2016/05/28

美の祝典 Ⅱ 水墨の壮美

出光美術館で開催中の『美の祝典 Ⅱ -水墨の壮美』を観てきました。

出光美術館開館50周年記念展の第2弾。今回のテーマは“水墨画”。出光美術館が誇る水墨画と南画のコレクションの中から選りすぐりの傑作を展観していきます。

『水墨の壮美』の出品数は35点。その内、国宝が1点、重要文化財が11点、重要美術品が5点。ほかにも出品リストや図録には掲載されていない工芸品が数点出品されています。

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まず目に飛び込んでくるのが能阿弥の「四季花鳥図屏風」。マルチな才能に溢れた室町時代の絵師・能阿弥の代表作で、制作年の分かる水墨屏風としては最古だといいます。

右隻には叭々鳥と白鷺と燕、左隻には鴨と鴛鴦と鳩などが描かれ、鳥たちの楽園といった趣き。水墨の妙技と相俟って穏やかで静謐な空間を創り上げています。牧谿作品から多くを引用しているそうで、“牧谿づくし”と解説されていました。

能阿弥 「四季花鳥図屏風」(重要文化財)
応仁3年(1469) 出光美術館蔵

もうね、牧谿、玉澗、能阿弥、等伯へと連なる水墨画の流れが何といっても素晴らしいのです。 牧谿の「平沙落雁図」は京都国立博物館、根津美術館所蔵と同じ「瀟湘八景図」の現存する4幅のうちの一つ。京博、根津のものは過去に拝見していますが、出光所蔵の本作は初見。これが観られるなんて涙ものです。ごくごく薄い墨で夕暮れの大気の微妙な流れを表現していて、群れ立つ雁が得も言われぬ風情を醸し出しています。牧谿では略筆の「叭々鳥図」もいい。

牧谿 「平沙落雁図」(重要文化財)
中国・南宋時代 出光美術館蔵

玉澗もまた味わい深い逸品。墨の濃淡で深山幽谷を表現し、杖を突きつつ山を登る旅人を墨でちょんちょんと加えています。この佇まいが素晴らしい。

ほかに中国画では、徐祚の「漁釣図」がいいですね。細く硬いタッチの線で、大きな葦の下でぼんやりと釣り糸を垂らす漁夫。何を考えてるんだろうと、ついついこちらも想像してしまいます。

玉澗 「山市晴嵐図」(重要文化財)
中国・南宋時代末期~元時代初期 出光美術館蔵

等伯は2点あって、「竹鶴図屏風」と「松に鴉・柳に白鷺図屏風」。どちらも牧谿の「観音猿猴図」など牧谿作品を参考にしているといいます。能阿弥の「四季花鳥図屏風」も等伯の「松に鴉・柳に白鷺図屏風」も牧谿に倣ってるからか同じ白鷺を描かれてるのが面白いですね。

奥のスペースには狩野元信の「西湖図屏風」があって、これがまたいい。横へ展開する西湖の風景と垂直の岩山の構図が印象的。近景・中景・遠景を描き分け、まるで真体のお手本のような教科書的な巧さがあります。ほかにも伝周文の詩画軸、雪舟の破墨山水図も見どころ。

長谷川等伯 「松に鴉・柳に白鷺図屏風」
桃山時代 出光美術館蔵

そして本展の目玉である「伴大納言絵巻」。
今回は中巻を展示で、眼目は子どもの喧嘩。一つの場面に、取っ組み合いをする子ども、駆け寄る親、片方の子どもを足蹴りする親、母親に連れてかれる子どもというように喧嘩の様子がまるで4コマ漫画なように描かれています。これは先日観た「信貴山縁起絵巻」の尼公巻にもあった異時同図法という表現方法。活劇のように動きがあって、隅々まで表現にこだわっていて、人々の表情が豊かで素晴らしい。

「伴大納言絵巻(中巻部分)」(国宝)
平安時代 出光美術館蔵

絵巻という括りでは、「北野天神縁起絵巻」の室町時代の模写絵もあるのですが、ここでは同じ天神縁起に由来する「天神縁起尊意参内図屏風」が出色の素晴らしさ。菅原道真の祟りを鎮めるため宮中に向かう僧侶が雷雨で荒れ狂う賀茂川を法力で開いて牛車で急ぎ渡るという場面で、疾走する牛の迫力やスピードを表すため少し楕円に描かれた車輪、荒れ狂う川の様子、人物の的確な線描といった卓越した表現が見られます。2扇に牛車をまとめることで、ダイナミックな動きが生まれて、焦眉の急を要する様子が伝わってきます。

「天神縁起尊意参内図屏風」(重要美術品)
室町時代 出光美術館蔵

南画がまた出光傑作選といった趣き。浦上玉堂の「雙峯挿雲図」や田能村竹田の「梅花書屋図」、富岡鉄斎の扇絵など、これまで出光で観て気に入った作品や印象に残っていた作品も多く、また先日松濤美術館の『頴川美術館の名品』で観て気になっていた山本梅逸や岡田半江の作品もありました。

青木木米は陶磁の茶器がいくつかあって、小振りで品のある白磁の急須や青磁の壺もあれば、海老や蟹、魚などが描かれた赤絵のかわいい煎茶椀もあって、木米の趣味の良さに感心します。「白泥煙霞幽賞涼炉・炉座」は涼炉の中に舞姿の中国の女性がいて、なかなか手の込んだ逸品。

浦上玉堂 「雙峯挿雲図」(重要文化財)
江戸時代 出光美術館蔵

最後には池大雅と与謝蕪村の見事な屏風が並んでいて壮観。大雅の押絵貼の「十二ヵ月離合山水図屏風」は12図それぞれが独立してるようで実は連続した一枚の絵のようになっていて見応えあり。微妙な色合いや濃淡で季節の移り変わりを表しているのも面白い。蕪村の「山水図屏風」はいかにも蕪村らしい勢いと澱みないタッチ、豊かな山々の眺望が愉しめる傑作。

池大雅 「十二ヵ月離合山水図屏風(右隻)」(重要文化財)
明和6年(1769)頃 出光美術館蔵

与謝蕪村 「山水図屏風」(重要文化財)
宝暦13年(1763) 出光美術館蔵

こうした水墨の風情ある作品はあまり混んでる中で観たくないので、日曜日の閉館前の時間に訪問しましたが、今回も幸いに人もまばらで、ほとんど独占状態で観られました。観る方にとっては嬉しいことなのですが、こんな素晴らしい傑作の数々があまり人の目にも触れないのももったいない気がします。


【開館50周年記念 美の祝典 Ⅱ -水墨の壮美】
2016年6月12日(日)まで
出光美術館にて

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