2014/12/29

ホイッスラー展

横浜美術館で開催中の『ホイッスラー展』に行ってきました。

ホイッスラーの作品は美術展ではたびたび見かけることがあって、今年も『オルセー美術館展』『ザ・ビューティフル』『華麗なるジャポニスム展』などで拝見する機会があり、一度まとめて観たいなと思っていたところでした。

本展は京都から巡回しての展覧会。日本でも割と人気のある画家だと思うのですが、日本での回顧展は実に27年ぶり、世界でも約20年ぶりなのだそうです。

約130点の出品作品のうち、半分がエッチングやリトグラフなど版画の作品で、油彩画は30数点、ほかに水彩画や習作、また絵筆や眼鏡、お皿などホイッスラーの旧蔵品も展示されています。


第1章 人物画

会場に入ってすぐのところに飾られていたのがホイッスラー38歳のときの自画像。ホイッスラーはアメリカ人ですが、幼少期をロシアで過ごし、その後もロンドンやパリで活動をしたいたこともあり、とてもヨーロッパ的。風貌もエレガントなロンドンの画家という感じです。ちょうど画家として名声を得た頃の作品ということで、その表情も自信に満ちているようです。

ジェームズ・マクニール・ホイッスラー 「灰色のアレンジメント:自画像」
1872年頃 デトロイト美術館蔵

ほかにも20代前半の頃の油彩画や、24歳のとき初めて出版したエッチング集(「フレンチ・セット」)など初期の作品も充実しています。クールベの写実主義の影響もあって、前半期の作品は隅々までしっかりと描きこまれ、筆運びも丁寧なのが印象的です。

ジェームズ・マクニール・ホイッスラー
「灰色と黒のアレンジメント No.2:トーマス・カーライルの肖像」
1872-73年 グラスゴー美術館蔵

『オルセー美術館展』で感銘を受けた作品の一つ、 「灰色と黒のアレンジメント第1番」のバリエーション作品もありました。解説によると、「母の肖像」が好評で、それと同じ構図で描いて欲しいというリクエストだったのだとか。この色合い、静謐さ、写実性。個人的にはこの頃の作品が一番好きかも。

【参考】ジェームズ・マクニール・ホイッスラー
「灰色と黒のアレンジメント第1番:母の肖像」
※本展には出品されていません

今回のホイッスラー展で発見だったのは女性を描いた肖像画がとても良かったということ。その中で「ライム・リジスの小さなバラ」は茶褐色のトーンと少女の幼げだけど意志をもった瞳が印象的です。隣にあった「リリー:楕円形の肖像画」もいい。

ジェームズ・マクニール・ホイッスラー 「ライム・リジスの小さなバラ」
1895年 ボストン美術館蔵

晩年の「赤と黒:扇」にもシビれました。真紅のドレスと黒いストール(?)のコントラスト。日本画の影響もあるのでしょうか、ストールはまるで墨で掃いたような粗い筆遣い。素晴らしい。

ジェームズ・マクニール・ホイッスラー 「赤と黒:扇」
1891-94年 ハンテリアン美術館蔵


第2章 風景画

ホイッスラーの風景画は、丁寧な筆致とリアリズムな画面が印象的な50~60年代前半の作品、薄塗りのタッチと色彩感が出てきて独自の画風を確立していく60年代後半以降の作品、それぞれに魅力があります。

ジェームズ・マクニール・ホイッスラー
「オールド・ウェストミンスター・ブリッジの最後」
1862年 ボストン美術館蔵

ホイッスラーの海景画もいくつかあって、クールベとも違うホイッスラーらしい情景と丁寧な筆致が印象的です。後期の水彩画も「チェルシーの通り」のように温かみのある色合いの作品もあったりして、どうしても「ノクターン」などのイメージが強いせいか、こういう作品も描くんだなと意外でした。

エッチングも初期の「テムズ・セット」とその約20年後に手がけた「ベニス・セット」が面白い。メリヨンの版画を思わせる繊細で写実的な「テムズ・セット」、「ノクターン」とも通じる神秘的で詩趣溢れる「ヴェニス・セット」。画風の違いも分かります。

ジェームズ・マクニール・ホイッスラー 「チェルシーの通り」
1888年 イェール大学英国芸術センター蔵


第3章 ジャポニスム

最後は“ジャポニスム”。途中にホイッスラーがデザインした、フレデリック・レイランド邸のダイニング・ルーム<ピーコック・ルーム>を再現した部屋があり、これが見もの。現在はアメリカのフリーア美術館に移築されているそうですが、<ピーコック・ルーム>を撮影した映像が壁三面に大きく映し出され、その美しさに圧倒されます。ピーコックグリーンと金色、また孔雀の羽模様などで装飾された部屋は唯美主義を象徴する部屋とされ、ホイッスラーが勝手にデザインしレイランドを激怒させたものの、生涯レイランドは部屋を改装しなかったという気持ちが分かる気がします。

ジェームズ・マクニール・ホイッスラー 「白のシンフォニー No.3」
1865-67年 ハーバー美術館蔵

ほかに絵画では、ラファエル前派の影響を受けた「白のシンフォニー」シリーズの2作品「白のシンフォニー No.2」と「白のシンフォニー No.3」がやはり素晴らしい。オリエンタル・ペインティングの「紫とバラ色:6つのマークのランゲ・ライゼン」や浮世絵の影響を感じさせる「リンジー・ハウスから見たバターシー・リーチ」などもいい。

ジェームズ・マクニール・ホイッスラー
「ノクターン:青と金色-オールド・バターシー・ブリッジ」
1872-75年 テート美術館蔵

「ノクターン」シリーズの作品などで、特に浮世絵の構図を模した作品は、その元ネタとなる広重や清長、北斎らの浮世絵が並んで展示されていて、“ジャポニスム”の影響を分かりやすく解説しています。「青と銀色のノクターン」なんて浮世絵というより、ほとんど水墨画の世界ですね。

ジェームズ・マクニール・ホイッスラー 「青と銀色のノクターン」
1872-78年 イェール英国芸術センター蔵

展示がテーマ別で、その中でざっと年代順になってますが、特に作風の変遷にこだわって並べていないので、その点が分かりにくいかなという感じを受けました。また、代表作は多いものの、油彩画の展示数が少ないので一部には物足らなさが残るかもしれません。それでもこれだけホイッスラーの作品をまとめて観る機会は久しぶりのようですし、自分は新しい発見もあったので、ホイッスラーの好きな人なら観ておく展覧会だと思います。


【ホイッスラー展】
2015年3月1日(日)まで
横浜美術館にて


ホイッスラー (アート・ライブラリー)ホイッスラー (アート・ライブラリー)

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