2015/02/22

新印象派展

東京都美術館で開催中の『新印象派展』を観てまいりました。

印象派の流れを受けて、1880年代後半に新しい潮流として生まれた“新印象派”。本展は、スーラ、シニヤックに始まる新印象派の初期作品から、多様に展開していく1890年代、そしてマティスの登場までを追っています。

国内外の美術館や個人蔵など、24の画家の作品約100点が紹介されています。新印象派の作品だけでこれだけ揃うとなかなか壮観です。

休日に行ったのですが、結構な人が美術館に吸い込まれていて、「えっ、そんなに混んでるの?」と思ったら、別の展示室で開催していた盆栽展と公立学校の美術展でした。『新印象派展』は開館前は少し並んでいましたが、館内ではゆっくり観られました。会期末は混雑しそうですが。


プロローグ 1880年代の印象派

まずは新印象派の前段としての印象派から。ルノワールでもセザンヌでもマネでもなくモネが展示されているのは、シニャックが1880年のモネの個展をきっかけに画家を志したというエピソードがあるからみたい。「税関吏の小屋・荒れた海」はブリヂストン美術館にある「雨のベリール」のように荒れた海が印象的。でもこちらは晴天。筆のタッチも細かく色面を構成していて、点描の出現を予感させます。

クロード・モネ 「税関吏の小屋・荒れた海」
1882年 日本テレビ放送網株式会社蔵

ほかに8回の印象派展すべてに参加した唯一の画家というピサロや、シニャックが若いころ最も尊敬していたというギヨマンの作品、またスーラの初期の作品も。スーラはクールベやミレーあたりを意識しているような感じで少し意外でした。


第1章 1886年:新印象派の誕生

最後の印象派展は1886年。印象派の誕生から僅か十数年で、印象派の画家たちと入れ替わるようにスーラとシニャックが作品を発表したというのが象徴的です。ここではスーラやシニャックの作品を始め、この時期の印象派を代表するピサロやモリゾも紹介されています。

ジョルジュ・スーラ 「セーヌ川、クールブヴォワにて」
1885年 個人蔵

スーラと言えば、「グランド・ジャット島の日曜日の午後」。さすがに来日はしてませんが、その習作が4点ほど展示されています。習作は色彩分割は徹底されてなかったりして、実際の作品(写真でしか見たことありませんが)への過程が見えて興味深いです。

ジョルジュ・スーラ 「《グランド・ジャット島の日曜日の午後》の習作」
1884年 オルセー美術館蔵


第2章 科学との出会い-色彩理論と点描技法

新印象派の点描が印象派の“筆触分割”をさらに押し進めた末に生み出されたことはよく知られていますが、ここでは新印象派の画家たちに大きな影響を与えた当時の最新の光学理論や色彩理論の書籍、またその理論に則った作品を紹介。視覚混合の原則や補色の法則を実践したルイ・アイエの作品が興味深い。緻密でロジカルで、だけど軽やか。よく考えられているなと思います。

会場にはスーラとシニャックのパレットが展示されていて、絵具がまるでカラーチャートのように並んでいるのが印象的でした。


第3章 1887-1891年:新印象派の広がり

新印象派というと、スーラ、シニャック、ピサロぐらいしか知らなかったのですが、ほかにも魅力的な画家(軍人にして画家という異色の経歴を持つデュボワ=ピエや北方系新印象派を代表するフィンチ、オランダに新印象派を広めたトーロップ、ピサロの息子リュシアン・ピサロなど)が多くいることを知ることができたのも新しい発見。色彩の変奏が心地いい。

ポール・シニャック 「髪を結う女、作品227」
1892年 個人蔵

「髪を結う女、作品227」は絵具の劣化を懸念したシニャックがエンコースティック(蝋画)で描いた点描画。あくまでも実験の域を出なかったのか、しっくりいかなかったのか、エンコースティックは以後制作しなかったそうです。

ヤン・トーロップ 「マロニエのある風景」
1889年 ドルドレヒト美術館蔵

アルフレッド・ウィリアム・フィンチ 「ラ・ルヴィエールの果実園」
1890年 アテネウム美術館蔵

個人的には北方系と紹介されていた新印象派の作品群がとても好きでした。繊細な光の捉え方とその柔らかなトーン。フィンチの作品は点描がまるでモザイクのようで、独特の明るさを生み出していて素晴らしい。トーロップの「マロニエのある風景」の夕暮れやリュスの「ルーヴルとカルーゼル橋、夜の効果」の夜の灯りは最早自然な光でなくなっているのが興味深く思います。


第4章 1892-1894年:地中海との出会い-新たな展開

スーラの死後の新印象派。南仏に拠点を移したシニャックやクロスにつづき、北方系の新印象派画家だったリュスやレイセルベルヘも南仏で絵画制作に励んだのだとか。

ポール・シニャック 「サン=トロペの松林」
1892年 宮崎県立美術館蔵

ここでは南仏のムード満点のリュスの「サン=トロペの港」や、より様式化され、どこかアールヌーヴォーの影響も感じさせるクロスの作品が目を惹きます。特に印象的だったのが肖像画が得意だったというロジェの作品で、服や体のラインは単純化され、点描も控え目(でも細かい)。静かな存在感を放っていました。

アシール・ロジェ 「アストル夫人の肖像」
1892年 カルカッソンヌ美術館蔵


第5章 1895-1905年:色彩の解放

この頃になると新印象派の画風にも変化が現れます。より感覚的な色彩や表現、装飾性も目立ち、光や色彩の描写もどこか観念的というか、過剰さすら感じます。後期の新印象派を代表するクロスはルネサンス以降の絵画にある古代ギリシャの理想郷を描いた作品を思い起こさせ、どこか象徴主義絵画のよう。

アンリ=エドモン・クロス 「地中海のほとり」
1895年 個人蔵


エピローグ フォーヴィスムの誕生へ

クロスからマティスへ、そしてフォーヴィスムへ。最後は色彩がどこまでも自由になり、それがフォーヴィスムへ繋がっていく過程が、僅か十数点の作品ではありますが、説得力を持って感じられます。

アンドレ・ドラン 「コリウール港の小舟」
1905年 大阪新美術館建設準備室蔵

ピサロは、過去の印象派の画家を「ロマン主義的印象派主義者」、スーラやシニャックといった新印象派の画家を「科学的印象主義者」と語ったといいます。点描が一見テキトーに見えて実はとても研究された色彩配置だということがこの展覧会を観ているとよく分かりました。新印象派の作品を通し、印象派からフォーヴィスムへの繋がりも見え、オススメの展覧会です。


【新印象派―光と色のドラマ】
2015年3月29日まで
東京都美術館にて


ピサロ: 永遠の印象派 (「知の再発見」双書)ピサロ: 永遠の印象派 (「知の再発見」双書)


ジョルジュ・スーラ―点描のモデルニテジョルジュ・スーラ―点描のモデルニテ

0 件のコメント:

コメントを投稿