2015/01/11

東山魁夷と日本の四季

山種美術館で開催中の『没後15年記念 東山魁夷と日本の四季』に行ってきました。

国民的画家として今も人気が高い現代日本画家の大家・東山魁夷。本展は、東山魁夷の作品を中心に、魁夷の師にあたる画家の作品や、魁夷とともに皇居宮殿の障壁画等を手がけた日本画家の作品を紹介しています。

わたし個人は、実は東山魁夷の作品は正直あまり好きでなく、展覧会で彼の作品を観ることは割と多いものの、単独の展覧会にこれまで足を運んだことはありませんでした。

でも、日本画好きとしては、ただ嫌いで済ますのではなく、そこはちゃんと観ておかないといけないといけないですよね。はい、そう思って、伺って参りました。


第1章 風景画家への道

会場に入ってすぐのところには蔵王の樹氷を描いたという「白い嶺」。下から見上げるような大きく白い山容が蒼く澄んだ夜空に映えます。

ここでは魁夷の作品と共に、魁夷が師事した結城素明や川合玉堂、また義父の川﨑小虎の作品を展示。玉堂は4作品すべてが一昨年の『川合玉堂展』に出品されていたものでしたが、素明や小虎のそれほど観る機会もないので、有り難かったです。小虎の「草花絵巻」の淡い色彩がいいですね。

川合玉堂 「渓雨紅樹」
昭和21年(1946) 山種美術館蔵


第2章 《満ち来る潮》と皇居宮殿ゆかりの絵画

皇居の新宮殿のために描いた魁夷の傑作「朝明けの潮」の下絵や、「朝明けの潮」と同趣の作品をという山種美術館からの依頼で制作した「満ち来る潮」を展示。また、同様に新宮殿に納められた他の画家たちの作品の同趣作品等を紹介しています。

東山魁夷 「満ち来る潮」
昭和45年(1970) 山種美術館蔵

皇居新宮殿の長和殿に飾られている横14mという大作「朝明けの潮」。長和殿は一般参賀で天皇ご一家がお出ましになるバルコニーのある部屋。宮殿内でも最も横に長い部屋だそうです。そこに飾られている装飾画が東山魁夷の作品というだけで、その重要さが分かるというもの。その「朝明けの潮」を模して描いたのが、これまた横9mという「満ち来る潮」。こちらは以前にも拝見していますが、その迫力と美しさは圧巻。恐らく宗達の「松島図屏風」が念頭にあるのだと思いますが、日本人の好きな構図をよくつかんでるなと思います。

橋本明治 「朝陽桜」
昭和45年(1970) 山種美術館蔵

正殿東廊下の杉戸を担当したのが橋本明治と山口蓬春。それぞれ桜と楓を描き、その艶やかな色の美しさにうっとり。橋本明治というと芸妓を描いた作品がすぐ頭に思い浮かぶので(実際に本展にも出品作あり)、こういう花の絵というのも新鮮に感じます。蓬春の楓の色とりどりのグラデーションも面白い。

山口蓬春 「新宮殿杉戸楓 4分の1下絵」
昭和45年(1970) 山種美術館蔵

ほかに、安田靫彦の「万葉和歌」がいい。千草の間に納めた「万葉集歌額」に書かれた草花や鳥の歌10首から7首を選び、色美しい料紙に万葉仮名と草仮名でしたためたもの。安田靫彦自らの筆によるものだそうですが、非常に能筆というか、印象的な美しい字で驚きました。


第3章 京洛四季 ― 魁夷が愛した京都の四季

「京都は、今描いていただかないと、なくなります。 京都のあるうちに、描いておいてください」
会場の一角に掲げられていた川端康成が東山魁夷に送った手紙の一節が強く胸に響きます。その言葉に京都を訪れ描いた作品が「年暮る」だそうで、しんしんと降る雪の京都の町並みに今は失われた郷愁を強く掻き立てられます。

東山魁夷 「年暮る」
昭和45年(1970) 山種美術館蔵

 「夏に入る」のちょっと可愛らしささえ感じさせるモダンなセンス、「北山初雪」の整然とした北山杉が織りなす美しさもいいなと思います。

東山魁夷 「夏に入る」
昭和42年(1967) 市川市東山魁夷記念館蔵

東山魁夷 「北山初雪」
昭和43年(1968) 川端康成記念会蔵


第4章 四季を愛でる

今回の展覧会で一つ選ぶとしたら、「白い朝」。大雪の止んだ朝の冷たい空気。ときどきドサッと雪が落ちる音が聞こえてくるだけの静寂。羽根を膨らませ寒さにじっと耐える一羽の鳩。なんとなく長い冬の終わりを感じます。こういう作品も描くんだと、魁夷作品への苦手意識がかなり薄れたような気がします。

東山魁夷 「白い朝」
昭和55年(1980) 東京国立近代美術館蔵

奥の別室には、<魁夷とともに歩んだ画家たち>というテーマで、同時代の山本丘人、杉山寧、高山辰雄などの作品を紹介。杉山寧の「朝顔図」や森田沙伊の「ポピー」などが印象的でした。


【没後15年記念 東山魁夷と日本の四季】
2015年2月1日(日)まで
山種美術館にて


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