2015/12/31

2015年 展覧会ベスト10

いやいやいや今年ももう終わりですよ。いつものことながらあっという間ですね。
そこで今年も1年を振り返り、展覧会ベスト10を出してみました。

拙ブログでは展覧会に限ると、今年は77のエントリーがありました。観たもののブログに書けずじまいの展覧会もあって、現代アートや写真は語れないので書いていないのが多いのと、観てもあまり興味を覚えなかった展覧会は書いてない(Twitterでつぶやいていてもブログに書いていないものがあれば、あゝつまらなかったんだなと思ってください(笑))ので、そうしたものを入れると恐らく100は超えるんじゃないでしょうか。博物館・美術館に足を運ぶ回数も毎年どんどん多くなります。仕事やプライベートのことを考えるともう限界。。。

昨年のベスト10は日本美術の展覧会ばかりを選んでしまったので、今年はバランスよく西洋美術も入れようと思ったのですが、西洋美術系は結局ひとつだけになりました。あくまでも極私的な趣味のベスト10なのでお許しください。

もう先月ぐらいから今年は何が良かったか、いろいろ思い返していて、それでもなかなかまとまらず毎日頭の中で変わるので、仕舞いには集計とって平均を出そうかと思ったぐらい。今年は(も)難産でした。

2015年のベスト10はこんな感じです。
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1位 『白鳳 -花ひらく仏教美術-』(奈良国立博物館)


正直1位、2位は非常に迷ったのですが、ここまでの内容はもう観られないだろうなというところで、こちらを今年の一番としました。遠く奈良まで観に行ったわけですが、もしこれを見逃していたら、後悔してやまなかったと思います。飛鳥でも天平でもない白鳳仏というところがまた絶妙な位置で、奈良時代以降の写実的にも完成されていく仏像の手前の、大陸様から和様化への過渡期の仏像の面白さ、清新さ、プリミティブさを堪能させていただきました。素晴らしかったです。


2位 『月映展』(東京ステーションギャラリー)


作品の持つ魅力といいましょうか、その幻想性や抽象性、デカダンスなムード、そして色のトーンや拙くも繊細な彫り線、全てが愛おしく、その虜となりました。これまで大正ロマンというと、たとえば竹久夢二のような女性的なイメージがあって、避けて通ってきた部分があったのですが、同じ時代に、しかも夢二に少なからず影響を受けているにもかかわらず、こうした傾向の作品があったことも驚きでしたし、なにより『月映(つくはえ)』の3人の友情や版画誌にかける情熱に胸が熱くなりました。


3位 『桃山時代の狩野派』(京都国立博物館)


わたし的にはドストライクの展覧会だったということもあるのですが、永徳と探幽の間にあって飛ばされがちな時代をガッチリ抑えていて、永徳を観たぐらいで桃山絵画を語っちゃダメだよねということを強く思った展覧会でもありました。桃山時代の狩野派というと、ダイナミックでゴージャスというイメージがありますが、それだけではない繊細で優美な世界を知ることができました。


4位 『水-神秘のかたち』(サントリー美術館)


今月観たばかりなので、後期展示を観てから来年の対象にするか迷ったのですが、ブログ記事も書いてますし、何より大変素晴らしかったのでランクインさせました。テーマ性のある企画展って、企画は面白くてもなかなか作品が揃ってなかったりというものも多いのですが、本展はテーマもしっかりしてるし、美術品として優品も多いし、とりわけ“水”にまつわる信仰・宗教的な観点からも見るべきものが多くあり、非常に優れた展覧会だと思います。さすが“水と生きる SUNTORY”。


5位 『春画展』(永青文庫)


春画の好き嫌いは別として、日本画や浮世絵の美術展史上画期的な展覧会であったということと、永世文庫の英断に拍手を送るという意味で、ベスト5に入れました。浮世絵を語る上で春画を外せないのは明らかなのに、春画をないものとして浮世絵を語っていた時代にようやく終わりが来たのだなという感慨とともに。確かに春画はもともとがもともとなので、どうしてもそれは生々しいわけですが、春画といえど手を抜かない絵師たちの技巧やレトリックも愉しめましたし、何より春画を広く許容した江戸の文化や風俗にとても強い関心を覚えました。


6位 『鴨居玲展』(東京ステーションギャラリー)


鴨居玲の作品がどんなものかを知っていても、これだけの数の作品を時系列で追いながら観ていくと、彼の作品世界に入り込んでしまいますし、彼の思いというものも強く伝わってきます。正直ズシリと重く、直視するのも辛いものがあったのですが、とても心に響く展覧会でした。 絵を描くとはこんなにも苦しく壮絶なものなのかと思わずにいられませんでした。東京ステーションギャラリーのレンガ壁の雰囲気がまたよく合ってましたね。


7位 『琳派 京を彩る』(京都国立博物館)


どうしても数年前の『大琳派展』と比べてしまいがちになるのですが、どーんと物量で見せた『大琳派展』と異なり、“京都”の琳派であることを強く意識させてくれた展覧会になっていたと思います。当然のことながら光悦・宗達・光琳の充実度は素晴らしかったですね。琳派イヤーにふさわしい展覧会でした。


8位 『久隅守景展』(サントリー美術館)


その実力の高さは見聞きしていても、なかなか全貌のつかめなかった久隅守景によくぞスポットをあててくれたと感謝の一言です。探幽の弟子にして実は探幽臭さをあまり感じさせないところも面白かったですし、「四季耕作図屏風」や「納涼図屏風」に代表されるような、人間味溢れるまなざしと表現の豊かさ、おおらかな雰囲気が格別なことに加え、動物を描いた作品に見られるユーモラスさにも強く惹かれました。これまた観る機会の少ない娘・清原雪信の作品をたくさん観られたのも嬉しかったです。


9位  『マグリット展』(国立新美術館)


マグリットの絵が大好きということもあるのですが、時代ごとに満遍なく、代表作を含め良い作品がたくさん集められていて、ボリュームもありましたし、期待以上に満足度の高いマグリット展だったと思います。


10位 『江戸の悪』(太田記念美術館)


歌舞伎には“色悪”“実悪”という言葉があるように悪役を魅力的に描くことがよくあって、当然歌舞伎を題材にすることの多い浮世絵にもそれらは描かれていて、そうしたものだけをピックアップしているので、魅力的な悪役が揃うわけですよ。これは企画の勝利で、また太田記念美術館の充実したコレクションの中から見せてくるのものだから、“悪”を楽しいと言ったらいけませんが、とても楽しい展覧会でした。図録がなかったのがただ残念。




そのほか、『小杉放菴展』『若冲と蕪村』『舟越保武彫刻展』はどうしてもベスト10に入れたいと思いつつ最終的に次点となってしまいました。ほかにも今年印象に強く残った展覧会として、日本美術では『片岡球子展』『着想のマエストロ 乾山見参!』『MOMATコレクション 藤田嗣治、全所蔵作品展示。』『肉筆浮世絵-美の競艶』、西洋美術では『新印象派展』『ワシントン・ナショナル・ギャラリー展』『プラド美術館展』はとても良かったと思います。

ちなみに今年アップした展覧会の記事で拙サイトへのアクセス数は以下の通りです。
1位 『鳥獣戯画-京都 高山寺の至宝-』
2位 『マグリット展』
3位 『春画展』
4位 『月映展』
5位 『世紀末の幻想』
6位 『ヘレン・シャルフベック展』
7位 『モネ展』
8位 『片岡球子展』
9位 『鴨居玲展』
10位 『ワシントン・ナショナル・ギャラリー展』


今年を振り返ると、上期は『鳥獣戯画展』、下期は『春画展』がかなり大きな話題になり、いろいろと考えさせることも多くありました。日本美術ブームの盛り上がりは増す一方で、来年は『若冲展』も控え、どれだけ行列ができるのかと早くも話のネタになっています。『鳥獣戯画展』では観たくても作品を観られない高齢者や身障者の姿も見かけました。日本美術ファンには高齢者も多く、高齢者など弱者に負担をかけない鑑賞環境という点ではまだまだ改善の余地がありそうだと感じます。いつまでも無策では済まされないので、たとえば日本もそろそろ海外の美術館のように混雑が予想される展覧会には時間制チケットの導入を考える時期が来てるんだろうなと思います。

『春画展』は日本では開催不可能だろうと半ば諦めていましたし、事実どこも企画を受け入れてくれる美術館はなかったといいますが、こうして大きな問題なく幕を下ろし、さて次はどのような形で“春画”が紹介されるのか気になるところです。海外では娼婦やサド、男性ヌードといったセクシャルなテーマの展覧会が話題になっているようですが、日本はいまだに男性のヌード写真に布を被せなくていはいけないような社会なので、今後こうしたテーマの展覧会が日本でどのように展開されていくのか興味があります。

わたし自身は残念ながら拝見できませんでしたが、東京都現代美術館の会田誠さんの作品の騒動も今年を象徴する話題だったと思います。今年はいろんな意味で展覧会のあり方が変わっていく転換点だったのかもしれません。

日本美術に限れば、東博が日本美術の展覧会に積極的でない今(来年は日本美術の特別展もあるようですが)、京博が心の拠り所(笑)になっていたのですが、旧本館が休館し、今後“平成知新館”だけでどのように展覧会を開いていくのかも気になります。そんな中、サントリー美術館に好企画が多く、今年は例年以上に足を運びました。ここは学芸員さんがほんとよく企画を練って、見せ方を考えているなといつも感心します。

来年は来年で期待の展覧会がいくつもあるので、どんな素敵な作品に出会えるか今からワクワクしてますし、またどんな知られざる画家や作品に出会えるか楽しみでたまりません。あとは仕事があまり忙しくならないのを祈るばかりです。

拙いサイトにも関わらず、今年も一年間足をお運びいただきありがとうございました。来年ももっとたくさん展覧会を観て、いろいろとご紹介できればと思っています。
来年もどうぞよろしくお願いいたします。


【参考】
2014年 展覧会ベスト10
2013年 展覧会ベスト10
2012年 展覧会ベスト10


美術館の舞台裏: 魅せる展覧会を作るには (ちくま新書)
美術館の舞台裏: 魅せる展覧会を作るには (ちくま新書)

2 件のコメント:

  1. 明けましておめでとうございます。
    トラックバックさせていただきました。

    「白鳳」展、見たかったです…

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    1. SHさん、あけましておめでとうございます。
      トラックバックいただきありがとうございます。
      「白鳳展」巡回がなかったのが残念でしたね。
      これからもよろしくお願いします!

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