は異なり、幹や葉の表現に智積院の長谷川派による障壁画を思い浮かべたのですが、素人にはそれ以上は皆目見当もつかず。どういった絵師が描いているのかとても興味が湧きます。
「源平合戦図」は右隻が一ノ谷の合戦、左隻が屋島の合戦。金雲だけでなく地面も金というこだわりよう。義経八艘飛びや那須与一、敦盛最期、安徳天皇など名場面が多く描かれていて見どころの多い作品です。
岸連山 「花鳥図」
江戸時代・19世紀 山種美術館蔵
江戸時代・19世紀 山種美術館蔵
つづいて文人画。ここでは山本梅逸が文人画、花鳥画、仏画とそれぞれ趣きを異にする作品があっていい。あまり馴染みのない絵師ですが、日根対山も興味深く、「四季山水図」が春と秋は彩色、夏と冬は水墨で表現し、とりわけ冬のモノトーンの美しさが格別。
椿椿山の文人画の筆法で描かれた真景図「久能山真景図」は参道を行く2人の姿が印象的、池大雅の指頭画「指頭山水図」は長閑な山水の風景が大雅らしいおおらかなタッチで描かれています。そのほか、秋暉らしい濃厚で精緻な孔雀と中国画を思わす岩の表現が秀逸な「孔雀図」、バラが絡みつく松が面白い岸駒の弟子・岸連山の「花鳥図」など。
横山大観 「喜撰山」
大正8年(1919) 山種美術館蔵
大正8年(1919) 山種美術館蔵
ミュージアムショップを挟んで反対側の第2室は横山大観や上村松園など近代日本画を展示。折角なら第2室も江戸絵画にしてくれればいいのに。
山種美術館に通う人には大半はよく見る作品ですが、さすが50周年記念展ということもあって名品展といった趣きです。なかなかの見応えでした。
【江戸絵画への視線 -岩佐又兵衛から江戸琳派へ-】
2016年8月21日(日)まで
山種美術館にて
江戸絵画の不都合な真実 (筑摩選書)
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